修業
「ここに来るのも久しぶりだな」
おれはヒカリについて商館にある道場に来ていた。
「これはこれはイドルの旦那。何か用ですかい?」
おれが道場に入ると眼帯をつけた男が話しかけてきた。
「少しヒカリの動きを見たいと思ってな。戦う前に目を慣らしたいんだ」
「ダメな方の勇者と決闘するわけすよね。本当は賭けで儲けたい所なんすけどねえ…」
眼帯の男はそう言って苦笑いを浮かべた。
「『構陣師』のネームバリューが凄すぎて誰も勇者に賭けない、か」
「そうなんすよねえ。何かいい方があればいいんだが」
「あ、イドルさん。来てくれたんですね」
おれたちが話してるとヒカリが駆け寄ってきた。
「ああ。今日はヒカリの動きをじっくり見させてもらうぞ」
「はい!じっと見られるのは少し恥ずかしいですけど参考になるとうれしいです」
ヒカリははにかんだ表情で木刀を構えた。そのヒカリの周りを4人の男が取り囲んだ。
「…あれはいいのか?」
「ああでもしないと稽古にならないんすよ。まあよく見てくだせえ」
眼帯の男が真剣な顔でそう言うので、おれは黙ってヒカリの稽古を見ることにした。
「はあっ!」
ヒカリは気合いを入れると凄まじい速さで対面にいる男の木刀を上に弾き飛ばした。次に一瞬飛んでいった木刀に目を取られた左の男の木刀をはたき落とし、流れるような動きで右の男の木刀を横に飛ばす。そして後ろから切りかかってきた男の木刀を振り向くこともなく飛ばした。
「…何だ今の」
おれは思わず呟いた。
「大したもんでしょう。覚醒してるのもそうだが剣の腕が段違いでさあ。1対1じゃ稽古にならないんすよ」
眼帯の男はしみじみとした顔で言った。
「どうでしたイドルさん。何かつかめましたか?」
ヒカリは何事もなかったかのように笑顔で近付いてきた。
「…とりあえず端から見てても何もわからないことはわかった。木刀を持つから打ってきてくれないか?」
「打てばいいんですか?わかりました」
ヒカリが了承したから木刀を貸してもらって構えた。
「頼むから木刀だけ狙ってくれ。できれば動き回ってくれると助かる」
「はい。では行きますね」
ヒカリが姿を消すといきなり木刀に衝撃が走った。
「はっ、ほっ、ふっ」
ヒカリは姿を現したり消したりしながら木刀に打ち込んでいった。
「…さて、1ヶ月で目が慣れるかどうか」
やっぱり基本は足止めする方向で行った方がいいな。そんなことを考えながらおれはひたすら木刀を構え続けた。
―――
「足止めの手段?」
「ああ。火属性だけだと接近されたらほぼ終わりだからな。機動力を奪うに越したことはない」
というより足を奪わないとまず勝てないだろう。ヒカリより速いとは思えないがかなり速いのは間違いない。
「そうね。火属性と聞いて真っ先に思い浮かぶのは地雷かしら」
サヤは間髪入れずに答えた。
「ジライ?」
「上に何かが乗ると爆発する兵器よ。地面に埋めて使用するから見つかりにくいの」
サヤは淡々とした口調で説明した。
「なるほど。術式の組み合わせ次第でどうにかなりそうだな。教えてくれてありがとう」
「別に気にすることないわ。あいつと貴族派を潰すって言うから協力してるだけよ」
「…あんたたちよく話しながらそんなことできますね」
横で見ていた弓兵が呆れたように言った。
「そうでもないわ。まだ慣れてない所もあるし」
「結構やり慣れてるからな。精度を上げるためにやってるだけだ」
おれが今やってるのは風船を錬金してサヤに射たせるというものだ。錬金する時に動く方向も指定してるから動く的に当てる練習になるというわけだ。
「それにしても遠くから魔法を発動させることもできるのね。どうやってるのそれ?」
サヤは動きを予測して風船を射抜きながら聞いてきた。
「魔筆から魔力を供給すればできる。普通にするよりは一度に供給できる魔力は少ないが色々使い道は多いな」
「ふーん。魔筆ってそういうこともできるのね」
サヤは感心したように言った。
「まあその弓があれば覚える必要はないだろう。矢に闇属性を付加すれば遠隔で魔法を発動できるからな」
「そう。なら必要になることがあれば教えてもらうわね」
そう言って放った矢は見事に風船を割った。
一応修業回らしき物を書いてみました。あまり話が進まなくてすみません。




