2013年12月 競馬場探検
トランクバークの次走は12月15日に行われる阪神カップ(GⅡ、阪神芝1400m、1着賞金7000万円)に決まった。
最初に登録した馬は、フルゲート18頭に対して20頭だった。
本賞金の少ないトランクバークは、このままでは除外対象馬になってしまうところだった。
しかし、回避馬が4頭出たため最終的には16頭になり、幸運にも出走にこぎつけることができた。
阪神Cの主な出走予定馬は、次のようになっていた。
・フォーククラフト(4歳)… 10戦5勝、主な優勝レース:高松宮記念(GⅠ)、CBC賞(GⅢ)、札幌2歳S(GⅢ)、東京スポーツ杯2歳S(GⅢ)
※CBC賞の後は、天皇賞(秋)7着、マイルチャンピオンシップ4着となった。本来ならマイルCSで引退予定だったが、「このままでは終われない。」と言う馬主の大車さんの意見で引退を撤回し、このレースを引退レースにしてきた。
・ファントムブレイン(5歳)… 21戦9勝、主な優勝レース:マイルCS(GⅠ)、オールカマー(GⅡ)、函館スプリントS(GⅢ)、新潟記念(GⅢ)
※函館SS優勝の後、オールカマーを優勝、天皇賞(秋)4着、マイルCSを優勝(フォーククラフトが4着)して、このレースに挑んできた。
※ゲームでは7歳まで走り、34戦14勝、GⅠ4勝(マイルCS2回、高松宮記念、スプリンターズS)、GⅡ3勝、GⅢ2勝を挙げました。最終獲得賞金は8億4445万円で、レコードホルダーです。
・マイティファントム(3歳)… 9戦4勝、主な優勝レース:桜花賞(GⅠ)、フィリーズレビュー(GⅡ)
※秋は秋華賞2着、エリザベス女王杯4着を経て、このレースに挑んできた。
・ホタルブクロ(4歳)… 15戦6勝、主な優勝レース:金鯱賞(GⅡ)、マーチS(GⅢ)
※ゲームでは6歳時に安田記念と有馬記念を制覇しました。
GⅠ馬3頭を含む、豪華メンバーがそろったが、星君は臆することはなかった。
いよいよGⅡ阪神カップの日がやってきた。
トランクバークは体重をきっちりとしぼって仕上げた後、当日輸送で阪神競馬場までやってきた。
木野家の3人は当日の朝早起きして、名古屋駅から新幹線に乗って競馬場にやってきた。
競馬場は午前中から大きな盛り上がりを見せていた。それは入り口ゲートを通過してすぐに分かった。
「お父さん、お母さん。まだ午前中なのに人がすごいわね。」
「本当ね。GⅠレースでもないのに、こんなに人が集まるものなのかしら?」
可憐と笑美子は予想外の盛り上がりに驚いていた。
「多分、豪華メンバーに加えて、フォーククラフトという馬の引退レースだからじゃないのかな。」
求次は理由が良く分からないながらも、推測で答えた。
「あなた、確かその馬はCBC賞を勝ったでしょう?」
「そう。トランクバークが2着になったレースの勝ち馬だ。」
「じゃあお父さん、今日はトランクがその時の借りを返してくれるといいわね。」
「まあそうなんだが、フォーククラフトとは実力差があるから、あまり期待しないでくれ。CBC賞はハンデ戦だったから、うちは斤量を軽くしてくれたが、このレースは定量戦で、ハンデなしでの勝負になるからな。」
「はあい。」
3人は色々と会話をしながら関係者エリアへと歩いていった。
その1時間後、今度は星厩舎の3人が阪神競馬場に到着した。
彼らは急いで関係者エリアに行き、すでに到着している求次達に合流した。
「木野さん、おはようございます。」
星君は求次達を見るなり、歩きながら声をかけてきた。
「またお会いできてうれしいです。」
「Good Morning!」
村重君とスクーグさんも続いてあいさつをした。
「こちらこそ、また会えて光栄です。」
求次はお辞儀をしながらあいさつを返した。
「厩舎の皆さん、お世話になります。」
「こんにちはーーー!!」
笑美子と可憐も続いてあいさつをした。
(可憐さんは右手を上げながら、ちょっと調子に乗っているようにあいさつをした。)
6人は円を作るように並びながら色々と会話をした。
その中で、ふと可憐が
「ねえお父さん。私、関係者エリアばかりじゃなくて、たまには一般のお客さんに混じって、お客さんの目線でレースを見たい。」
と言い出してきた。
「ええっ?せっかく関係者しか入れない場所にいるのに!?」
思わぬ発言を受け、求次は驚いて声をかけた。
「だってお父さん、いつもここばかりじゃつまんないもん。たまには外に出たい。」
可憐は顔をしかめながら言い返した。
「……。」
求次は腕組みをしながら考え込んでしまった。
「木野さん、まあいいじゃないですか。」
声をかけてきたのは星君だった。
「えっ?」
求次は慌てるように彼の方を見た。
「競馬場なんてそんなにたくさん来られるところじゃないし、いいでしょう。」
「本当?星調教師さんありがとうっ!」
可憐ははしゃぐように喜びながら言った。
「まあ…、そこまで言うのなら…。」
最初は難色を示していた求次も、星君の意見に押される形でOKを出した。
ただし単独行動をしないこと、そしてメインレースの阪神Cまでには戻ってくることという条件を出した。
それを踏まえて、可憐は笑美子とスクーグさんの3人で行くことになった。
求次、星君、村重君の3人は彼女達が関係者エリアから出て行くのを黙って見届けた。
姿が見えなくなった後、星君が
「木野さん、お宅の娘さん変わりましたね。桜花賞でお会いした時には、何か嫌々来たような雰囲気があったのに、今は楽しそうに来ていますから。」
と言ってきた。
「確かにそうですね。以前は全く馬に無関心でしたが、今はこんなに競馬に興味を持つようになりましたし。それに、以前トランクバークが骨折で放牧していた時には、えさやりや掃除も手伝ってくれましたから。」
「それは助かりますね。高校を卒業したら娘さんが従業員になってくれるかもしれませんね。」
「そればかりは分かりません。娘の人生ですから。でも、手伝ってくれたらうれしいですね。」
求次と星君が会話をしていると、ふと村重君が
「でも、木野さんって、案外心配性なんじゃないですか?」
と言ってきた。
「そ、そんなことは。」
「だってそうじゃないですか。さっき可憐さんが競馬場探検したいと言ったに対して、なかなかOKを出さなかったですし。」
「あれは、その…。」
求次は返答に困ってしまった。
「ハハハ…。」
「ハハハ…。」
星君と村重君の笑い声が辺りにこだました。
一方の可憐、笑美子、スクーグさんの3人は、観客席や馬券売り場を見て回った後、パドックのところにやってきた。
その時は、ちょうど第5レースに出走する馬達が本馬場入場した後だった。
「お母さん、ここほとんど誰もいないわね。」
「そうね。ちょっとタイミング悪かったかもしれないわね。」
「本馬場に行く?」
「行ってもいいけれど、混んでいると思うわよ。」
「じゃあ、どうしよう。」
可憐と笑美子が会話をしているかたわらで、スクーグさんはフェンスにかけられている垂れ幕を何気なく見つめていた。
そこには
「感動をありがとう!フォーククラフト!」
「FolkCraft, Never Forget you!」
と、このレースで引退するフォーククラフトを応援するものが多かった。
他にも、ファントムブレインやマイティファントムを応援する垂れ幕も見受けられた。
その中で、ふと一枚の垂れ幕が目に入った。
「あっ、あれ!」
彼女はその場所を指差しながら叫んだ。
「何、いきなり?」
「何かあったのですか?」
可憐と笑美子が驚きながら問いかけた。
「あれ、うちの馬よ!」
スクーグさんが言った。
彼女が指差している垂れ幕には、確かに「Go, Go, トランクバーク」と書かれていた。
「きゃああっ!本当、本当!!すごーーーい!!」
「本当ね!でも同じ名前の、別の馬なんかじゃないわよね?」
飛び上がって喜ぶ可憐の隣で、笑美子は半信半疑の様子を見せていた。
「競馬の規則では、同じ名前の馬を同時期に登録することは禁止になっているわよ。だから、あの『トランクバーク』という名前は、間違いなくうちの馬よ。」
スクーグさんは競馬の知識に詳しいというだけあって、あっさりと答えた。
「あら、そうなの?」
「Yes、Emikoさん。」
「じゃあ、この競馬場にきた誰かさんが、お父さんの管理するトランクバークのファンになったってことなのね!うれしいっ!」
可憐は喜びを爆発させていた。
彼女はさらに「あの垂れ幕を作った人にサインもらいに行きたい。」とまで言い出したが、さすがにそれは却下された。
3人は競馬場のあちこちをまわりながら、一緒にレースを見たり食事を摂ったりして、楽しく過ごしていた。




