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14話 王国の心臓を止める、一通の通告

「……お嬢様。……グラナード王国の通貨『グラナ』の価値が、今朝、ついに暴落しました」


レオが、淹れたてのハーブティーと共に、最新の相場表を私の机に置いた。

ルナ・グラナード領の執務室。窓の外には、開拓が進み、活気に満ちた領都の街並みが広がっている。一方、私の手元にある数字は、かつての母国が「死」に向かっていることを冷酷に示していた。


「……暴落、か。……兄様の仕込みが、思ったより早く効いたわね」


私は相場表を一瞥し、ふっと溜息をついた。

グラナード王国の通貨「グラナ」は、金本位制を維持しているはずだった。だが、その裏付けとなる金の多くは、すでに私の「隠し資産」としてこの領地の金庫に眠っている。

さらに、兄カイルが王国内の主要な商人に「これからはグラナではなく、新領地の金貨で取引をすべきだ」と囁いたことで、市場にはグラナが溢れ返り、その価値は紙屑同然になっていた。


「お嬢様。……アストル王子は、この事態を打開するため、エリュシオン聖王国の『聖教過激派』から多額の資金援助を受けたようです。……その代価として、彼はある『禁忌の力』を王宮に招き入れました」


「……禁忌の力?」


「はい。……『古の守護者』と呼ばれる、古代魔法兵器の起動コードです。……彼はそれを使って、この領地を武力で再併合しようと目論んでいます」


(……アホね。……本当のアホだわ、アストル王子)


経済で負けているのに、武力で解決しようとする。それも、他国の過激派に弱みを握られた状態で。

そんなことをすれば、王国は再併合どころか、他国の傀儡かいらいになるだけだというのに。


「……レオ。……『資産隠し』の最終段階へ移行しましょう。……グラナード王国の全銀行に対し、私の保有する全債権の『即時金納』を要求して」


「……御意。……そうなれば、王国の銀行は一斉に支払い不能に陥り、完全な金融崩壊が起きますね。……お嬢様、やはり冷酷でいらっしゃる」


レオが、私の肩に手を置き、愛おしそうに髪に指を通す。

その瞳には、私の「悪逆非道(自称)」な手腕を、世界で一番の美徳だと言わんばかりの恍惚が宿っていた。


数時間後。

グラナード王国の王宮、執務室。

アストル王子は、真っ青な顔で、財務官たちから届けられる「破産通告」の山を眺めていた。


「……なんだ、これは! なぜ、リゼットの名前でこれほどの請求が来る! 彼女は追放されたはずだろう!」


「……殿下。……リゼット様は、追放される前に、王室が保有していた優良資産の多くを、自身の『個人口座』に付け替えていらっしゃいました。……それも、すべて殿下ご自身の『署名』と『捺印』がある書類に基づいた、合法的な手続きです」


「……私の署名……!? 覚えがないぞ!」


「……おそらく、殿下がマリア様との夜会で泥酔していらした際に、リゼット様が『教育予算の更新です』と差し出された書類かと思われます……」


財務官の声は、もはや絶望に染まっていた。

アストルは椅子を蹴り飛ばし、叫んだ。


「……くそっ! あの女! ……いいだろう、金がないなら力で奪うまでだ! 聖教から授かった『古の守護者』を起動させろ! あの領地ごと、リゼットを灰にしてやる!」


アストルの背後に立つ、黒いローブを着た聖教過激派の男が、不気味に微笑んだ。

「……御意。……殿下。……その怒りこそが、守護者を動かす糧となります。……さあ、復讐の時です」


王宮の地下。

数百年もの間、眠りについていた巨大な石像の兵器が、紅い光を放ちながら、その眼を開いた。


一方、ルナ・グラナード領では。


「……お嬢様。……王宮の地下から、巨大な魔力反応を検知しました。……アストルが、禁忌の兵器を起動させたようです」


レオが、窓の外の遠い空を見つめながら、静かに告げた。

その背後には、兄カイルも立っており、眼鏡を光らせながら不敵な笑みを浮かべていた。


「……来たか。……リゼット、準備はいいか?」


「……ええ、兄様。……経済で王国の心臓を止め、武力で王国のプライドを砕く。……これが、私の『最高の追放戦略』の締めくくりですわ」


私は立ち上がり、レオが差し出した「女王の風格」を湛えた漆黒の軍服風ドレスに袖を通した。

胸元には、奪った王国の国章ではなく、私が新しくデザインした「月と剣」の紋章が輝いている。


「レオ。……あの石像、壊してもいいかしら?」


「……壊す? ……いえ、お嬢様。……あれはもともと、グラナード王家の祖先が、民を守るために遺したもの。……今は、持ち主を間違えているだけです」


レオが私の腰を引き寄せ、その耳元で熱く、独占欲に満ちた声で囁いた。


「……私が、本当の『王の力』というものを見せて差し上げましょう。……お嬢様のために、あの守護者を跪かせてみせます」


レオの瞳が、これまでにないほど深く、神々しいまでの紅い輝きを放った。

伝説の魔人としての力が、ついにその全貌を現そうとしていた。

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