蒼之育親。
うとうと…うとうと…
あと五秒で夢の世界へ旅立て「旅立つなアホンダラァァァ!!!!!!」
……いきなり、俺が寝る寸前で妨害してくる無粋な声が一つ。
「……朝っぱらからウルセェんだよクソジジィィィィ!!!!」
何度も何度も聞き慣れた声。優しくも厳しい、俺の育ての親。
グラン・ガルディオス。この村最年長にして、村の長を務める男。
俺が物心つく前から俺の世話をしてくれ、ここまで育ててくれた男。
俺がこの世で最も感謝している男。
「くっ、クソジジイとはなんじゃ、そんな子に育てた覚えはないぞい!?」
「そんな子に育てられたから、こんな風に成長してんだよクソジジイ」
「また言った!?……ワシ、泣いて良い?」
「泣くなら俺の目の届かない所で。目に猛毒だから。俺の目が死ぬから。」
「あんまりじゃあ!?」
こんな風に軽口を叩けるのも、このジジイを信用してるから。……なんだろうな、やっぱり。
俺は、森に捨てられてたらしい。それをジジイが拾って、育ててくれた。
このジジイにはいくら感謝しても足らない。絶対口には出さないけど。
「…で、なんか用なのかよ?」
「お主のぉ……昨日の内に、朝ワシの所に来るようにと言っておったじゃろうが……」
「あー……忘れてた☆」
「忘れんなぁぁぁぁ!!!!」
「おいおい、そんな怒鳴ってばっかだと……禿げるぞ?」
「大きなお世話じゃあぁぁ!!」
「…あ、ゴメン、もう手遅れだったか。」
「やかましいわぁぁ!」
「はいはい、で、何の用?」
「話振り出しに戻ったような……。まぁ良いわい、お主を呼んだのは、お主の学園入学のことについてじゃ」
「あぁ……そういえばもうそんな年だったっけ。大きくなったねぇ……俺。」
「それはワシが言うべきセリフなんじゃがのぅ……
ともかく、お主は国の制度により、サンクワールの首都の学園に入学しなければならぬ。」
「国のお偉いさんも面倒な制度を作るよなぁ……まぁ良いけど。」
「……ホ?」
「んぁ?どうしたんだよ、そんな鳩がマシンガン喰らったみたいな顔して。」
「鳩がマシンガン喰らったら死ぬからのぅ!?鳩はそんなに強くないぞい!?
いや、お主はもっと行くのを渋ると思っておったんじゃが……」
「確かに面倒だけど、俺の夢を叶えるのには一番近道だからな。」
「お主の夢、か……まぁ確かにあそこは国立図書館や優秀な魔導師や刻紋師が居る。
力をつけるにはもってこいじゃのう。」
俺の夢……少しでも多くの人を救うこと。
理想だってことは分かってる。傲慢な考えだってことも。
でも、だからどうした?
理想だからこそ、叶えたいと人は願う。
叶うまでの道は遠い、でも叶わない訳じゃない。
例えその道の終着点が那由他の彼方に有ろうと‐‐必ず辿り着く。
傲慢だと言われても良い。後ろ指を指されても構わない。
身の程に相当しない夢だというのなら‐‐相当する力をつけてやる。
救われる人の考えなど、知らない。
俺のために、俺が俺であるために‐‐この夢を叶えるよ。
「ジジイ……俺は、強くなるよ。」
「(良い目をするようになった……。あれほど小さかった子供がこんな立派な男に……。
のうリオン、フィーナ……シンジはお主らの血を立派に引き継いでおるぞ……)」
「……ジジイ?」
「っと、すまぬ。考え事をしておっての。あい分かった!
シンジよ、準備を整え首都へ向かいなさい。出発は三日後!村の者達にも伝えておくんじゃぞ?」
「分かった、準備はしておくよ。」
「うむ、それではワシは家に帰るとする。邪魔をしたな。」
「二度と来んな。」
「別れ際にそれは酷くない!?」
ジジイはぶつくさ言いながら、自らの家へ帰って行った。
しかし、学園、か……。どうなることやら。
まぁ、難しいことは寝てから考えよう。
今度こそ俺はベッドに飛び込み、意識を手放した‐‐‐‐
少年には親は側に居らず、ルナシアという村の村長に育てられていました。
少年には夢がありました。
色んな人をこの手で救うという夢が。
それが理想であり、傲慢であるということを少年は知っていました。
しかし、決して諦めることはありませんでした。
いつか辿り着くという決意を胸に秘めていたから。
かくして少年は夢を叶える力を得るため、その国の首都に向かいます。
その背に、壮大な夢と大変な運命を背負って。




