軍義
「明らかに罠だな」
予告状を見た元帥さんが真剣な顔で言いました。
「でしょうね。護衛に戦力を割かせて、その間に王都を突くのが狙いでしょう」
参謀さんも元帥さんの言葉に同意しました。
「だとしてもどう対応すればいいのでありましょう?護衛をつけないのは論外でありますし」
エリザさんがそう言うと辺りを重苦しい沈黙が漂いました。
「あ、あの沙夜ちゃん。私ここにいていいんでしょうか?何かものすごく場違いな気がするんですけど」
私は隣にいる沙夜ちゃんに耳打ちしました。
「勇者は切り札だからいつ動くか把握しといてもらいたいんじゃない?それよりあたしに指揮権を与える方がおかしいわよ。弓兵隊はともかくファンクラブなんてどうまとめろっていうのかしら。一体誰がそんな編成をしたのよ」
沙夜ちゃんはうんざりしたように返しました。
「どうせ王だろう。それより何で軍に入ってないおれまで出ないといけないんだ?仕事があった時に報告するだけでいいと思うんだが」
イドルさんはうんざりした顔でつぶやきました。
「この場にいて色々把握してもらいたいんじゃないですか?課長は最強の抑止力なんですから」
ルーシーさんはそう言ってメガネを直しました。
「…別に必要ないと思うんだが」
イドルさんはなぜか苦笑しながら言いました。
「…?どうしてですか?「そこ!軍義中にコソコソ話すな!」
質問しようとしたら注意されてしまいました。
「す、すみません」
私が謝る横で沙夜ちゃんとイドルさんとルーシーさんが頭を下げました。
「コソコソと言えば、国境付近の魔王軍の動きが気になりますね。この機に乗じて攻め寄せてくる可能性も考えられます」
会議に参加している将軍の一人が真剣な顔で言いました。
「ああ。貴族派と魔王軍が通じているという推測が確かなら確実に攻めてくるだろうな」
別の将軍さんが頷きました。
「…しかしある意味ではチャンスと言えるのでは?」
軍義に参加している騎士の一人がポツリと呟きました。
「どういうことですか?」
参謀さんが冷静に問い掛けました。
「魔王軍が攻めてくるということは、それだけ魔王軍の砦が手薄になるということです。相手が攻めてくる間に兵を動かせば落とせるのではないでしょうか」
騎士さんの言葉に軍義に参加していた騎士さんたちはハッとしたような顔をしました。
「な、なるほど。確かにその通りだ!」
「これならあのブタ共を一掃できるかもしれない!」
騎士さんたちの興奮したような声が軍義に広がっていきました。
「確かに着眼点は悪くはありません。ですが戦力が足りない可能性が高いです。護衛に兵力を割かないといけないのでそこまで割けないでしょうしね」
参謀さんがそう言うと、騒いでいた騎士さんたちは黙り込んでしまいました。
「…とりあえず貴族派以外の領地の護衛はそこの領主に一任しておけばいいと思います。資金がない以上自分の領地で襲撃するだけで手一杯でしょうしね」
騎士の一人が提案しました。
「それで少しは削減できるか。後は貴族派の領地での護衛をどうするかだな」
元帥さんは腕を組みながら目を閉じました。
「そうだ!転移魔法陣を使いましょう。そうすれば移動時間を短縮できますし、護衛をすることで生まれる隙もなくせるのでは?」
騎士の一人が自信を持って言いました。
「確かに移動時間は短縮できるでしょう。ですが王都が手薄になるのはどうしても避けられないでしょうね」
参謀さんはそう言って首を振りました。
「なぜですか?配当金を輸送している相手を倒してすぐに引き返せばいいじゃないですか」
騎士さんはわけがわからないという顔をしました。
「相手の目的は時間稼ぎですよ?バカ正直に転移してすぐ襲撃してくれるとは思えません。仮に襲ってきたとしても全兵力は使わずに移動中や配当金の支払い中を狙ってくるでしょう」
参謀さんはそう言って溜息を吐きました。
「し、しかし貴族派にそんなことを思い付く頭があるのでしょうか?」
騎士の一人がかなり失礼なことを言いました。
「そうでしょうか?リュベリオン伯爵なら思い付いてもおかしくはないと思いますが」
リュベリオン伯爵?
「ネルキソスのことよ」
沙夜ちゃんがそっと耳打ちしてくれました。
「ふむ。確かにあの者は貴族派には珍しく頭が回るな。今の貴族派で唯一警戒しなければいけない相手だろう」
元帥さんは重苦しい口調で言いました。
「ええ。彼が貴族派だとはとても信じられません。一体どこで何をしていたらあのような逸材に育つのでしょうね」
参謀さんが苦笑いを浮かべながら言いました。
「な、ならイドル卿の召喚獣を使えばいいであります。彼女たちの力があれば護衛の数をかなり減らせるでありましょう?」
エリザさんはなぜかそう捲し立てました。
「悪いがそこまで削減できそうにないぞ。一時的ならともかく、護衛が勤められる時間となれば1つの領地につき一体が手一杯だ」
イドルさんはなだめるような口調で返しました。
「そうでありますか。やはりそう都合よく兵力を減らす方法はないのでありますね」
エリザさんは先程より落ち着いた口調で答えました。
「一応護衛に兵力を割かなくて済む方法はあるわよ」
沙夜ちゃんはポツリと言いました。
「ほ、本当ですか?!」
「一体どんな方法なんです?」
軍義に参加している騎士さんたちが騒ぎ立てました。
「いるじゃない。国に属さないかなりの武力を持った人たちが」
沙夜ちゃんはうんざりした調子で返しました。
「…つまりギルドの力を借りるということですか?」
参謀さんがそう言うと騎士さんたちはハッとしたような顔をしました。
「た、確かにそれならこちらは護衛に兵力を割かないで済む!ブタ共を倒すのに兵力を使えるぞ!」
「ふざけるな!貴族派が攻めてくるとわかってて民間人を危険に晒せるか!大体そんなことしたら軍の面目が立たないだろ」
騎士さんたちの言い争いで軍義が全く進まなくなりました。
「お、落ち着け!もっと冷静に話し合うのだ!」
元帥さんがそう言っても騒ぎは止まりません。
「ぐ、軍義中に失礼します!」
そんな険悪ムードの中誰かが入ってきました。
更新が遅れた上話がグダグダですみません。




