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2013年6月 憧れの存在

 この章では、馬が会話をする設定になっています。

 また、トランクバークを「彼女」と表現している箇所もあります。

 個人的には、タイトルが「トランクバーク号物語」なのに、馬が脇役になっているような気がしていたので、この章を新たに書き下ろしました。


 CBC賞のゴール前、先頭を走っていたトランクバークの横を、断然1番人気のフォーククラフトが抜いていった。

 その姿を見て、トランクバークはガクンとペースが落ち、最終的には2馬身半差をつけられて、2着になった。

 ゴール板通過後、彼女はクールダウンをしながら、フォーククラフトの後ろ姿をじっと見つめていた。

「どうしたんだ?戻るぞ。」

 鞍上の久矢騎手が手綱を引きながら促した。

『ちょ、ちょっと待って。あの馬と話をしてみたいの。』

 トランクバークはそう言いながら(※実際は『ヒヒーン』と鳴きながら)嫌がる素振りを見せた。

「だめ。この後検量が控えているんだから、早く戻ろうよ。」

『……。』

「さあ、戻るぞ。」

『…分かったわよ。』

 久矢騎手のゴリ押しに負けたのか、トランクバークは渋々戻ることに同意した。


 関係者エリアに戻る途中、ふと観客席から「ワーッ」という大歓声が聞こえてきた。

(な、何?何なの?)

 彼女はビクッと驚いて、アタフタしながら周りを見渡した。

 すると、そばをフォーククラフトが小走りで通過していった。

 鞍上の坂江騎手は左手を高々と上げて観客からの声援に応えていた。

 フォーククラフトはすでに大舞台に慣れているのか、大歓声を受けても平然としていた。

(かっこいい。あんな騒音を受けても堂々としているなんて…。)

 トランクバークはそう思いながら立ち止まった。

(※どうやら彼女にとって観客からの歓声は騒音にしか聞こえていないようです。競馬ファンの皆さん、できるだけ馬を驚かさないように観戦しましょう。)

「こらこら。早く行くぞ。」

 久矢騎手は手綱をグイグイと引いた。

 トランクバークは『何よ!』と言いながら(鳴きながら)久矢騎手をにらみつけた。

 しかし、フォーククラフトが1着になった馬の引き上げ場所に入っていくのを見て、やっと行く気になった。


『アタシはどこの場所に入ればいいの?』

「2着馬の場所だよ。ほらフォーククラフトの隣。」

『ええっ?』

 トランクバークはお目当ての馬と思わぬツーショットになり、思わず顔を赤らめてしまった。

 久矢騎手は馬から下り、求次、星君、村重君とレース結果について色々話をしていた。

 その中で、トランクバークはチャンスとばかりにフォーククラフトに何とか話しかけようとした。

 しかし、考えれば考えるほど、言葉に詰まってしまい、話しかけられなくなってしまった。

 すると隣から

『君、もしかして3歳馬?』

 と言う声がした。

『えっ!?』

 トランクバークはドキッとして声がした方を見た。もちろん声の主はフォーククラフトだった。

 相手から先に話しかけられた彼女は、思わずびっくりしながら

『あっ…、はい。あの…、3歳馬です…。』

 と、答えた。

『そんなに緊張しなくてもいいよ。それにしてもすごいね。3歳でこのレース2着になるなんて。』

『そ、そうですか?』

『うん。僕、フォーククラフトって言うんだ。君は?』

 彼は興味津々に聞いてきた。

『あの…、ト、トランクバークと言いますっ!』

 彼女はたどたどしい口調で何とか答えた。

『いい名前だね。』

『あ、ありがとうございますっ!』

『また一緒のレースに出られるといいね。』

『い、一緒のレースですか?』

 フォーククラフトから意外な言葉をかけられ、彼女は顔を赤らめたまま驚いた。

『うん。走れるうちに、色んな馬達と走って、色んな勝負をしてみたいんだ。』

『走れるうちにって、どういうことですか?』

 トランクバークは少しずつ緊張が解けてきたのか、段々口調が安定してきた。

『えっ?ああ、その、えっと…。』

 フォーククラフトは少し慌てながらどうしようか考えた。

『でもまあ、君になら話してもいいかな?』

 彼はそう言って、自分のいきさつを話してくれた。

(※内容は番外編参照です。)

『…というわけなんだ。だからこそ、今の僕は走れることがうれしくてたまらないんだ。引退までにたくさんの名勝負をして、人間の記憶に残る馬になりたいんだ。すでに、3月の高松宮記念制覇で、大勢の人を勇気付けることができたし、あの感動をもう一度って思っているんだ。』

『す、すごいですね。そんな気持ちになれるなんて。』

『走りたくても走れない、そんな辛さを経験してきたからね。』

『そうだったんですね。』

 2頭はいつの間にか、すっかり話に夢中になっていた。


 その頃、フォーククラフトの関係者も求次達と会話をしていた。

「私、フォーククラフトの馬主の大車おおぐるま鷲子しょうこと申します。」

「3歳馬が果敢にこのレースに挑戦して2着とは、やりますね。」

「また一緒のレースに出られるといいですね。」

 大車さんを始めとする関係者の人達は、まるでフォーククラフトと瓜二つのようなことを言っていた。


 やがて、表彰式の準備が整うと、フォーククラフトは大車さんに手綱を引っ張られながら、ウィナーズサークルに行くように催促された。

『ええっ?ちょっと待ってよ。せっかく会話で盛り上がっているのに。』

 フォーククラフトはそう言いながら抵抗をした。

「だめよ。坂江騎手も出てきたし、牝馬に夢中になってないで、行きましょう。」

 彼女は再度手綱を引っ張って催促をした。

 結局、フォーククラフトはそれを受け入れ、ウィナーズサークルに行くことを決めた。

『それじゃ、僕は今から表彰式に行くよ。もっと話したかったけれど、ごめんね。』

『えっ?そ、そんなことないです。フォークさんと話をすることができてうれしかったです。』

『頑張ってね。そしてまた一緒のレースを走ろうね。』

 フォーククラフトはそう言い残すと、大勢の関係者の人達と一緒に表彰式に向かっていった。

 その様子を、トランクバークは憧れのまなざしでじっと見つめていた。


 フォーククラフトは8戦5勝、2着3回という強さだけでなく、大怪我から奇跡の復活でGⅠを制し、ファンを魅了したスターホース。

 一方で、自分はこのレース2着で、ギリギリオープン入りを果たしたばかりの重賞未勝利馬。

 あまりにも大きなギャップがあったが、これがかえってトランクバークの心に火をつけた。

(またあの馬と走りたい。そのためにはアタシも頑張って、重賞レースの常連にならなければ…。)

 彼女はそう心に誓いながら、求次達と一緒に馬運車のところへ向かっていった。


 この章で登場した、大車鷲子さんについて解説をしておきます。


 名前の由来

 デコトラのしゅうの車BIG

 このBGMが、千葉ロッテマリーンズのチャンステーマとして使われています。


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