決戦前
「報告します。貴族派軍の先鋒は本陣と合流後、クルデタヌ侯爵邸に立てこもりました!」
伝令の兵がはっきりとした口調で報告した。
「ご苦労。引き続き何かあったら報告してくれ」
大総統は淡々とした口調で返した。
「はっ!」
伝令は勢いよく答えて部屋を出ていった。
「敵は自分の本拠地で決戦をするつもりのようだな」
大総統は冷静な口調で言った。
「まあ賢明な判断でしょう。野戦では勝ち目がない以上少しでも地の利があった方がいいですからね。そうなると貴族派閥長令嬢がやっかいですね。オークが貴族派本陣を急襲した際も彼女の指揮で撃退したらしいですし」
参謀はあごに手を当てながら言った。
「つまりその小娘を寝返らせれば怖い者などないというわけだな!」
元帥は自信ありげに言い切った。
「…それができたら苦労しませんよ。どうやって敵の指導者の娘をこちらにつかせろと言うんですか?」
参謀は呆れたような口調で元帥に言った。
「それをどうにかするのが参謀の役目だろう!」
…言ってること自体は間違ってるとは言い切れないが、現実的ではないな。正直もう参謀が手を出せる問題じゃないだろう。
「…今更そんなこと言ってもしかたないであります。我々には他に考えるべきことがありましょう?」
エリザはどこか疲れたような口調で言った。
「そうだな。そのような都合がいいことが起こるのを祈るだけ無駄だろう」
大総統が言う通りだ。おれたちがどんなに願った所で偶然幸運が舞い込んでくることはない。
「どうせ全ては予定調和なんだから」
おれの呟きは軍義の喧騒の中に消えていった。
ーー
「まさか我ら貴族派がここまで追い詰められるとは…。このままではまずいぞ!」
貴族派派閥長は情けない声を上げた。
「ご心配なく。我が頭脳とヴィレッタ嬢の統率力、そして何より勇者様の力があれば全てが私のシナリオ通りの結果に終わるでしょう」
ネルキソスはうさんくさい笑みを浮かべながら言い切った。
「そうね。敵は所詮家畜を守る牧羊犬の群れ。捕食者たる貴族派と戦えばどうなるかなんかわかりきってるわ」
ヴィレッタは扇で口元を隠しながら言った。
「まかせてくれ!ぼくが絶対みんなを守ってみせる!」
金田は胸を張って言い切った。その根拠のない自信はどこから出てくるんだろう。
「はい。信じてます勇者様。今日はもう遅いのでお休みになって下さい。決戦の前に英気を養うのも必要ですよ」
ヴィレッタは営業スマイルを浮かべながら金田にさっさと出ていくように促した。
「それもそうだね。お休みヴィレッタ」
金田は意気揚々と部屋を出ていった。
「フハハハ。まんまと騙されておるわ!あそこまでバカだともはや哀れになってくるな!」
貴族派派閥長は肥えた腹を抱えて笑い出した。
「そうね。騙されてるのも知らないで本当に滑稽だわ」
ヴィレッタは扇で口元を隠しながら答えた。
「まあその方がやりやすくていいじゃないですか。それでは私は部屋で作戦を練ってきます」
ネルキソスはうさんくさい笑みを浮かべて部屋を出ていった。
「…あいつの笑顔を見ると凍りつかせてやりたくなるわ」
ヴィレッタは扇を口に当てながら言った。
「ヴィ、ヴィレッタ?そんな縁起でもないことをいうものではないぞ」
貴族派派閥長はどこかオドオドしながら言った。
「ほんの冗談よ。そもそもやつらにネルキソスの笑顔をほんの少しでも崩すことなんかできやしないもの」
ヴィレッタは悪どい笑みを浮かべて宣言した。
今年の更新はこれで最後です。皆さんよいお年を。




