表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/55

世界の基礎知識

「ふむ。どうやら自分に合う武器を見つけたようだな」

武器選びが済んだヒカリ、サヤ、カネダの3人が再びで玉座の間に集まった。おれとメイドのノーラ・ナクノットも国王の前にいるのは、武器選びの時手伝っていたからだ。

「今日はもう休んでよい。明日から武器と魔法の訓練をしてもらう。誰か習いたい者はおるか?いなければこちらで用意するが」

国王の言葉にサヤがこっちに視線を送った。

「あたしと光は魔法はイドルに教えてもらいたいと思うわ」

サヤがとんでもないことを言い出した。

「よかろう。武器の方はどうする?」

「あたしは弓兵隊と一緒にやればいいとして…。光はどうすればいいかしら?」

サヤは首をひねって考え込んだ。

「おれの知り合いにヤマトの剣術を使う者がいる。共に稽古をすれば学べることもあるだろう」

「そう言えばあんた普通に刀って言ってたわね。実物見たことあるんなら当然か」

サヤは思い出したように言った。

「そのような人がいるなら私も助かります」

ヒカリはおれの提案に素直に頷いた。


「して、お主はどうする?」

国王はついでと言う感じでカネダに聞いた。当然ながらあまり期待されてないみたいだな。

「ぼくは自分で見極めたいと思います」

見極める、か。見極めた結果があの微妙な大剣だしな。ろくでもない相手に教わることも考えられる。

「左様か。よい師が見つかるとよいな。では下がってよいぞ」

国王の言葉を受けておれたちは玉座の間を後にした。


「何でおれに魔法を教わりたいなんて言い出したんだ」

玉座の間を出てからおれはサヤに聞いてみた。

「だってあんた魔法陣に詳しいじゃない。それに魔法使いとしての腕も相当高いしね」

サヤは自信を持って言い切った。

「え、何でそんなことがわかるんですか?」

「チェリルや護衛に比べて魔法陣を書くのにかかった時間も、魔法陣が出てから発動するまでの時間が圧倒的に早かったからよ。巫女ってことは高度な教育を受けてたでしょうし、巫女なんていう重要人物の護衛を任せられるってことはかなり腕が立つはずよ。そこから考えるとイドルが優れた魔法使いって考えるのは当然よ」

…サヤはよく見てるな。魔法のことはよくわからないのにそこまでわかるとかやっぱり頭がいいな。

「…おれのやり方は一般的な魔法理論とかけ離れていて複雑な物だ。後で普通に魔法陣だけを教えてくれればよかったとか泣き言を言われても責任はとれないぞ?」

おれの言葉にサヤは不敵な笑みを浮かべた。

「上等じゃない。しっかり指導しないと承知しないからね」

「ご鞭撻の程よろしくお願いします」

ヒカリはおれにペコリと頭を下げた。こういう所に性格の違いが出てくるな。


「それでどうする?このまま休むか?」

おれはヒカリとサヤに問いかけた。

「あたしはこの世界のことを調べたいと思うわ」

「私も一緒に調べたいです。この世界のことは何も知らないですし。よければイドルさんも来てくれませんか?何かあったら質問できますし」

ヒカリはおれの目をじっと見てきた。

「ああ。いい」

「よくありません課長。仕事が溜まっています」

秘書のルーシーがいつの間にか来ていた。

「勇者に協力するのも立派な仕事だと思うが?」

「そうかもしれませんが書類を溜め込んでもいいことはないですよ。後で困るのは課長自身です」

ルーシーはそう言ってメガネをクイッと上げた。

「…図書室で書類を片付ける。平行して質問を受け付ける。ルーシーも勉強の手伝いをする。それでいいな」

おれが答えるとルーシーは微笑んだ。

「よろしいです。では一緒に行きましょう」

…こいつ最初からそのつもりだったのか。


「誰この紫髪のメガネ美人?」

サヤはおれをジト目で見ながら言った。

「私はルーシー・シクタレリ。イドル課長の秘書をしております」

ルーシーはサヤに完璧なお辞儀を返した。

「秘書…ねえ。その割には親密だし、忠誠心以外の何かが垣間見えるんだけど」

少し話しただけでそこまで読み取るか。無関心なようでよく人を見ているな。

「それはそうでしょう。私は課長の一番のファンですから」

ルーシーは真顔で言った。

「ファン、ですか?」

ヒカリが不思議そうな顔をした。

「はい。学生時代にマスター・オブ・ウィザードトーナメントで初出場で数多の有名魔法使いを圧倒して優勝した時からのファンです。去年殿堂入りした時は部下として特等席で観戦させていただきました」

ルーシーは熱く語り出した。

「マスター・オブ・ウィザードトーナメントって?」

「それぞれの国から代表となる魔法使いを選び、世界最強の魔法使いを決める大会です。強力な魔法使いがいることは国力を証明することになります。課長はそんな大会で無傷の三連覇を成し遂げ殿堂入りしたのです」

ルーシーはすごい勢いでまくし立てた。

「そんな大会で殿堂入りするとかすごいのね」

「すごいなどと言う一言で言い表せるものではありません。あれはまさに魔法革命と言うべきものです。課長は群雄割拠の時代の中に彗星のごとく現れ、魔法使いの頂点の座をあっと言う間に勝ち取られました。健在な限り他国に攻め込まれることはなく、一度動けばどのような大国も即座に頭を垂れる。史上最も偉大なる魔法使い、それがイドル・マギスニカ様なのです!」

ルーシーは恍惚とした顔でマシンガントークをした。

「そ、そう。そんな憧れの相手の秘書になれたんだから嬉しかったでしょうね」

サヤが若干引きながら言った。

「もちろんです。イドル様の秘書となるために日々研鑽を積んで来ました。そして私は魔法陣課課長イドル・マギスニカの秘書になっているというわけです」

ルーシーはそう言ってからメガネを直した。

「では仕事に戻りましょう。図書室に案内します」

ルーシーは一瞬で秘書の顔に切り替わって歩き出した。


「あの、あたしたちもその魔法革命とか言う物をできるようになるんでしょうか?」

ヒカリがおずおずと聞いてきた。

「難しいだろうな。まずルーシーが言っていることをやるのには魔法陣に対する知識が必要だ。魔王軍が侵略しつ来ているのにそこまで叩き込んでいる時間はない。それに君たちにとって魔法は補助的な物でありあくまで攻撃手段の1つだろう。そっちが疎かになってしまっては本末転倒だ」

「そうですか…」

ヒカリはショボーンとしてしまった。

「安心しろ。基礎はしっかりと叩き込んでやる。誰がカネダに教えるかは知らないがあいつよりはうまく魔法が扱えるようになることは保証する」

おれの言葉にヒカリは顔を上げた。

「はい!」

ヒカリの瞳には嬉しさと恐れが同居していた。魔王を倒すのに力を手に入れられるのは嬉しいが、その分敵を傷つけないといけなくなるからだろう。誰かを救うために傷つき、それでも誰かを救うのを止めない。かなり難儀な生き方してるな。こんな優しいやつに勇者としての役目を押し付けないといけないなんてあまりにも不甲斐ない。

「……」

サヤは首を振って悲しげに微笑んだ。サヤも本当は止めたいんだろう。でも止められないことはわかってるから側で支えようと決めたんだろうな。おれに今できることはヒカリが死なないように鍛え上げることだ。ならその役目を全うするしかないな。



「ここが図書室です」

ルーシーが冷静に説明した。

「それじゃおれは仕事するから何かあったら言ってくれ」

今回は書類にハンコを押していく仕事だ。一応内容は確かめるがほとんどは流れ作業だ。

「えっと、国の説明を見る限りここってサミュノエルって国よね?勇者召喚術で有名だって書いてあるし」

「はい。主に栄えてるのは商業と貿易です。近隣諸国はもちろんヤマト、シン、海の向こうの大国とも交流が進んでいます。召喚陣を応用した大規模転移陣が置かれているので一度に多くの人や物資をやり取りできるのです」

ルーシーの言葉にサヤは訝しげな顔をする。

「それだと転移陣を奪われたら色んな所から総攻撃を受けることにならない?」

「その可能性は低い。転移陣を通れるのは転移マーカーがついた人と荷物だけだからな」

おれの言葉にサヤは首をひねった。

「その転移マーカーを奪われたらまずくない?それに魔法で転移陣をごまかすこともできるんじゃないの?」

サヤの指摘は最もだ。実際にそんなことが起こったらまずいからな。

「転移マーカーは最初に認証した者にしか使えないんだ。奪った所で何の役にも立たない。それに向こうの魔法陣をごまかせたとしてもこちらには出られないようになっている。よっぽどすごい術者じゃない限りこちらにまで干渉することはできないんだ」

「セキュリティは厳しいってわけね。よっぽどのイレギュラーが起きない限り大丈夫そうだわ」

サヤは気を取り直して読書に戻った。


「あの、本に魔王を倒すのには『闇のコア』を光の力で破壊する必要があるって書いてあるんですけど…。『闇のコア』って何ですか?」

勇者関連の本を読んでいたヒカリが質問してきた。

「簡単に言うと魔王の心臓に当たる物だ。『闇のコア』を持つ魔物や他の魔族の頂点に立つ魔王と言うことだ」

「『闇のコア』が王者の証ってわけね。魔王が世界征服を企んでるのも『闇のコア』のせいなの?」

サヤが読書を中断して質問してきた。

「いや、そういうわけでもない。過去に人間や多種族と友好関係を結んだ魔王は存在したし、他と交流を結ばないで内政に従事するなんて言うのはよくあるらしい。現在の魔王が多種族に宣戦布告をしたから討伐するために勇者が召喚されたということだ」

「…話し合いで解決できなかったんでしょうか?」

ヒカリは辛そうな顔をして言った。

「当然交渉しようとはしたさ。だが魔王城に入ろうとした者は容赦なく撃退された。そしてそのまま魔族に侵略を受けてるのが現状なわけだ」

「理由は何?資源?食料?それとも報復や正義のためとかいう感情論?」

普通はサヤが言う通りなんだろうな。戦争と言うのは莫大な費用がかかる。戦争を起こすのにはそれなりの理由があるはずだ。

「…各国に送られた書状を読む限りただ破壊したいってだけみたいだな」

「そんな!なぜそのようなことを?!」

ヒカリは悲痛な叫びを上げた。

「『闇のコア』を持つ魔王は強大な力を持つ。その力を魔族を従えるためだけじゃなくて周りのやつらに向けたくなった。そんな所だと思う」

「力に溺れたクズってことか。小物が身に合わない力を得た末路という感じね」

サヤは吐き捨てるように言った。

「…力とは本来何かを守るため、自分にとって大切な何かのために振るうべき物です。意味もない暴力で無力な人々を傷つけるなど何を考えているのでしょう」

ヒカリは悲しげに言った。

「確かにそれは間違ってないわ。でも人間には誰しも欲望があるものよ。強大な力を持った人の中には大きすぎる欲望に囚われて暴走してしまう人もいるの。これまで大抵の欲望は自分の持つ力で叶ってきたから歯止めが効かなくなってきてるのよ」

サヤはしみじみと言った。おれより年下のはずなのにずいぶん達観してるな。


「…欲望が暴走した強大な力を持つ魔王を止めるのが私の役目というわけですか。責任重大ですね」

ヒカリは腰のカタナに手をやって固い表情で言った。

「そう気負う必要はない。おれたちは魔王は倒せない。だが世界のために何かをしたいという気持ちは持っている。ヒカリに手を差し伸べる人もきっといるだろう」

「イドルさん…」

おれの言葉にヒカリは目を潤ませた。そんなに感極まってもらっても困るんだが。

「そこはおれが支えてやるとか言う所じゃないの?」

サヤが呆れたような目でおれを見てきた。

「おれが勇者の従者に選ばれるかどうかはわからないからな。そこまで発言に責任は持てない」

「イドルさん…」

ヒカリが何とも言えない目で見てきた。自分でも台無し感が半端じゃないからしょうがないが。

「心配しないでいいです。王の目が節穴じゃない限り課長が選ばれないはずがありません!あれは魔族にとってはかなりの脅威なのですから」

ルーシー。仕事モードが取れて来てるぞ。


「…どうでもいいけどみんな王って呼び方してるのね。普通陛下って言う敬称で呼ぶ物じゃないの?」

サヤはツッコミを放棄して聞いてきた。

「あの狸王を敬称で呼ぶと何か負けた気分になるからだ」

おれの言葉にルーシーも深く頷いた。

「はい。何分反骨心が疼いて何やらしゃくにさわりますので」

「ガキかあんたら…」

サヤは手で顔を覆いながら言った。

「「あれに反発する気持ちがなくなったら色々終わるからな(終わりますから)」」

おれとルーシーの言葉が見事にハモった。ルーシーは頬をわずかに染めておれを横目で見てくる。

「やっぱり変な王ね…」

サヤは呆れたようにつぶやいた。


それからおれはサヤとヒカリの質問に答えながら仕事をこなしていた。

「んっ?」

その中に妙な依頼を見つけたので思わず手を止めた。

「どうかされましたか?」

おれは黙ってルーシーに依頼書を見せた。

「これは…」

ルーシーは目を見開いた。さっきまで話してたことだから危険性をすぐ認識できたんだろう。

「悪いが至急王に報告しなければいけないことができた。後は自分たちでやってくれ」

おれはヒカリとサヤに一言謝って席を立った。

「仕事ならしかたないわね」

「色々教えていただきありがとうございました」

ヒカリとサヤは事情を察したのかここで中断することに文句を言わなかった。カネダと違って人間ができてるな。

「では失礼します」

ルーシーはお辞儀をしてからおれの後ろについて行った。

基礎知識と言ってもほとんど召喚された国に対する物だけです。魔族や魔物自体ということではないということにしてしまいましたがちゃんと書けるのか不安があります。でも畏れ多くもお気に入りして下さってる方もいらっしゃるのでがんばりたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ