猪突盲進
「おい、何か地響きがしないか?」
貴族派本陣の守備兵が同僚の兵に話しかけた。
「ああ。それに砂煙が上がってるような…」
守備兵たちがそう言っている間に砂煙と地響きが近づいて来た。その正体を知った時守備兵たちの間に戦慄が走った。
「お、オークだー!」
「な、何でこんな所に魔王軍が?!」
守備兵たちは本陣に報告することもできないくらい混乱していた。しかしオークは貴族派本陣に目もくれず素通りしている。どうやら貴族派と違い情報がきちんと行き渡っているようだ。
「な、なんだ。襲ってこないのかよ」
「ど、どうやら我らに恐れをなしたようだな」
そう言いながら守備兵たちはホッとしたような顔をしている。口では強がっていても内心ビビっているようだ。
「ふざけんな!おれたちなんか眼中にないってのかよ」
しかしもう1人いた守備兵はオークに無視されたのが気にくわなかったようだ。いきなりオークに向けて小石を連射し始めた。
「おら来いよブタ!貴族派が恐ろしくないならかかってきやがれ!」
守備兵は執拗に小石をオークにぶつけ続けた。
「お、おい。何でオークを刺激してんだ!」
「見逃してくれてんだから放っとけよ!」
そんな制止の声も守備兵は無視している。ここまで来るとわざとやっているのではないだろうか。
「「ぶ、ブヒーーー!!」」
しつこい攻撃にオークたちは鼻息を貴族派の本陣に向けて何かを叫びだした。
「あ?畜生の言葉なんかわからねーよ。人間の言葉を喋りやがれ!」
守備兵はオークを見下しながら無茶ブリをした。
「ブブブブヒブー!」
守備兵の罵倒にオークたちはついに堪忍袋の緒が切れたようだ。攻撃を受けた中で一番大きなオークの号令を合図に突撃してきた。
「ひ、ヒイ!こんな大軍相手にしてられるか!」
粋がっていた守備兵はそう言って本陣の前まで逃げ、岩の壁を出現させた。
「ふ、ふざけんな!この壁をどけろ!」
「これじゃ逃げられないだろうが!」
取り残された守備兵が岩の壁を叩く間にもオークたちは迫って来る。
「く、来るな!」
「ギャアアア!」
断末魔の叫びを上げて取り残された守備兵たちは全滅した。
「な、何?!オークが襲って来ただと?!」
逃げて来た守備兵の報告を聞いた貴族派派閥長は驚愕の声を上げた。
「は、はい。土煙が見えて不思議に思った時にはもう攻めこまれてました。気がつくとみんながやられてたので自分だけでも報告しなければいけないと思い、岩の壁で食い止めている間に離脱してきました」
ただ1人生き残った守備兵は沈痛な面持ちで報告した。
「ご苦労。あんたの貧弱で脆い土壁で時間稼ぎしてる間に雑兵たちに準備を整えさせるわ。これ以上あんたの顔を見るのは不快だから下がりなさい」
派閥長の娘は守備兵を見下しながら言った。
「はっ!」
守備兵は頬を赤らめながら出ていった。
「な、なぜオークが襲ってくる?!やつらはどうして裏切ったのだ!」
貴族派派閥長はうろたえながら絶叫した。
「低脳なブタの考えなんか知るわけないわ。刃向かって来るなら叩き潰すだけよ」
派閥長の娘は動揺する父親に見向きもしないで言った。
「し。しかし魔王軍敵に回すのは」
「どうせいつかは倒すことになる相手じゃない。それが今来ただけで何をうろたえる必要があるのよ。腐っても派閥長ならもっと堂々としてなさい」
派閥長の娘はどこまでも辛辣に言い放った。彼女に少しでも父親を敬う気持ちはあるのだろうか。
「わ、わかっておる!魔王軍などまとめて蹴散らしてやるわ!」
「その意気よお父様」
貴族派派閥長の娘は扇で口元を隠しながら答えた。
「クソ。手こずらせやがって。だがそろそろ限界だろう!」
岩の壁に広がっているヒビを見ながらオークが叫んだ。
「あの程度の小石しか出せない割には見事な壁だ。だがそんなもの時間稼ぎにしかならんぞ!」
オークは偉そうに言ったが回りにはブヒブヒとしか聞こえないので全く締まらなかった。ブヒブヒ言いながら壁を棍棒で殴るとついに壁に穴が空いた。
「よし、壊れた。このまま突っ込むぞ!」
一頭のオークがブヒーと声を上げて突っ込むと、目の前にいきなり貴族の女が現れた。そして何かを呟き、オークを突風で遠くに吹き飛ばした。
「ブヒイイイ!」
オークは天高く舞い上がりどこかに消えて行った。
「今のオークと同じ目にあいたいならかかって来い!」
貴族の女はそう宣言して本陣に引き返した。
「ま、待ちやがれ女ー!」
オークたちはブヒブヒ言いながら貴族の女を追いかけて本陣に突っ込んで行った。
次は光とオークキングがぶつかる直前まで進める予定です。




