デート
「はー。やっと休みが取れたわ。利用されるのはわかってたけどここまで長丁場になるとは思ってなかったわよ」
だてメガネをかけたサヤがダルそうに言った。
「お疲れ様。2つ名までついたってことは素晴らしい活躍だったんだろう?」
ヒカリとサヤは最初に盗賊を倒してから1週間で何組も貴族派とつながっている盗賊や悪徳商人を潰して回っている。サヤがだてメガネをつけてるのも顔が知れ渡っているからだ。前はサングラスをしてたが逆に目立ったからやめたらしい。
「まあそうなんでしょうね。どうでもいいけど光が『落涙』なのはともかくなんであたしが『魔眼』ってどうなのよ。2つ名って戦闘スタイルとかで決まるものなんじゃないの?」
サヤは少し不満そうに言った。
「普段姿を見せないから戦闘スタイルがわからないんじゃないか?それか見ただけで敵を倒してると思われてるとか」
「…フン。どうせあたし目付き悪いわよ」
サヤは拗ねたように鼻を鳴らした。
「それもサヤの魅力だと思うぞ。冷たい中に芯の強さがあってサヤらしくていいと思う」
「は、はあ?!そ、そんな調子いいこと言ってもごまかされないわよ」
サヤは頬を微かに赤くしながら言った。
「それより今日の格好も似合ってるな。いつもと違う感じがしていい」
サヤはいつもの黒づくめではなく、上は水色のシャツで下は灰色のスカートという格好だ。右手には黒いブレスレットを付け、両手には普段はつけない青いネイルをつけている。いつものポニーテールも今日はほどいている。
「そ、そう?それならよかったわ」
サヤは突然手を握ってきた。
「い、一応デートだからよ。特に他意はないわ」
そう言ってそっぽを向いたサヤの頬は真っ赤に染まっていた。
「そうだな。せっかくのデートなんだし楽しむか」
「え、ええ」
いつもより少ししおらしいサヤの手を引いて、おれたちは城門へと歩いていった。
「何か前来た時よりにぎわってるわね」
サヤは街の中を見回して言った。
「サヤと光の活躍のおかげかもな。チカゲの商会も大々的に宣伝してるらしい」
「なるほどね。ちょっと見てみましょう。どんなのがあるか興味あるし」
サヤはおれの手を軽く引っ張って市場に向かった。
「対勇者クッキーに対勇者ケーキ、おまけに対勇者チョコ…。どこの世界でもこういうのは変わらないわね」
サヤは軽く呆れたように言った。
「どれも勇者と対勇者セットで売られてるわね。イメージカラーはあたしが黒で光が白か。なんかそのまんまって感じがするわ」
辺りを見回してるサヤは何かを発見して足を止めた。
「あんたやチェリルのもあるのね。それなのに勇者のはずの金田のだけがないとか哀れな話だわ」
サヤは全く哀れだと思ってないような口調で言った。
「まだ知名度が低いからな。もっと名前が広がれば売り出されることもあるだろう」
「あいつの場合悪名しか広がらないんじゃない?」
サヤはバサリと切り捨てた。
「お、イドルの旦那じゃないですか」
声がした方を見るとチカゲの商会の商人がいた。
「もしかしてデートですか?…あれ、あんた」
商人はサヤの方を見て目を見開いた。
「…何か?」
サヤは商人を横目で見た。
「い、いえ。何でもないです」
商人は慌てて目を逸らした。
「それでその大荷物は?」
おれは商人が馬車で運んでいた木材と布を見ながら言った。
「ああ。賭けの券売り場を建てるのに使うんですよ。各地でも続々と建てる準備をしています」
商人がそう言うとサヤは探るような目を向けた。
「今まで儲からないって渋ってたのに急に乗り気になったのね。何か儲ける算段でもついたの?」
「…それは私にもわかりません。ただ貴族派の怪しい動きを掴んだとしか。お二人も注意して下さいね。あいつら何をしてくるかわかりませんから」
商人は神妙な顔をして言った。
「わかってる。そっちも気をつけろよ」
「わかりました。それでは準備があるので失礼しますね」
商人はお辞儀をしてその場から立ち去った。
それから適当に露店を冷やかして回ってたら昼近くの時間になった。
「そろそろ飯にするか。何か食べたい物はあるか?」
おれがそう言うとサヤは軽く挙動不審になった。
「あたしお弁当作ってきたんだけど」
サヤは顔を赤くしてカバンを指差した。
「なら近くの公園にでも行くか。サヤの弁当楽しみにしてるぞ」
「そう」
おれは頬を赤くしてそっぽを向くサヤの手を引いて公園に向かった。
公園についたおれたちは適当なベンチに座った。サヤはカバンから弁当箱を2つ取り出した。そして大きい方をおれに
「ど、どう?」
サヤが開けた弁当箱にはおにぎりと玉子焼き、それに揚げた鳥にサラダが入っていた。
「なかなかうまそうだな」
「そう。よかった」
サヤはそう言ってハシをおれに差し出してきた。
「…おれハシ使えないんだが」
おれがそう言うとサヤは一瞬固まってから軽く頷いた。
「あ、あーん」
サヤは顔を真っ赤に染めておれに玉子焼きをハシで差し出した。
「ほら、早く口を開けなさいよ」
サヤは目を少し目を潤ませながら言った。
「…あーん」
食べてみると口の中にほのかに甘い卵の味が広がった。
「うん。うまい」
「そ、そう。はい、あーん」
サヤは今度は揚げた鳥を差し出した。
「あーん」
噛んでみるとジューシーな鳥の味が口の中に広がった。味付けも絶妙だ。
「これもうまいな。サヤも自分の食べたらどうだ?」
「そうね。…あれ?」
サヤは少し固まってカバンを漁り始めた。
「…箸一組しかないみたいね」
サヤは顔を赤くしてうつむいた。
「…もしかしてわざとか?」
おれがボソリと呟くとサヤはおれに顔をすごい勢いで近づけてきた。
「は、はあ?!バッカじゃないの!ちょっと浮かれてただけ」
サヤはそこまで言うと顔を慌てて離すと自分の弁当をすごい勢いで食べ始めた。
「うっ」
慌てて詰まらせたサヤはすぐにカバンから水筒を取り出して飲んだ。
「うー。…ばか」
そう言って涙目でにらみつけてくるサヤは何だかいつもよりかわいかった。
更新遅れてすみません。こういうのはなかなか筆が進みません。次もデートの続きです。なるべく早く更新したいです。




