第5話:ボロ家を買ったら、聖域になった件
ギルド長から支払われた鑑定料は、アルスが一生遊んで暮らせるほどの白金貨だった。
だが、アルスに贅沢をするつもりはない。
「リリス、僕たちだけの拠点が欲しいんだ。薬を作るための静かな場所がね」
「お前の望むままに。……ふん、お前の隣ならどこでも構わんぞ」
リリスは顔を赤らめてそっぽを向くが、その尻尾(と翼)は嬉しそうに揺れていた。
二人が村の不動産屋を訪ねると、店主は困った顔で一つの物件を提案してきた。
「……村の外れに、古い屋敷があるんだがね。元は貴族の別荘だったらしいが、今は魔力汚染がひどくて、誰も住めない『呪われた家』と呼ばれているんだ。格安だが、お勧めはしないよ」
「魔力汚染? それなら僕の【調合】でなんとかなるかも。そこにします」
アルスは即決した。
案内された屋敷は、確かにひどい有様だった。
庭には枯れた蔦が絡まり、壁は黒ずみ、家全体から不気味な瘴気が漂っている。
「ふん、これはひどいな。魔族の私ですら、少し不快に感じるほどの澱みだぞ。アルス、やはり別の場所に……」
「大丈夫だよ、リリス。ちょっと待ってて」
アルスは腰のポーチから、街道で拾った石ころと、そこらへんの雑草を取り出した。
【調合】スキルの発動。
彼の手の中で、石と草が光り輝き、やがて一本の透明なスプレーボトルへと姿を変えた。
「特製・環境改善ポーション、完成だね」
アルスがその液体をシュッと一吹きすると、驚くべきことが起きた。
ポーションの霧が触れた瞬間、壁の黒ずみが雪が溶けるように消え去り、白亜の壁が蘇ったのだ。
さらに庭に撒けば、枯れていた木々に一瞬で緑が戻り、色鮮やかな花々が咲き乱れる。
屋敷を包んでいた瘴気は、一瞬にして「聖域」のような清らかな空気に書き換えられた。
「なっ……!? 環境そのものを『調合』で作り変えたというのか!? お前、それはもう神の業だぞ!」
リリスは開いた口が塞がらない。
「えへへ、ちょっと掃除を頑張ってみたよ。さあ、中に入ろうか。リリスの部屋も、最高に居心地よくしておくからね」
アルスは無自覚な笑顔で、伝説の聖域と化した自宅へとリリスを招き入れた。
***
その頃。
勇者レオンたちは、ダンジョンの中層で絶望の淵に立たされていた。
「はぁ、はぁ……っ! マリア! 早く、早く私の『衰弱』を治してちょうだい!」
魔術師のゼノが、顔を土色にして地面に這いつくばっていた。
魔物の毒を受け、マリアの魔法で毒自体は消したものの、毒によって破壊された「体力の最大値」が戻らないのだ。
「無理ですわ! 私の魔法は『修復』であって『再生』ではありませんのよ! それに、もう魔力が空っぽですわ……!」
マリアも、かつての優雅さはどこへやら、髪を振り乱して座り込んでいた。
「くそっ、アルスのポーションなら、こんなの飲んだ瞬間に治ってたのに……!」
戦士のバルガスが、思わず本音を漏らした。
その言葉に、レオンの顔が怒りで歪む。
「……黙れ! あんな無能の名前を出すな! 俺たちは勇者パーティーだぞ!」
だが、怒鳴るレオンの足も、ガクガクと震えていた。
アルスという存在が、どれほどの「鉄壁のサポート」をしていたのか。
彼らがそれを骨の髄まで思い知らされるのは、まだ始まったばかりだった。
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