軍義の顛末
軍義の中に入って来た人物たちを見ておれは思わず額をおさえた。いくらなんでもこれはやりすぎだろう。
「お、おい。あれって冒険者ギルド長の『反鏡王』だろ」
「ああ。魔導師ギルド長の『虹魔導師』にハンターギルド長の『無穴』までいやがる。それに暗殺ギルドや盗賊ギルドみたいなやつらまでいるぞ」
軍義に参加していた兵たちは騒ぎ出した。あんな面子がいきなり来たら当然こうなるだろうな。
「静まれ!ご客人の前だぞ」
大総統の言葉に兵たちは話をやめた。
「それでギルド長直々にいらっしゃるとはどのようなご用件でしょうか?あなた方のお役に立てるとはとても思えませんが?」
参謀は探るような目付きでギルド長たちを見ながら聞いた。
「話と言うのは他でもない。賭けの配当金の護衛を我々に任せていただけないだろうか。必ずや貴族派から配当金を守り通してご覧にいれましょう」
やはりそういう話か。ギルド長たちが入って来るのを見た時点で大体予想できていた。
「…正直ありがたい申し出ではありますが、なぜあなた方が貴族派の襲撃のことを把握してるんですか?商会には口止めするよう言っておいたはずですが」
参謀はどうにか冷静さを取り繕いながら聞いた。
「…実はこんな物がギルドに届いたのだ」
『虹魔導師』はそう言って紙を差し出した。
「…大体こちらに来たのと同じ物ですね。差出人もリュベリオン伯爵だと書いてます」
参謀は口元に手を当てながら言った。
「ネルキソス・リュベリオンは我らを侮辱した!このまま引き下がっているわけにいくか!」
…どうやらギルド長たちは相当頭に血が上っているようだ。そうじゃなければあの手紙をネルキソス本人が出したなんて考えないだろう。
「なっ、ばっ、はあ、え」
…ごく一部を除けばだが、な。まあエリザだからしかたないとしか言えない。
「まさか他にもリュベ江状があったなんて…」
ヒカリは素直にネルキソスが出したと信じているようだ。言ってることの意味は正直わからないが。
「…それどこの雌ゴブリンが超進化したのよ」
サヤは呆れた様子で呟いた。サヤたちの世界の創作上のゴブリンは進化するのだろうか。
「わかりました。ギルド長方のご厚意を無駄にするのは失礼にあたりますからね。商会には報酬を弾むように言っておきましょう」
参謀は口元に手を当てながら答えた。
「待て!市民に危ない橋を渡らせるわけにはいかん!ここは我らに任せていただきたい!」
元帥は必死な様子で言った。どうやら色々な意味でギルドの介入を認めたくないという感情が先走っているようだ。
「それはできない相談だ。合法的にクソ貴族共をぶちのめせる機会を逃すわけにはいかねえんだよ!」
『反鏡王』は物騒なことを勢いよく宣言した。
「…ギルド長方もそうおっしゃっていることですし自己責任に任せるべきでしょう。ここは安いプライドよりギルドの力を利用できるメリットをとるべきかと」
参謀は口に手を当てながら身も蓋もないことを言った。
「そ、そうだ。勇者殿もギルドを巻き込むのは反対であろう?!ギルド長たちが参加しないようその権限を使ってでも止めてくれ!」
元帥はかなり意地になっているようだ。ヒカリに権限を使わせようとするのはさすがにやりすぎだろう。
「…私も本音を言うとギルドの方々に危険な目にあってほしくありません。ですがそれは王国軍のみんなも同じです。ギルドの護衛への参加を拒否しろと言うなら軍にも手を出すなと言わなければなりません。だから私には無事に護衛の任務を果たしてほしいとしか言えないです」
…かなりめちゃくちゃな理論だが微妙に筋は通ってるような気がするな。少なくとも自分の権限の怖さはわかっているようだ。
「では商会に口添えしておくから後は各ギルドで交渉してくれ。元帥もそれでよいな?」
「…はっ」
元帥は渋々ながら頷いた。
「おう!たっぷり踏んだくってやるぜ。邪魔して悪かったな!あばよ!」
ギルド長たちはこちらに頭を下げると足早に部屋を出ていった。
「では護衛はギルドにまかせるとして、我々はもう1つの問題を処理しましょうか」
参謀はギルド長たちが出ていったのを見計らって言った。
「オークの砦か。戦力に余裕があるから攻撃しても問題ないだろう」
大総統は落ちついた様子で言った。
「ならば我らにお任せを。オークの砦などすぐに畳んでごらんにいれましょう!」
『貫門』の言葉に『砕壁』、『飛ばし屋』、『蜘蛛男』たちが手を高々と挙げた。
「頼もしい限りです。そうなると新しい転移魔法陣の設置があった方がいいでしょう。城責めが得意な皆さんを配当金を運ぶ馬車と一緒に転移させれば敵も油断するでしょうし、すぐに攻められますから一石二鳥ですね」
参謀はあごに手を当てながら言った。
「ふむ。『構陣師』よ。新たな転移魔法陣の設置にはどれくらいかかる?」
…やっぱりこっちに話が回って来たか。
「設置自体にはそこまで時間はかかりませんが、新しい設置場所の吟味や転移マーカーの作成に時間がかかりますね。大体1週間程は必要でしょう」
「わかりました。その間にギルドの方々には編成と準備をやっておくように話してみましょう」
参謀は真顔で言い切った。
「…しかし砦を落とすにはオークキングは邪魔ではないか?仮にも獣王の幹部だぞ」
元帥はどこか焦った様子で言った。何とか威厳を取り戻そうとしているのかもしれないな。
「そうですね。できればオークキングにこの城を攻めさせて、その隙にオークの砦を落とすのがベストでしょうね」
参謀は真顔で宣言した。
「そうなると籠城して貴族派を城の前で留めた方がいいな。やつらも攻め落とせないとみたらオークの砦に救援要請を出すだろうしな」
ああ。きっと城攻めが始まったらすぐ出すだろうな。向こうは最初からオークキングを城攻め要因として計算するはずだ。
「となるとオークキングはこちらで処理しないといけないですね。勇者様、お願いできますか?」
参謀はヒカリを真顔で見ながら言った。
「…わかりました。私も少しはみんなの役に立ちたいですから」
ヒカリは悲壮な覚悟を滲ませた顔で言った。
「ま、そこまで気を張らなくていいわよ。城に被害さえ出なければオークキングの生死は大した問題じゃないもの。犠牲者出ない状況ならいくらでも情けをかけても構わないんじゃない?」
…それは本当にいいのだろうか。実際の所はともかく、オークキングを倒さないと士気に関わるかもしれないぞ。
「…ありがとうございます沙夜ちゃん。少し気が楽になりました」
ヒカリはそう言って儚げな笑みを浮かべた。
「後重要なのは貴族派にギルドの動きが漏れないようにすることです。オークキングに伝わったら作戦に支障をきたしますしね。『構陣師』殿の召喚獣の力を借りてもよろしいですね?」
…やっぱり話の流れでそうなるか。まあしかたないな。ギルドのことが漏貴族派にれればネルキソスは確実に城から兵を引く。そうならないようにするにはおれが一肌脱ぐしかない。
「いいでしょう。最強の布陣で足止めしてやります」
久しぶりに出し惜しみなしでやってやる。柄にもなくそんなことを考えながらおれは誰を召喚するか考えを巡らせた。
久しぶりなのにグダグダですみません。次もあまり話は進みません。




