沙夜の考察
「何というか一方的な展開ですね」
貴賓席からイドルさんと金田さんの決闘を見ていた私は思わず呟きました。
「そうね。本当に名前上げといてよかったわ。あんなのと一緒にされたらたまらないもの」
沙夜ちゃんは冷たい目で金田さんを見ながら言いました。
「…イドルさんが金田さんを圧倒してるのは勝負だから当然でしょう。でもあそこまで野次を飛ばすのはどうなんでしょうか?」
「そりゃ観戦マナーとしては最悪でしょうよ。でもそんな罵倒を受けてるのは金田が勇者のくせに民を虐げる貴族派になんかついたからだわ。全部騙されていい気になってるあいつの自業自得でしょ。そういう罵倒をなくすためにはあいつが自分で何とかするしかないわ」
沙夜ちゃんは言葉を切って横目で王様を見ました。
「国は止めたりフォローしたりする所か暴走を都合よく利用してる始末だしね」
沙夜ちゃんはさらりと毒を吐きました。
「さ、沙夜ちゃん。この試合の解説してくれませんか?私にはイドルさんが金田さんの作戦の裏をかいてることしかわかりません」
何だか不穏な空気を感じたので話題を変えることにしました。
「…ハア。しかたないわね。まず最初に金田が突っ込んだのは魔法が弱いと判断したからでしょうね。多分あの鎧があるから大丈夫だと思ったんでしょう」
沙夜ちゃんは溜め息を吐きながら説明してくれました。
「何で金田さんはイドルさんの魔法が弱いと判断したんですか?」
「魔法陣が小さかったからよ。多分あいつは強い魔法程魔法陣が大きくなるって習ってたんでしょうね。まあ実際訓練に付き合った魔法使いの魔法陣も威力が高い物ほど大きかったんでしょうけど」
沙夜ちゃんは興味なさそうに言いました。
「強い魔法程魔法陣に書く術式が多くなりますからね。普通それだけ魔法陣が大きくなるというわけですか」
「そういうこと。大して大きさを変えずに書けるイドルは例外だけどね」
「じゃあ次に突っ込んだのもまだ小さい魔法陣から出る魔法は弱いと思ってたからですか?」
私の言葉に沙夜ちゃんは首を振りました。
「いえ、あいつは小さい魔法陣でも強い魔法が出せるということはわかってたわ。だから今度は別の強い魔法の常識で考えようとしたのよ」
「…別の常識、ですか?」
私が聞き返すと沙夜ちゃんは頷きました。
「あいつがイドルに突っ込もうとした時に魔法陣を出したのを見て、あいつは『ハッ、遅』って言ってたわ。あいつは強い魔法程発動に時間がかかると思ってたし、実際訓練に付き合った魔法使いも強い魔法程発動が遅かったんでしょうね。だから自分の今の身体能力なら発動する前に叩けると思ったのよ」
沙夜ちゃんは淡々とした口調で言いました。
「それって魔法陣が小さかったら当てはまりませんよね。強い魔法程発動が遅くなるのは魔法陣が大きくなったせいで魔力を満たすのに時間がかかるわけですから」
「そうね。普通の魔法使いには効くだろうけどイドルみたいな規格外に通用するわけないわ」
沙夜ちゃんはやる気なさそうな声で答えました。
「イドルさんが金田さんの目の前に魔法陣を出したのは魔法陣を出した後で避けられないようにするためで、地雷魔法を仕掛けたのは金田さんが魔法陣を目の前に出されないように動き回るのを読んでたからなのは何となくわかります。ですが何でイドルさんが魔法を放つ度に青い顔で何かを呟いてるんでしょうか?」
私は闘技場でブツブツ呟きながら魔法をくらっている金田さんを見ながら沙夜ちゃんに尋ねました。
「前従者選びの時あいつステータスが言ってたでしょ。つまりあいつにはステータスが見える能力があるってわけ。それで残りの魔力とか、魔法を使うのに消費する魔力とか見ちゃったのよ」
沙夜ちゃんは黒い笑みを浮かべながら言いました。
「魔法陣が小さい程魔法を発動するのにかかる魔力は少なくなるということですね。でも何でイドルさんの魔力消費が少ないというだけで何であんなにうろたえてるんですか?」
「あいつが持久戦に持ち込んでイドルの魔力切れを狙ってるからよ。魔法使いは基本魔力がないと何も出来ないわ。対抗策がなくなった以上他に取る手はないでしょうね」
沙夜ちゃんは冷たい目で闘技場を見ながら言いました。
「なるほど。防ぐことも避けることも出来ない金田さんが持久戦に持ち込むには全て耐え切らないといけません。イドルさんの消費魔力が少なくて耐え切れそうにないからあんなに絶望的な顔をしてるんですね」
「ご明答。まあ訓練でイドルより魔力が高い魔法使いを魔力切れに追い込んだんならイドルにも通用すると思ってたんならよけいにショックは大きいでしょうね」
「…ここまで来るとネルキソスさんが金田さんを負けさせるために間違った訓練を叩き込んだような気がしてきますね」
手も足も出せないでやられてるのを見て思わずそんなことが口をついて出てきました。
「ネルキソスは何のためにそんなことをしたって言うの?」
な、何のためにですか?えーと。
「魔王側の対勇者さんが、金田さんが大勢の人たちの前で恥をかくように仕組んだというのはどうでしょう?」
「それはないわね。確かに金田が向こうの対勇者の恨みを買ってる可能性は高いわ。けどいくらなんでもあんな命令書が出た時点で作戦を中止するはずよ。魔王軍としては手を組んでる貴族派が弱体化するのは不本意でしょうしね。いくら対勇者が反対した所で通るはずがないわ」
た、確かにそうですね。ということはネルキソスさんはイドルさんの力をよく知らなかったから金田さんに一般的な魔法使いの対処法を教えたということなんでしょうか?
「ただどうしてもわからないんだけど、何で金田の魔法は発動しないのかしら」
沙夜ちゃんは発動しないで消えていく金田さんの魔法陣を見ながら言いました。
「単に魔法陣のどこかに不備があるからじゃないんですか?」
「それは考えにくいわ。あいつは魔法をかなり叩き込まれてるはずよ。召喚したばかりならともかく、いくらなんでもここまで不発してたらさすがに何かあるようにしか思えないわよ」
な、なるほど。確かによく考えるとあそこまで不発するのはおかしいですね。
「でもあれって火属性の魔法でできるんですか?」
私の言葉に沙夜ちゃんは首を振りました。
「多分無理でしょうね。でも警報は作動してないわ。考えられるのは魔具が壊れてるか、もしくは魔法以外の方法を使ってるのかね」
魔法以外の方法、ですか。一体何がどうなってるのか見当もつきません。
「不発で終わってるだけマシですわよ。本気でやったらもっとえげつないことになってますわ」
チェリルちゃんは平然とした顔で闘技場を見ながら言いました。
「そんなにイドル卿のやってることはえげつないでありますか?自分としてはあっちの勇者がふがいないだけにしか見えないであります」
エリザさんはよくわからないという顔をしました。
「そう言ってやるなエリザ。あっちの勇者は基本的な魔法使いの対処法を詰め込まれて頭が凝り固まってるんだ。対処法で想定されてない事態になったら何もできないのも無理はない」
ロべリアさんはそう言ってニヤリと笑いました。
「姫様や騎士団長様ならどうにかできるかもしれませんね。巫女様や私は最初から詰んでますけど」
ルーシーさんはメガネを直しながら言いました。
「不発にしてるだけマシって…。それ以上何ができるって言うのよ」
沙夜ちゃんは不思議そうに首を傾げました。
「見ればわかりますわ。…この決闘で出すかどうかは知りませんが」
チェリルちゃんは金田さんの真上に魔法陣を展開しているイドルさんを見ながら言いました。
――
「めんどくさいからそろそろ終わらせるか」
イドルは完全になめくさった態度でぼくの上に魔法陣を5個展開した。
「ふ、フン。その程度耐え切ってやる!」
ぼくは堂々とイドルに剣を向けた。
「そうか」
イドルがそう言うと魔法陣から火の玉が飛び出した。そして空中で弾け飛んでいくつかの小さな火の玉に分かれた。
「この火の玉は何かに触れたら爆発する。さらに地面に仕掛けた魔法陣は上に何かが乗ったら爆発する。意味はわかるか?」
その言葉の意味を理解する前に小さい火の玉がぼくに触れた瞬間爆発した。
「ぎゃあああ!」
すさまじい爆発がぼくを襲った瞬間、腕からピシッという音が聞こえてきた。
「そ、そんなバカな!ぼくの鎧にヒビが?!」
それからも連鎖的に爆発が広がる度にヒビが広がっていった。それと同時に炎と衝撃が隙間から流れ込んできた。
「ぐわあああ!」
絶え間なく続く激痛で倒れて体が動かせなくなった。
「どうする?もう降参した方がいいと思うが」
爆発がおさまってすぐイドルがそう問いかけた。
「そうだ!さっさとギブアップしやがれ!」
「往生際が悪いんだよザコが!」
……ふざけるな愚民共が。ぼくは勇者だ!神に選ばれた特別な人間なんだ!こんな魔法使いなんかに負けるはずがないんだ!
「うおおおお!」
ぼくが雄叫びを上げると目の前に魔法陣が現れた。今度は不発することなく上に巨大な光の玉が現れた。
「どうだ!これが勇者の力だ!選ばれし者でぼくに逆らったことを後悔して死ね!」
ぼくがイドルに宣言した次の瞬間イドルの姿が光で見えなくなった。
更新が遅くなってすみません。うまく説明できてるか正直自信ありません。
次で決闘は終わりです。




