下準備
「…よし。こんなものでいいな」
おれは砦に魔法陣を設置し終わったから魔筆を全て消した。
「相変わらずめんどくさいと言いながら徹底的にやってますね」
ルーシーはニコニコ笑いながら話しかけてきた。
「どうせ何か起こると後で対処するのはおれだからな。それなら最初にできるだけ対策をしておいた方がいいだろう」
「ふふっ。そうですね」
ルーシーはクスクス笑いながら流した。
「あ、課長。砦の修復と、攻城部隊と守備隊の交代が完了しました」
守備に着いている魔法陣課の部下がおれに話しかけてきた。
「ご苦労。引き続き砦と転移魔法陣の守備に励んでくれ。ここが勇者パーティーのアムネシア侵入の拠点になるんだから」
「あー。やっぱりそうですよね。アムネシアへの転移魔法陣を封鎖した以上、アムネシアの国境に近いここから入国するしかないでしょう」
部下はものすごい説明口調で答えた。
「そういうことだ。まあ魔法陣も設置しておいたから大体の敵は大丈夫だろう。魔法陣と属性を記しておいたから複製して全員に渡しておいてくれ」
おれは図面を部下に渡した。
「はい。ありがたく使わせてもらいます」
部下は図面を受け取って砦に戻ろうとした。
「…ちょっと待て」
「?何ですか?」
おれは振り向いた部下に小さな筒を渡した。
「魔力弾ですか?…も、もしかしてあの?!」
部下は魔力砲が何かわかって震え出した。
「だ、大丈夫なんですかこれ?!爆発とかしないですよね…」
「オリハルコン製だからさすがに大丈夫なはずだ。現に今まで爆発したことはないしな」
おれの言葉に固まる部下を見てルーシーはプッと吹き出した。
「冗談だ。魔力が溜まったら連鎖して次の魔力弾に魔力が装填されるようにしておいた。爆発した一本以外は許容量を越えてないのは確定的に明らかだ」
「結局オリハルコン砕けてるじゃないですか!どんな魔力量してるんですか…」
部下は呆れたように首を振った。
「後これは風と雷と無属性でしか発動しない。上級魔法陣を使えるやつらを優先して配っておいてくれ」
「了解。まあ使う機会がないことを祈りますがね」
部下は魔力砲を受け取って砦に戻って行った。
「よし。次は偵察に行くか」
「…そこ偵察に行っても大丈夫なんでしょうか?」
ルーシーはおれが古い紙を見ながら転移魔法陣を書いてるのを見てメガネを直した。
「大丈夫だ。あいつを敵に回してるからな」
「…課長がそう言うなら信じましょう」
ルーシーは苦笑して転移魔法陣の上に乗った。
――
「あなた、やるべきことはちゃんとわかってるわよね?」
ヴィレッタは屋敷を巡回している兵に話しかけた。
「は!お任せ下さい。何かあれば報告します!」
兵はそう言って敬礼した。
「そう。せいぜい励みなさい」
ヴィレッタは一瞥もせず廊下を歩いていった。
「ずいぶん警備に力を入れてますね」
壁を背にして立っているネルキソスがヴィレッタに話しかけた。
「あら。何か不都合なことでもあるの?」
「いいえ。私はあなたには何も隠すつもりはありませんよ」
ネルキソスはうさんくさい笑みを浮かべて返した。
「…確かにあなたの笑顔からは何の裏も読み取れないわね。あの対勇者もあなたの笑顔からは隠した感情を読むことはできないでしょうね」
「当然でしょう。私は心の底から笑っているのですから。隠してもないものを読み取るなんてできなくてもしかたありません」
ネルキソスはうさんくさい笑みを浮かべながら言った。
「まあいいわ。けどもし私を裏切ったりしたあのことをバラすから」
「ご心配なく。あなたと陛下の利害は一致してます。理由もなく裏切る真似はしませんよ」
ネルキソスはうさんくさい笑みを浮かべながら言った。
「…どうでもいいと思ってるやつの言葉を借りても説得力ないわよ」
ヴィレッタはそう呟くと自分の部屋に帰っていった。
今年初の更新です。遅れてすみませんでした。




