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銀白の魔術師  作者: 波留
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01話 「謎の人物“K”」

2014年7月21日より編集及び執筆再開始しました。過去に掲載した作品においてかなりの変更がある予定です。




 掲示板の前に立つ人の群れを掻き分けて、栗色の髪をした小柄な少年は前へと出た。上がった息を調えると、彼は項垂れていた体をガバッと起き上がらせ、前のめりに目の前に貼られた一枚の長方形の紙をまじまじと見る。

 その筆記試験上位者が書き出された紙には、左側から順位、学籍番号、総合得点が書かれていた。その張り紙をじっと見つめ、上から順に追っていく彼の視線は次第に下がり、二十ほどの欄を飛ばした後、ある個所で視線が止まる。紙の中間より拳三つぶんほど上位にあるその四桁の番号を確認した後、彼は唇を噛みしめると悔しそうに拳を握りしめた。


24_05K-2305 985

25_05B-2045 981


 並んだ順番を何度も確認した。その差はたったの4点。その下の番号は、紛れもなく自分のものである。そして、一つ上位にある番号は鬱陶しいほどよく目にするK-2305その番号だった。


「……お前は一体誰なんだ?」


 本来なら上位者として名が上がるはずもない、落ちこぼれ組としてあるような階級――Kは、いわゆる勉学にも励むことなく遊んでばかりいる学園のお荷物連中のことだ。学園の規模が大きいだけにKの階級を持つ者は極めて少数であり、大半はすでに学園を退学しているかただ何もせず遊び呆けているか、停学処分をくらって学園すら来ていないか、いずれに当てはまる者がほとんどである。しかし、このKは違った。年齢、性別、魔術の系統、寮生なのかそうではないのか、不詳ばかりのことがありすぎる上に、Kの存在は誰にも知られていない謎深き人物なのである。


「くそっ、」


 ロレンツォはその場で地団駄を踏んだ。悔しい、その言葉に限る。

 何より気にくわないのは、よりにもよってこの階級Bの僕と総合点を競っていること。S~Kまである階級の中でも、一番下位のKである奴と競っているのだ。己の自尊心は深く傷つけられ、実家の両親に顔合わせできやしない。たかが4点の差、されど4点。でも、今回も負けたのだ、Kに。

 いまだかつてKを抜いたことがない。そのことが拍車をかけて、ロレンツォをさらにイラつかさせる。


「Bのトップと競るKって――というか、なんでKなんだよ!」


 階級Aに優るとも劣らない自分を差し置いて、高得点を取り続ける謎の人物Kは一体誰であるのか。一時期熱をあげて、学園全体がKの存在を求め、「K狩り」をした時期もあった。が、結局手がかりは何一つ見つからず、無駄な時間だけが過ぎていった。

 Kは今もなおこの学園のどこかにいるのは確かだ。だが、どんなに熱心に探そうとしても見つけ出せないことも事実。

 Kの試験結果を見ただけでも、一般教養含めた知識と魔術に関しての学識、どの分野をとっても優れた人物であることには違いなく、知能の高さは文句なしでBもしくはAにも届く実力の持ち主であるには違いなかった、にも関わらず、なぜ入学時の際にKの階級の烙印を押されてしまったのか。Kに関しての一番の疑問点がそれである。


「……もうじきだ、K。絶対に、僕がこの手でお前の正体を突き止めてやるからな!」


 階級は学年ごとに変わる。一年間のうちに、いくらK階級の人物だからといって、これだけの成績を叩き出せば自ずと高位の階級が与えられるに違いないはず。ロレンツォだって、魔術の腕前は並よりかろうじて達者であるだけだが、入学試験を良成績で突破した結果、Aの特待生は無理であっても優秀なBの階級に留まることができた。Kはおそらく入学試験の際にしくじったに違いない。

 A、Bのさらにその上位にあるS階級では、特に身分や家柄を重視され、かつその中でも優秀な者だけしかその階級をもらえることができない。庶民出のロレンツォにはすでにSに上がれることはないし、端から眼中にない。しかし、BはもちろんAの中でも負けずと劣らない成績をとっている彼にとって最も下位であるKに筆記試験で負けることだけはやはり許せないのである。

 階級がAかBになれば、自分と講義で同席することが多くなる。学舎が一緒なのだ。階級別に合わせて、教育課程が編成されているため、Kの階級の連中と一緒の講義を受けることはまずない。階級が上位になるほど魔術の使用制限はより厳しいものになるが、その分高度な知識と技術を身に付けられるようになる。Kが階級を上り詰めてくれば、さらなる正当な密度の濃い授業が受けられ、ロレンツォと対等に正々堂々と勝負ができる。階級がK止まりである以上、ロレンツォはKの存在を認めたくなかった。何としてでも、Kには自分のいる階級までのぼりついてもらいたかった。

 様々な理由から、K階級の学生たち名簿リストは手に入らなかった。しかし、その他の階級の者たちのリストはすべて把握済みである。一学年400人近い学生がいる中で、その資料を集めるのは至難の業であったが、全神経を費やし、あらゆるルーツをたどって手繰り寄せた個人情報はもはやロレンツォにとって格好の武器であった。

 Kがどんな人物なのか、それを知る時期は近い。

 ロレンツォはひとり満足そうに頷いた。

 彼は来た時と同じように人混みを掻き分け、その場を後にしたのであった。

文章の打ち間違いがあり、一箇所修正しました。

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