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魔眼杯

昼食を食べてから適当にぶらついてるとなぜか行列が出来ていた。

「…魔眼杯?あたしの名前が使われてるってことは弓の大会かしら?」

サヤは看板の方を見ながら呟いた。あんな遠くの文字が読めるとかすごいな。

「よかったら見るか?」

「そうね。せっかくだから見てみましょうか」

おれとサヤは行列に並ぶことにした。


「やっとあたしたちの番が近づいて来たわね」

長かった行列も大分進み、おれたちの番が近づいてきた。

「あ、お姉様!」

サヤを呼ぶ声がしたから見てみると貴族の令嬢がいた。お姉様呼びということは弓の練習を見に来てるんだろうか?

「お姉様もこの大会に出るんですか?!」

彼女はなぜか必死な表情でサヤに詰め寄った。

「ただ観戦するだけよ。デート中だから弓も持ち歩いてないしね」

サヤは冷静に返した。さらりとデート中とか発言するあたりさすがだな。


「…そうですか」

令嬢はなぜか諦めたような顔で目を伏せた。

「何かあったの?」

サヤは無表情でズバリと聞いた。

「実は私貴族派の貴族にしつこく言い寄られてるんです。何度も断ってきたんですけど強引に大勢の貴族派の前でこの大会で優勝したら結婚させられるとかいう念書を書かされたんです。相手は弓の名家と呼ばれてるボウカー家の御曹司なのでかなり絶望的なんです」

まあ普通なら優勝は確定だろうな。こんなお遊びの大会に名のある冒険者が出てくるとも思えないし弓の名家に勝てるやつがいるとは考えにくい。向こうもそれを見越してあえてそんな条件を出したんだろう。

「そんなに嫌なら自分が出ればいいじゃない。その弓は飾りなわけ?」

サヤは令嬢が肩に担いでいる弓を見ながら言った。

「む、無理です!私の弓の腕なんか未熟だし、負けた時の扱いがもっとひどくなるに決まってます。なら動かない方がいいじゃないですか」

令嬢がそう言うとサヤは溜め息を吐いた。

「…ならその弓貸しなさい」

サヤは冷たい口調で右手を差し出した。

「出てくれるんですかお姉様?!」

令嬢は興奮して弓を差し出した。

「たまにはこういうお遊びもいいと思っただけよ。あんたのために全力も本気も出す気はないわ」

サヤは冷めた口調でそう宣言してからエントリーに向かった。


『さあ、第一回魔眼杯の開幕です!司会は私アナ・グライム、解説はAランク冒険者のジョナサン・ロペスです。ロペスさん、やはり注目は弓の名家ボウカーの御曹司でしょうか?』

司会が隣にいる冒険者に聞いた。

『そうですね。他の人は無名ですからまず優勝は揺るがないでしょう』

冒険者は自信を持って言い切った。

「だ、大丈夫です。きっとお姉様がなんとかしてくれます」

令嬢は祈るようにそう呟いた。やっぱり少し不安はあるみたいだな。

『ルールを説明します。1点から10点までの点数が書かれた的に矢を放ち、矢が刺さった所の点数が得点になります。外したら当然0点です。1人10射で順番に矢を放ち、一番得点が高い人が優勝です』

『それでは1人目の人、どうぞ!』

司会が高らかに名前を読み上げて魔眼杯が開幕した。


参加者たちが次々に矢を放ち、ついにボウカー家の御曹司の番になった。

『それではお待ちかねのボウカー家の御曹司の出番です!弓の名家と呼ばれる貴族の血を引く彼の腕前はどれほどのものなのでしょうか?!』

『言い方は悪いですけど今までの参加者よりは良くないと面目丸潰れでしょうね』

解説の言葉に参加者たちは苦虫を噛み潰したような顔をした。実際全員パッとしない成績だしな。

『さあ、注目の一射目は!』

ボウカーの御曹司は勿体ぶって矢を構えて的を目掛けて射た。

『…7点。今までの中では最高得点です!』

司会はあまりにも微妙な点数に口を濁した。

「思ったより大したことないですね。お姉様なら楽勝でしょう」

令嬢は自信を持って言い切った。

「まあそうだろう」

普通にやれば、な。


『いよいよ一巡目が終わります。最後の参加者は―――え?』

サヤの姿を見た司会は大きく目を見開いた。

『登録名もサーヤ…これってやっぱり』

司会がそこまで言うとサヤは司会の席に目を向けた。

『な、何でもありません。それでは一射目お願いします!』

司会は軽く怯えた口調で言った。サヤは左手で矢をつがえて、矢を構えた。

「え、左手?それにいつもと違って普通に構えてます」

令嬢はわけがわからないという顔をした。

「構えを変えたのはユガケがないと爪を痛めるからだろう。ネイルしておしゃれしてるならなおさらな」

「なるほど。じゃあ左手は何でなんでしょう?」

令嬢は不思議そうに首を傾げた。

「さあな。少なくとも」

サヤは少し目を閉じてから的に向かって射た。

「本当に本気も全力も出すつもりはないらしい」

サヤの矢はボウカーの御曹司の矢と同じ所に寸分の狂いもなく当たった。


大会は順調に進んでいき、ついに9巡目が回ってきた。

『ボウカー選手の9射目です。ここまでサーヤ

選手に同点にしてもらってかろうじてトップタイのボウカー選手は弓の名家のプライドを保てるのでしょうか?!』

司会が言う通りサヤとボウカーの御曹司がトップを争っている状況だ。ここまで来ると会場の全員がサヤがボウカーの御曹司と同じ所に当てていることに気づいていた。

『ロペスさん、ここまでサーヤ選手はボウカー選手と同じ所に当てるという真ん中に当てるよりよっぽど難しい芸当をこなしていますが、何のつもりでやっているのでしょうか?』

『正直私にもわかりません。まあ八百長にしろ何にしろこんな大会で恥をさらすことになってご愁傷さまと言うしかないです』

司会と解説が好き勝手言う中、ボウカーの矢は的を大きく外れていった。

『外したー!ボウカー選手会場の空気に集中力を乱したんでしょうか?!弓の名家とはとても思えない大失敗です!』

司会の言葉に会場からブーイングと嘲笑が響き渡った。

「次はお姉様の番ですね。ボウカーは外しましたけどどうするつもりなんでしょうか?」

令嬢は不安そうな顔で会場を見た。


『10点!サーヤ選手の矢がど真ん中を射抜きました!もう付き合ってやる義理はないと言わんばかりの一射です』

サヤが見事にど真ん中を貫くと会場から歓声が上がった。

『これでボウカー選手は10点取らないとサーヤ選手に回ることもなく負けです。今までを見る限り当たらないと思いますが』

それから参加者が最後の矢を放ち、ボウカーの番が回ってきた。会場からは外せコールとブーイングが上がっていた。

『さあボウカー選手、この圧倒的アウェーの中弓の名家の面目躍如ができるでしょうか?!サーヤ選手が外すというまずありえない可能性につなげるために一矢報いるか』

ボウカーは顔を赤くしてブルブル震えながら弓を射た。矢は的にも届かず地面に落ちた。

『的にすら届かずー!弓の名家の称号はやはり飾りだったー!』

司会が酷いことを大声で言った。

『ではサーヤ選手。とどめをさしちゃって下さい!』

司会に促されてサヤが放った矢は過たず真ん中に当たった。


「ありがとうございますお姉様!おかげで助かりました」

令嬢は嬉しそうにサヤに抱きついた。

「別にあんたのためじゃないわよ。念書を書く時に貴族派がいたってことは言い逃れできないように連れてきてるだろうし、そいつらの前で一般人に完全になめられて負ける所を見せれば評判も落とせるしね。弓の名家とかいう武の旗頭の御曹司が大したことないということになれば士気も下げられる。あたしは何の理由もなく助けるほどお人好しじゃないの」

サヤは無表情で淡々と言い切った。

「それでもいいんです。助けてもらったことには変わりませんから」

「あっそ」

サヤは呆れたような目で令嬢を見た。

「あの、この弓我が家の家宝にしていいですか?」

令嬢はサヤが返した弓を胸に抱きながら言った。

「好きにすれば?」

サヤは素っ気なく返した。

「ありがとうございます!明日みんなに自慢しないといけませんね。では失礼します。デート楽しんで下さい!」

令嬢は元気よく手を振って走って行った。


「本当に士気を下げるだけが目的ならわざわざ大会が終わった後にわざわざ釘を指すことはなかったんじゃないか?」

令嬢がいなくなったのを確認してサヤに問い掛けた。

「単にあいつが『魔眼』に脅されたとか周りに言っても言い訳だと思われて評判が下がると思っただけよ。それに結果的に助けたのにまた手を出されたらムカつくじゃない」

サヤは表情を全く変えずに言い切った。

「そうか」

まあサヤがどういうつもりでやったのかは別にいいか。サヤのおかげで誰かが助かったのは事実だしな。


それから色々な所を冷やかしていると暗くなって来たので城に帰ることにした。

「まあ何だかんだあったけど今日は楽しかったわね」

サヤは微笑を浮かべながら言った。

「それはよかった。おれもサヤと過ごせて楽しかったよ」

「そ、そう」

そんな他愛のない話をしながら帰ると城門が見えてきた。

「いい息抜きになったわ。じゃ、また明日」

サヤは軽く手を振ると後ろを向いて歩き出した。

「ちょっと待ってくれ」

おれの言葉にサヤは立ち止まって振り向いた。

「何?」

「…これを受け取ってくれないか?」

おれは懐から紙包みを取り出した。

「開けていい?」

「ああ」

サヤが開けると中から月と星を象った銀の髪飾りが出てきた。

「綺麗…。いつ買ったのこれ?」

サヤはおれに不思議そうに聞いた。

「いや、錬金とかを使って作った」

「あたしのために?…ありがと。とっても嬉しいわ」

サヤは珍しく満面の笑みを浮かべて髪飾りを髪に着けた。

「似合う?」

「ああ。とても綺麗だ」

おれの言葉にサヤは嬉しそうに笑った。

「あは、よかった」

その普段とは違う笑顔に思わず見とれてしまった。

「…その髪飾りに魔法陣を刻んでおいた。説明書も付けたから読んでくれ」

「わかったわ。じゃ、お休み」

サヤはおれに手を振って自分の部屋の方に歩き出した。



前砂糖を足し過ぎたので今回はエグくしてみました。少し超展開過ぎた気がします。

次回は更に貴族派を追い詰めるつもりです。

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