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銀白の魔術師  作者: 波留
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02話 「ウルバーノ准教授の勧誘」




「メリチェル・ビエントくん」


 癖のない黒い長髪を揺らし、教科書を両腕に抱え込んで廊下を歩いていた肌白の少女。その彼女に考古学の授業全般を受け持つ教授ウルバーノは声を掛けた。

 彼女が振り向くのと同時に、微かに香るヘリオトロープの花の匂いが何とも心地よい気持ちにさせる。


「……呼び止めてしまってすまないね。君にお願いがあるのだが、いいかな?」


 彼女は小首を傾げると、ウルバーノを見上げた。

 それほど背が高くない彼女と、教授の中では比較的高い分類に入るウルバーノではその体格差は大きい。同世代の子より頭一つ分ほど低い彼女を見下ろすようなかたちで、ウルバーノは話を続けた。


「つい先週、提出してもらった『古代魔術と祭祀遺跡に関する研究』についての論文なのだが、はなはだ私も考えさせられてね。毎度のことながら、私自身君の鋭い指摘を買っているのだよ。今度の学会で是非とも君に参加してもらいたいと思ってね。……無理にとは言わないが、古代魔術考古学研究サークルに入らないか?」


 メリチェルは二、三度瞬きをした後、目を丸くして彼を見た。

 今年新しく准教授として学園に就任したウルバーノは、新人でありながら教師として素晴らしい熱弁をふるうということで、まだ一握りではあるが生徒からも他の教師からも着々と支持率を高めていた。現に彼の行う講義は、聴講生の数を少しずつ増やし、今では他の校舎で学ぶ学生までもが授業を覗きに来ている。

 自分の研究に崇高な信念を持って、教壇に立ち連日教鞭を執る彼にメリチェルも好感を抱いていた。


「どうかね?」


 ウルバーノはメリチェルの答えを期待しているようであった。


「ウルバーノ先生、とても嬉しいお誘いありがとうございます。……ですが、すみません。どうしても、放課後は用事があってサークル活動は厳しいんです。以前から、古代魔術考古学研究サークルには興味があったのですが……」


 メリチェルがそう言葉を続けた瞬間、彼はとても残念そうな顔をした。そして、「そうか」とひとり呟く。メリチェルは申し訳なさそうに表情を歪めた。


「……君は他の教授からも高く評価されているようだね。三学年に上がった暁には、私のところで一緒に研究に励んでくれないか。君みたいな優秀な生徒がいてくれたら何とも心強い。今すぐに決めてくれとは言わない。だが、考えておいてほしい。それから、私が受け持つ古代魔術考古学研究サークルは別に放課後を強制として取り組んでいなくてね。休憩時間でも顔を出してくれれば、全然かまわない。一回だけでも顔を出してみないかな?」


 じっと見つめられてメリチェルは内心「うっ」とした。やはり、やり手の教師である。ちょっとのことでは、めげない。


「ああ、そうだ。メリチェルくん。明日の私の講義の後はちょうど昼休みだ。君さえ良ければ、私が古代魔術考古学研究サークルを案内しよう」

「…………はい、わかりました。その、覗くだけいいですか」


 メリチェルはウルバーノの熱意に負けた。そして、折れた。

 彼は「では、決まりだ」と言い残すと、意味ありげな頷きをひとつ残しメリチェルの進行方向とは逆の方に立ち去って行った。その後ろ姿は、とてもるんるんとして見えた。


 メリチェルはため息をついた。

 これといって目立つようなことをメリチェルはした覚えがない。ただ、一学生として真面目に講義に参加し、魔術師を目指して日々励んでいるだけである。だが、そんな様子が教授たちの目に引っかかってしまうようでメリチェルの気持ちは複雑になる。


(……真面目だから、いけないのかしら?)


 時々、メリチェルはそう感じる。と、感じても、いまさら学園の生徒である「メリチェル・ビエント」の印象を変えることができるほどメリチェルは器用でもなく、自身の勉学に手を抜くことだけはしたくなかった。彼女の夢は魔術師になること、それだけである。


「――ビエントさん、あなたにお話があるのだけれど、ちょっとよろしくて?」


 メリチェルは大きなため息をつく。振り向くと今度はそこに、環境学の教授の姿があった。

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