貴族派の陰謀
「それで、話って一体何だ?」
イドルさんは真剣な顔で聞きました。
「単刀直入に言うわね。貴族派が金田に取り入って何かしようとしてるわ」
沙夜ちゃんがそう言うとイドルさんは目を見開きました。
「カネダに?君たちにではなくてか?」
イドルさんの言葉に沙夜ちゃんはいぶかしげな顔をしました。
「その様子だと貴族派が何か動いていることは知ってたみたいね」
沙夜ちゃんがそう言うとイドルさんは頷きました。
「…前に転移魔法について話しただろう?」
「…ああ、確かこの世界について話してもらった時に聞いた気がします」
私がそう言うとイドルさんは頷きました。
「その時タイミングがよく変な書類が紛れ込んでいた。おれたちがすぐ報告に向かったのはそのせいだ」
…そういえばそんなことがありましたね。色々詰め込むことが多かったので忘れてました。
「タイミングよくって…。まさか転移マーカーを発行するように依頼するとかじゃないでしょうね?」
「…そのまさかだ。それも複数の貴族派貴族からな」
沙夜ちゃんの言葉にイドルさんは神妙な顔で答えました。
「あの、転移マーカーって転移魔法陣を使うのに必要な物ですよね?何で貴族派の人はそんな物を手に入れようとしたんですか?」
私が聞くとイドルさんは沙夜ちゃんを横目で見ました。沙夜ちゃんはそれに対して軽く頷きました。
「…おそらく王都に攻め込むつもりだろうな。転移魔法陣が使えたら楽に王都に潜入できるだろう?」
イドルさんはとんでもないことを言い出しました。
「王都に攻め込む?!何でそんなことを…」
「貴族派はかつては強大な権力を持っていた。しかし今の王の時代になってからはすっかり落ち目になり、宮中でも干されるようになった。それを恨みに思って反逆しようとしてるんだろう」
イドルさんはうんざりした口調で言いました。
「今まで好き勝手できてたのにいきなりそんなことになったら恨みを向けられても当然でしょうね。でも何で急に干され出したの?」
沙夜ちゃんは首を傾げながら聞きました。
「今の王の時代は実力主義だ。爵位にしがみつくことしかできない無能が閑職に追いやられるのは至極当然だろう。その上まともで優秀な人は貴族派をすでに見限り他の派閥に流れている。クズしかいない烏合の衆に生き残る術なんてないわけだ」
そういうことですか。なんとなくわかるような気がします。
「ふーん。そんな明らかに貴族派を粛清するような方針を押し通せるなんてあの王やっぱりやり手ね」
「まあそうですね。かなり悪趣味な所はありますが為政者としての能力は認めざるをえません。それにあれでもいざという時にはすごいですし」
ルーシーさんが苦笑しながら言いました。あの王様の扱いは一体どうなっているんでしょうか?
「…それにしてもカネダと接触したのは本当に貴族派の総意なのか?」
イドルさんはあごに手を当てながら呟きました。
「少なくともあたしたちが会った女は貴族派だったわ。ちゃんとデジカメにも撮ったから確かめてみる?」
沙夜ちゃんは私たちに見えるようにデジカメのモニターに写し出しました。
「これはもしかして歴史書にあった写真とかいうものか?」
イドルさんが興味深そうに言いました。前にもカメラを持ってきた勇者がいたんでしょうか?
「もうその認識でいいわ。そんなことよりどうなのよ?こいつらみんな貴族派なの?」
「…確かに全員貴族派だ。だがこいつらの家は貴族派内部で勢力争いをしてたはずだ。そんなやつらがなぜ協力なんかするんだ?」
イドルさんは顔をしかめながら言いました。
「それなら金田さんを狙って競い合っているのでは?」
「それは考えにくい。貴族派のカネダに対する評価は勇者の中では最低のはずだ。ヒカリとサヤがたぶらかされてカネダしか選択肢がないならともかく、一度も接触してこないなんてありえない」
…何だかわけがわからなくなってきました。そもそも私頭使うの苦手ですし。
「…そう言えばこの女が妙なことを口走ってたわね。金田と接触したのは父親に『あの方がそう命じた』って言われたからだって」
沙夜ちゃんはモニターに女Aさんを表示しながら言いました。
「あの方?その女は確か貴族派の長の娘だったはずだ。派閥の長に一体誰が…」
イドルさんはそこまで言って固まりました。
「その様子だとあたしと同じことを考えてるみたいね。今進んでるのはただの貴族派の反乱計画なんかじゃなくて」
「…魔王軍の侵略作戦ってことか」
イドルさんは険しい顔で沙夜ちゃんの言葉を引き取りました。
「…な、なんで侵略作戦なんてことがわかるんですか?私にはさっぱりわからないんですけど」
私が聞くとイドルさんと沙夜ちゃんは難しい顔をしました。
「…あの女があたしの追及を逃れた時何て言ったか覚えてる?」
女Aさんが沙夜ちゃんに言ったこと?えーと確か
「例えあなたが対勇者でも話せない、でしたっけ?」
私の言葉に沙夜ちゃんは頷きました。
「対勇者は本来勇者の敵で、国が立場を保証するなんてありえないわ。普通なら『対勇者なんかに』言えないって返してくるはずよ。なのにあの女は『例え対勇者だとしても』言えないって返してきたわ。まるであたしが対勇者だからじゃなくて、魔王軍に属しているから言えないって言ってるようなものじゃない」
確かに…。対勇者という立場に何らかの優位性がないと出てこない発言かもしれません。
「なるほど。対勇者が関わってるなら貴族派があいつにうまく取り入れたのも説明できるな。対勇者ならどうすればカネダの独善に沿う形で交渉できるか把握してるだろうしな」
「それに金田にこだわる理由も説明できるわ。多分対勇者は金田が成功する所しか見たことがないのよ。だから金田を取り込めばうまくいくと思ってるのよ」
それを聞いたイドルさんは地面に魔法陣を書き出しました。
「至急王に報告しないとな。悪いが後は自力で帰ってくれ。『テレポーテーション』」
そう唱えるとイドルさんはルーシーさんと一緒に消えてしまいました。
少し強引すぎたかもしれません。次も一気に話が進められる予定です。




