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2話 ヒロインは、私が育成いたします

「さあ、始めましょうか。私の後釜探しを」


レオを部屋に残し、私は手元の「ターゲットリスト」にチェックを入れた。

アストル王子を私から奪い、私を断罪してくれる「運命のヒロイン」。原作小説では、純真無垢な心で王子の心を射止めることになっていた男爵令嬢マリア。


だが、今の彼女はまだ、社交界の隅で震えているだけの地味な少女に過ぎない。

今のままでは、あのおバカな王子が彼女を見つけるまであと1年はかかる。そんなに待っていたら、私は過労で死んでしまうわ。


「なら、私が彼女を『輝くヒロイン』にしてあげればいいのよ」


私はさっそく、放課後の図書室へと向かった。

そこには、予想通り古びた本を抱えて所在なさげにしているマリアの姿があった。


「ごめんあそばせ。あなたがマリア・フォン・ローズ男爵令嬢ね?」


私の声に、マリアはビクリと肩を揺らした。

「は、はい……! あの、公爵令嬢様が私に何か……?」


怯える子リスのような目。うん、守護欲をそそるわね。これならあのアストルもイチコロだわ。

私は扇で口元を隠し、わざとらしく冷徹な、いわゆる「悪役令嬢」らしい微笑みを浮かべた。


「あなた、今のままでは一生その薄汚れた図書室がお似合いですわよ。……王子殿下に見初められたいとは思いませんか?」


「えっ……? お、王子様……?」


「そう。殿下は、守ってあげたくなるような、庇護欲をそそる女性が好みなの。今のあなたには『華』が足りないわ」


私はマリアの目の前に、一通の招待状と、一箱の宝石を置いた。

中身は、私が「趣味に合わない」として弾いた、派手すぎないが上質な真珠の首飾りだ。


「これを使って、今度の夜会にいらっしゃい。……ただし、私に内密で、ね?」


「ど、どうしてそんなことを……?」


「決まっているでしょう? 退屈な社交界に、少しばかりのスパイスが欲しいだけですわ」


……嘘よ。

本当は、あなたに早く私から婚約者を奪ってほしいだけよ。

マリアは信じられないものを見る目で私と宝石を交互に見ていたが、やがてその瞳に欲の色が混じったのを、私は見逃さなかった。


(いいわ、その調子。欲のないヒロインなんて、扱いづらいだけだもの)


私は踵を返し、図書室を後にした。

廊下に出ると、壁に背を預けて待っていたレオが、影の中からぬるりと現れる。


「……お嬢様。あのような小娘に、あんな高価な真珠を。……毒でも仕込んだのですか?」


レオの声は、どこか冷ややかで、それでいて私を案じているような響きがある。


「毒なんて、そんな野蛮なことしないわよ。あれは『餌』。お魚を釣るには、良い餌が必要でしょう?」


「……お嬢様がそう仰るなら。ですが、あのような女のために時間を割くのは、私の心が騒ぎます」


レオが私の髪を一房掬い上げ、その先端に唇を寄せた。

彼の瞳は、獲物を狙う獣のように深く、暗い。


「レオ……?」


「あなたが望むなら、あの男爵令嬢も、王太子も、今夜のうちに消して差し上げますが?」


(……怖い! 愛が重すぎる!)


私は冷や汗を拭いながら、レオの頬を優しく撫でた。

「ダメよ、レオ。そんなことをしたら、私たちの『平和な未来』が遠のいてしまうわ。……私の計画を信じて」


「……あなたの仰る通りに」


レオは不満げに目を伏せたが、その手は私の髪を放そうとしなかった。


私は確信した。

この計画を成功させて、一刻も早くこの国を脱出しなければならない。

王子の無能さに殺される前に、あるいは、レオの重すぎる愛に文字通り「監禁」される前に。


「さあ、次は王子の『教育』ね」


私は心の中でガッツポーズを決め、次なる戦略へと足を進めた。

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