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貴族派

私たちがヘレンさんについて行くと路地裏にたどり着きました。あ、ヘレンさんっていうのは片眼鏡の人ろです。大人しそうな人はメアリーさんで白衣を着た人がフレデリカさん。十二単の人はサエさんです。

「…今ならまだ引き返すことはできるけどどうする?」

ヘレンさんは私の方を振り向いて言いました。

「いえ。闇があると言うなら逃げるわけにはいきません」

私がそう言うとヘレンさんは微笑みました。

「そうかい。じゃあ行くよ」

ヘレンさんはそう言って歩きだした。


「な、何なんですかここ」

私たちがたどりついたのは寂れた住宅街でした。人々はみんな痩せ細っていて、汚れた格好をしています。うまく言えませんけど生活に困っていることだけはわかります。

「ここがこの国の闇の1つである難民街だ」

ヘレンさんは真剣な顔をして言いました。

「難民街ねえ。この人たちは一体どこから流れてきたのよ?」

沙夜ちゃんは探るような目でヘレンさんを見ました。

「…領地経営に失敗した結果生まれた難民もいる。しかしほとんどが貴族派の私腹を満たすための政策のせいで生活が苦しくなって逃げてきた人々だ」

ヘレンさんは吐き捨てるように言いました。

「そ、そんな!一体民を何だと思ってるんですか?!」

私の言葉にヘレンさんは苦笑いを浮かべました。

「さあな。きっと自分を富ませるための道具とでも思ってるんだろうさ。そのような悪政私にはとてもできやしないよ」


「それ以上に問題なのはそんな領地に取り残されてる領民の方よ。ここよりもっと生活苦しいんじゃないの?」

沙夜ちゃんが真剣な顔をして言いました。

「…だろうね。ここなら神殿から配給があるからまだ食い繋いでいくことはできる。だが腐敗した貴族たちが民の生活に気を配っているとはとても思えないよ」

ヘレンさんは苦々しげに言いました。

「…何でそれで国が動かないんですか!」

私は思わず叫びました。


「今は貴族討伐に兵力割いてる余裕ないんスよ。そんなことしたら間違いなく魔族が攻めこんでくるッス。貴族派は兵の数だけは多いから攻略に時間がかかるんス」

「……それに難民の話だけを鵜呑みするわけにもいきません。……証拠もないのに貴族を処分すると言うことは貴族領への内政干渉を許すことになってしまいます。……今の王は一応信用できますが、そんな前例を作ってしまうと後の世で禍根が残る可能性があります」

フレデリカさんとメアリーさんが詳しく解説してくれました。

「そもそも貴族派の正確な規模がわかっていないんだよ。烏合の衆なのもあるけど弱味を握って脅したり、金で買収したりして協力者や内通者を増やしたりしてるんだ。動く前に察知されては意味がないだろう?」

ヘレンさんは神妙な顔で言いました。


「…わかりました。つまりそれらの問題が解決できればいいのですね!」

私がそう言うと沙夜ちゃん以外ずっこけました。

「あれ、私何か間違ったこと言いました?」

私がそう言うと3人が呆れたような目で見てきた。

「……いいえ。……確かにそうなんですけど」

「簡単に言ってくれてるッスね…」

「…なんか釈然としないな」

どうしたんでしょう。何だか様子がおかしいです。

「…相変わらず単純な思考回路ね。まあ嫌いじゃないけどそういうの」

沙夜ちゃんは苦笑しながら言いました。

「お姉様。そこはツッコんで欲しいんスけど」

「だって今更だもの。それに光が言うことは間違ってはいないでしょ。ただちょっと足りてないだけよ」

…何だか失礼なことを言われてるような気がします。


「…あ、ちょうど来たみたいだね」

ヘレンさんがそう言うと後ろから数台の荷馬車がやってきました。

「おお!物資が届いたぞ!」

「ありがてえ。これでしばらく食いつなげる」

荷馬車を見て難民街の人々は喜んでます。中身は食料などでしょうか。

「この程度では正直気休めにしかならないよ。でもやらないよりはずっとマシだろう」

ヘレンさんは苦笑しながら言いました。

「まあそうね。確かに出来ることなんか限られてるかもしれないけど何もやらないよりはいいわよね」

沙夜ちゃんは冷静に言いました。

「出来ること、ですか」

私は腰にある刀を見ました。勇者の力があればなんとか…。ダメですね。確かに今の私の力なら可能かもしれません。でもそれだと勝っても負けても多くの人々が犠牲になります。まだ出来ることがあるかもしれないのに何でも力で解決しようとしても無用な血が流れるだけです。


「…今私に出来るのは魔王と会うために力をつけることですね」

「……え?……魔王を倒すためではなくてですか?」

私の言葉にメアリーさんが疑問を投げかけました。

「だって誰も魔王側の言い分は聞けてないでしょう?ならまず魔王の前に立って直接確かめるしかないじゃないですか。もしかして話せばわかるかもしれません」

「…それで話が通じなかったらどうする?」

ヘレンさんは私を鋭い目で見ました。

「それはその時考えます。どちらにしても何も知らずに相手を悪だと断じるのはよくないです。まずは相手のことを理解しようとすることが必要でしょう」

私がそう言うとみんな黙り込みました。

「まあ間違ってはないわね。でもそれって言うほど楽じゃないわよ。もし何か譲れない理由があって世界征服とか言ってるならその思いごと魔王を倒さないといけなくなるわ。相手を一方的に悪いと決めつけた方が気持ちは遥かに楽になるわ。それでも相手のことを知る覚悟はある?」

沙夜ちゃんが私の目をまっすぐ見ながら言いました。

「もちろんです」

沙夜ちゃんは私の目を見て肩をすくめました。

「はあ。本当にバカなんだから。まあそんなバカに付き合ってるあたしも似たようなものなのかもしれないけど」

沙夜ちゃんはそう言って微笑みました。

ーーーーー


私たちはヘレンさんを残してお城に戻りました。本当はもっといたかったんですけど、あんな大勢の前で勇者だとバレると大変ということで追い返されてしまいました。

「じゃ、ここらへんで」

そこまで言ったフレデリカさんの顔が歪みました。一体どうしたんでしょうか?

「あら、誰かと思えば弱小派閥の皆様方じゃない」

そう言ったのは金髪の女の人でした。…あれ?この人どこかで見たような気が…。

「もしかして金田の女…A?」

あ、そうです。金田さんと一緒にいた人でした。でも今沙夜ちゃんAって言いましたよね。沙夜ちゃんは金田さんと他の女の人といるのを見たことがあるんでしょうか?

「あ、勇者様方もいたんですか。下級貴族の分際で勇者に取り入るなんてすごいじゃない」

…なんでしょう。全くほめられてる気がしません。

「それほどでもないッスよ。先祖の名を汚すような恥さらしの無能よりはマシってだけの話ッス」

フレデリカさんがそう言うと女Aさんの顔が真っ赤になりました。

「だ、誰が無能の恥さらしですって?!」

「……別に誰がとは言ってません。……もしかして自覚でもあるんですか?」

メアリーさんがすかさず追い打ちをかけました。

「ぐ、ぐぬぬ」

女Aさんは歯ぎしりしながらフレデリカさんとメアリーさんをにらみつけました。


「勇者に取り入ると言えばあんたも金田に媚売ってるわよね?」

沙夜ちゃんが鋭い目で女Aさんを見ました。

「そ、そんなの関係ないでしょう!」

「ええ。正直あいつなんかどうでもいいわ。でもなんであんなのに取り入ろうとしてるの?どう考えても召喚された中では最悪だと思うんだけど」

沙夜ちゃんは女Aさんの目をじーっと見ながら質問しました。

「わ、私だって好きでやってるわけないじゃない!父上があの方の命令だって言うからしかたなく…」

…あれ、今ものすごく聞き捨てならないことを聞いたような気がします。

「…あの方?誰よあの方って?」

沙夜ちゃんは他の所にツッコミました。本当に金田さん自体はどうでもいいみたいですね。

「ふ、フン!そんなの答えるわけないでしょ。いくらあんたが対勇者だとしてもね!」

女Aさんはそう言うときびすを返しました。

「全く。時間の無駄だったわ。ごきげんよう負け犬ども!」

女Aさんは捨てゼリフを残して去って行きました。


「もしかしてあれが貴族派?」

沙夜ちゃんはフレデリカさんに聞きました。

「そうッス。しかも派閥の長の娘なんスよあれ」

あれが貴族派ですか。あれは完全に私たちのことを見下してました。きっと民のことなんて何とも思ってないんでしょう。

「ふーん」

沙夜ちゃんは凄味がある笑顔を浮かべながら女Aさんが去っていった方向を見ていました。



すみません。実家に帰ってたのと偽勇者の衝撃が大きすぎたのもあって更新が遅れました。ああなってることに気付いた時は伏線のすごさに鳥肌が立ちましたが、あれが計算されてないと知った時には背筋が凍りつきました。冷静に考えるとご都合主義やちょっとした設定の穴が重なった結果なんでしょうけど、相手があれ過ぎて笑えません。おそらく書いた本人が一番驚いていると思います。

次回は残念ながら話はあまり進まない予定です。

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