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沙夜と弓

今回は少し短いです。

謁見の次の日、あたしは武器庫で選んだ黒い弓を持って弓兵の演習場に来ていた。

「誰だお嬢ちゃん?ここはあんたみたいなやつが来る所じゃないぜ」

弓兵の1人があたしに話しかけてきた。

「対勇者のサヤ・クロタニよ。ここで弓の訓練をするよう王から手配されてるはずだけど?」

あたしがそう答えると弓兵は納得したような顔をした。

「ああ。あんたが例の…。あそこが空いてるから好きに使ってくれ」

弓兵はかなり年期が入った的を指差した。チートがあるから壊れても被害が少ないようにしてるのね。

「わかったわ」

あたしは指示された方に向かって歩いた。


「本当に弓を使えるのか?」

「覚醒したからって使える物じゃないぜ?」

周りから雑音が聞こえるけどどうでもいい。あたしは気にせずに弓を構えた。

「何だあの弓の構え方。所詮素人か」

失礼ね。れっきとした弓道の構え方よ。そっちのやり方とは違うことくらいわかってるけどね。

「というか弓自体何か違わないか?」

なかなか鋭いわね。この弓はどちらかと言うと和弓に近いわ。反りがあるし、上の方が長くて下の方が短くなってるの。素材はよくわからないけど使い心地はなかなかの物ね。次にあたしは弓掛けを整えてから左手で弓を持った。そして矢と弓を持った手を高く掲げてから矢をつがえた。

「矢の持ち方も違うが、慣れた動作に見える。あの三本指の手袋も指を守るためにつけているようだ」

正解。弓道の持ち方だと弦が指に食い込んで痛めてしまうこともあるの。それを防ぐために弓掛けという手袋をつけるってわけ。あたしはそれから弓を引き絞った。

「ってそこまで引っ張るのかよ」

まあ耳の後ろまで引っ張ったらそういう反応になるわよね。他の人たちは首元までしか引っ張ってないもの。そして弓を引き下ろす。人差し指で的の中心を照準に入れて、姿勢を整えて…放つ!

「ふっ」

矢は的の中心を貫通して木を貫きながら森の彼方に消えていった。


「……」

周りに沈黙が漂った。

「…正直異世界チートを甘く見てたわ。これなら狙撃だけじゃなくて射線上の敵を一掃するのにも使えそうね」

剛弓の使い手は鎧をまとった相手をまとめて倒したって何かで読んだけど…。そんなことがあたしができるようになるなんて思いもしなかったわ。

「ふっ」

もう一度矢を射ると寸分違わず空いた穴を通過した。

「おまけに安定性が段違いだわ。その分狙いがつけやすくなってる。腕力だけじゃなくて足腰や背筋力までかなり上がってるわね」

おまけに飛んで行った矢の軌道もはっきり見える。魔力は込めてないから千里眼の効果は発動してない。それでこれだと千里眼を使ったらどうなるのかしら?


「な、なあ」

撃ち方を微妙に調整しながら体の感覚とこれまでの経験を擦り合わせてると1人の弓兵が話しかけてきた。

「何?」

心を静めてあたしは矢を的の穴に向かって射た。矢は寸分の狂いもなく穴を通る。

「そんなに腕がいいのはやっぱり覚醒したからなのか?」

ああ、そのこと。気になるのはしかたないかもね。

「あたしは弓道っていう競技をやってるの。的に矢を中てる競技なんだけど、なんか弓を射ることで精神を鍛える意味合いがあるらしいわ。あたしにもよくわからないけどね」

あたしはまた矢で穴を射抜いた。

「…おれたちもそのキュウドウをやったらもっと弓がうまくなるのか?」

別の弓兵が真剣な声で聞いてた。

「あまりお薦めはしないわ。弓道はあたしが持っているみたいな和弓を使うものなの。同じ長弓でも性能や用途が違うのよ」

あたしはまた矢を穴で射通した。矢は全く穴の周りをかすることなく通過する。さすがにここまで外れないと自分でも怖くなってくるわ。

「そうか…」

弓兵は落ち込んだ声で言った。


「まあそれでも弓道の精神論くらいは学べるかもね」

あたしは弓掛けを整えながら答えた。

「精神論?」

「ええ。心を静めて集中して、来るべき時に全力で解き放つ。そういう精神を身につければこの部隊はもっと強くなれるかもね」

あたしはまた穴に射掛けた。矢は穴の中をすごい勢いで通過した。

「ま、戦場のことはもちろん弓道を極めたわけでもないただの女子高生が言うことでもないけどね。エースとか呼ばれてるし、インターハイに出場したことはあるけど本来なら本職の軍人に勝てるほどの実力はないもの」


あたしが答えてしばらくたつと、なぜか弓兵たちがあたしの周りに集まってきた。

「何?」

あたしが横目で見ると弓兵たちは敬礼した。

「「どうかあなたを姐さんと呼ばせて下さい!!」」

…なんか変な舎弟みたいなものができちゃったみたいね。あたしってこれでも割と慕われてるのよね。まあこいつらとは違った意味で慕う人もいるけどね。

「好きにしなさい」

放った矢は全く乱れずに穴に吸い込まれていった。


ほとんどウィキペディアで調べました。多分中世ヨーロッパの弓を扱う人が弓道を見たらこんな反応じゃないかと思います。何か間違いがあれば指摘して下さい。

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