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2013年5月 地元に初見参

 5月下旬、東京競馬と中京競馬が始まった。

 同時に本賞金900万円のトランクバークは、オープンから1000万下に降級となった。


 もうすぐ6月のある日、求次は牧場の一角を使って作った家庭菜園で、農作業をしていた。

 作業が一段落して事務所でお茶を飲んでいると、ふと携帯電話が鳴り出した。

 相手は星君だった。

「もしもし、木野です。」

『星です。こんにちは。』

「こんにちは。みなさん元気ですか?」

『はい。善郎君も咲さんも、そしてトランクバークも元気にやっていますよ。トランクは今、次走に向けて調整をしているところです。』

「次走は決まりそうですか?」

『今のところ2つの候補がありまして、どちらにしようか考えているところです。両方とも中京競馬場ですよ。』

「中京ですか?」

『はい。木野さんの地元ですから、久しぶりにトランクバークと間近で触れ合えますよ。』

「ありがとうございます。それで、その候補は何ですか?」

『一つは3歳1000万下の「あおぎりステークス」、もう一つは「CBC賞」です。どちらも6月9日に行われるレースですよ。』

 それを聞いて、求次の表情が変わった。

「CBC賞って、それ3歳以上のGⅢじゃないですか!?」

『はい、そうです。』

 星君は声色一つ変えずに言った。

「勝負になるんでしょうか?普通に考えればあおぎりSを使うところですが。」

『もちろん、それも選択肢に入れています。登録した馬を見た上で決めます。』

「分かりました。どちらにしても6月9日ですね。」

『はい、そうです。楽しみにしていてください。』

 星君はそう言って電話を切った。


 その日の夜、求次は夕食の席で笑美子と可憐にそのことを話し、当日競馬場に来ないかと尋ねてみた。

 笑美子はそれを聞いて少し顔をしかめた。

「私は…、ちょっと…。」

「どうした?」

「…遠慮しようかと思いまして…。」

「せっかく地元の中京競馬場に来るのに?」

「はい。桜花賞の時に、いまいち競馬場の雰囲気に馴染めなくて…。」

「まあ、あの時は大レースだったからな。今度はそんなにすごい雰囲気ではないと思うが。」

「でも…、やっぱり遠慮したいと思います。」

 笑美子は、求次が競走馬の馬主として生活を成り立たせようとしていることを、まだ素直に受け入れられずにいた。

 競馬場の雰囲気に馴染めなかったことも確かにあるが、本音はそちらの理由で結局断ってしまった。

「ねえ、その日に咲さんは来るの?」

 今度は可憐が言ってきた。

「そこまでは聞いてないな。調教師の星君は必ず来ると思うけれど。連絡してみようか?」

「いい。私が直接メールで連絡取るから。」

「そうか、分かった。でも厩舎の人達は朝が早いから、あまり遅い時間に連絡するのはやめておけよ。」

「はーい!」

 可憐は相変わらず茶目っ気たっぷりに答えた。


 夕食後、早速彼女は携帯電話でスクーグさんにメールを送ることにした。

 最初は日本語で文章を作っていたが、ふと英語で作ることを思いついた。

 そのため、それまでに作った文章をクリアーして、今度は英語で打ち始めた。

「Hello, Saki-san. My name is Karen Kino.

 Will you go to Chukyo on June 9th?」

 まだ英語で文章を作ることに慣れていない可憐は、これだけ文章を打って送信をした。

 しばらくして、返事が返ってきた。

「咲さんからだ。果たして来てくれるかな?」

 可憐はワクワクしながらメールを見た。

「Hello, Karen. Is everything alright?

 Thank you for your e-mail.

 On that day, I’m going to take care of other horses in our team.

 I’m sorry I won’t be able to see you in the Chukyo race course.

 Anyway, please have a good time. See you.」

「うわっ!こんなにたくさんっ!」

 可憐は驚きながらも内容を読み、スクーグさんが来られないことを理解した。

「何だあ、来ないんだあ…。つまんないの。」

 彼女はふくれ顔をしながら携帯電話の画面を見つめていた。


 30分後、可憐が部屋で勉強をしていると、また携帯電話が鳴った。

「誰かしら?」

 彼女ベッドに置いてあった携帯電話を手に取った。相手はスクーグさんだった。

「ハロー、咲さん。」

『Hello, Karen. Thank you for your mail.』

「I…, I read… your mail.」

『Thanks! As I said, I’ll be absent on June 9th. You know, we have to save money. I wish we had enough budget.』

「え、えっと…。」

 可憐はスクーグさんの英語についていけなくなり、返答に困ってしまった。

『日本語で話した方がいい?』

「…はい…。早く英語で話せるようになりたいと思っているのに…。」

『Never mind and don’t give up!それじゃ、本題に入るけれど、TrunkBarkは6月3日に中京競馬場に来て、1週間滞在することが決まったの。』

「6月3日?」

『そうよ。それでね、その間、村重さんがそちらへ行くことになるんだけれど、もしよろしければあなたの家に彼を泊めてもらえないかしら?』

「私の家で?」

『そうよ。先生がそうお願いできないかと頼んできたの。別に無理にとは言わないわ。ちょっと聞いてみただけだから。』

「じゃあ、お父さんとお母さんに聞いてみるから、ちょっと待ってもらってもいい?」

『OK, I got it.』

 可憐は早速求次と笑美子に聞きに行った。

「僕としては大歓迎だ。あとは笑美子さえOKを出してくれれば。」

「かまいませんよ。では、空いている部屋を片付けて寝室用にしましょう。」

「分かった。じゃあ、早速片付けるとするか。」

「はい。」

 それを聞いて、可憐は持っていた携帯電話ですぐにスクーグさんに伝えた。

『Oh, Thank you very much!それじゃ早速先生に伝えておきます。1週間村重さんをよろしくお願いします。』

「分かりました。それじゃ、えっとGood night.」

『Good night.』

 可憐は会話が終わると電話を切り、自分の部屋へと戻っていった。


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