賭け、開始
サヤとデートしてから3日後、ようやくおれとカネダの賭けの受け付けが始まった。
「今頃掛け売り場は盛り上がってるんでしょうね。私も仕事さえなければ今すぐにでも買いに行くんですが」
ルーシーは憂鬱そうに肩を回した。
「…買った所で意味はあるのか?自分で言うのも何だが貴族派か大穴狙いのやつくらいしかカネダに賭けないだろう」
「わかってませんね課長。どれだけ貰えるかは問題ではありません。当たるか外れるかのスリルが賭けの醍醐味なんです!」
ルーシーは胸を張って言い切った。
「そうか。やり過ぎて身を滅ぼさないように気をつけろよ」
「大丈夫ですって。それくらいの自制心はありますよ」
どうだか。いつもの暴走を見る限りあまり信用できないんだが。
昼になったから昼食をとりに行くとなぜかいつもよりずっとにぎやかだった。
「クソッ、貴族派め!大穴に賭けるっていう楽しみを奪いやがって!」
席についてる騎士が大声で叫んだ。
「まあ当たらない選択肢が消えてよかったじゃないか。それにこれも一応大穴になるだろ」
同じテーブルの騎士が冷静に返した。
「バカか!大穴っていうのは当たる確率が限りなく低いから当たった時に嬉しいんだ!確実に当たる選択肢の倍率が高くなった所で大穴とは呼ばねーんだよ!!」
騎士はそう言って机を思いっ切り叩いた。
「私はもっと堅実に行きますね。予想とはデータや経験や勘などに基づいて行うものです。ただ当りにくいから、みんなが選ばないからという理由で賭けるなど金をドブに捨てるのと同じことです」
誰もルーシーの意見は聞いてない。それにしても騎士たちは一体何の話をしているんだ?おれと金田の決闘の話ってことはわかるんだが。
「その原因は多分これね」
いつの間にか隣にいたサヤが紙を振りながら言った。
「……?どういうことだ?」
「その前にご飯頼んで席につきましょ。多分光も疲れて戻ってくるから席とっておかないとね」
サヤに促されたので昼食を頼んでテーブルについた。
「それで、その紙には何が書いてあるんだ?」
おれがそう言うとサヤは無言で紙を差し出して来た。
『勇者様の賭け券は1000金貨以下では購入できないものとする。1000金貨以下で購入した者及び売った売り場には制裁を加える。貴族派及び貴族派と繋がりがある者で勇者様に賭けないという意思を明示した者、及び賭けの締め切りまでに勇者様に賭けない者は粛清する。『構陣師』に賭けた者は裏切り者として処刑する。但し貴族派を脱退して他の派閥に移った者に関してはその限りではない。
                   
貴族派派閥長ゴードン・デルマ・クルデタヌ侯爵』
「…なるほど。確かにこれでは騎士には購入できないでしょうね。購入できるのは貴族の中でも裕福な者か豪商でないと購入できないでしょう。それに結果的には大穴になりますね。貴族派が最低でも1000金貨出すとすると庶民がいくら集まっても足りないでしょうから倍率ははね上がることになります」
ルーシーがメガネを整えながら冷静に分析した。
「あの騎士たちがなぜ盛り上がってるのかは分かった。だが何でサヤがそんなことを知ってたんだ?」
「あたしの部屋と光の部屋の前の廊下に貼ってあったのよ。ご丁寧に部屋の扉を開けたら確実に見える位置にね」
サヤは呆れたように肩をすくめた。
「はあ。何だか稽古の疲れがどっと出た気がします」
なぜか疲れた様子でヒカリが食堂に入ってきた。
「お疲れ。席とってあるから早く頼んできたら?」
「はーい…」
ヒカリは汗をぬぐいながらカウンターに頼みに行った。
「何でヒカリが疲れて帰ってくるってわかったんだ?」
「光が『落涙』だってことは周知の事実だから、街に出たら質問責めにあうのは目に見えてたわ。いちいち質問に答えてたらそりゃ疲れるでしょ」
サヤは何でもないような口調で言った。
「はあ。街の人たちに質問責めにあって答えてたら何だか疲れました」
完全に当たっている。やっぱりサヤは洞察力があるな。
「まああれでも勇者なんだから気になるんでしょうね。それで金田の評判はどうだった?」
サヤが聞くとヒカリは暗い顔をした。
「…ボロクソでした。私や沙夜ちゃんは人々を救っているのに、何で金田さんは勇者のくせに民を虐げる貴族派についてるのか、って」
「ふーん。あいつのせいであたしたちの評判まで下がってなくてよかったわ。ま、あたしたちが討伐したやつらが貴族派と繋がってたことは公表されてないし、そもそも繋がってる貴族派にはまだ捜査の手も及んでないしな」
サヤはどこまでもドライに言い切った。
 
今回はここで切ります。やったことがないのでギャンブルの仕組みはよくわかりませんので指摘があれば遠慮なく書いて下さい。




