表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/58

第4話:一方その頃、勇者パーティーは大変なことになっていた


 アルスが王都を去ってから数日が経過した。


 勇者レオン率いるパーティー『黄金の盾』は、新たな聖騎士マリアを加え、さらなる高みを目指して高難度ダンジョンへと挑んでいた。


「ふん、この程度の魔物、俺たちの敵ではないな!」


 レオンが黄金の剣を振り抜き、巨大なオークを一刀両断にする。


「さすがレオン様ですわ! 私のバフ魔法との相性も抜群ですこと!」


 マリアが聖剣を掲げ、優雅に微笑んだ。


 一見すれば、彼らは以前よりも強力なパーティーになったかのように見えた。

 だが、戦いが長引くにつれ、メンバーの顔に隠しきれない疲労の色が混じり始める。


「おい、マリア! さっきから傷の治りが遅いぞ! 早くヒールをかけろ!」


 前線で戦っていた戦士のバルガスが怒鳴った。彼の腕には、魔物の爪による深い切り傷がある。


「……わ、わかっておりますわ! ですが、私の魔力(MP)も無限ではありませんのよ!」


 マリアは苛立ちながら呪文を唱えた。

 確かに傷はふさがったが、彼女の顔は青白く、呼吸も荒い。


「……くそ、マナポーションはないのか!?」


 魔術師のゼノが叫んだ。彼の魔力も底をつきかけていた。


「アルスの持っていたストックが、もう切れたんだよ。……おい、市販のポーションを出せ!」


 レオンの言葉に、バルガスが荷物袋から王都で買っておいた高級ポーションを取り出し、一気に飲み干した。


 しかし……


「……なんだこれは、全然効かないぞ!? 傷が少し塞がるだけで、体の重さが取れない!」

「当たり前だ、それはただの市販品だぞ!」


 彼らは初めて知った。

 アルスが「地味なスキル」で作っていたあの苦いポーションが、どれほど異常な回復力と疲労回復効果を持っていたのかを。


 アルスの薬は、ただ傷を治すだけではなかった。

 飲むだけで魔力がじわじわと回復し、精神的な疲労さえも取り除く「神の雫」だったのだ。


「ちっ、あの無能のガキめ……。余計な工夫をしやがって。マリア、もっと節約して魔法を使え!」

「私に命令しないでくださいまし! そもそも、あんな不潔な薬師を追い出せと言ったのはレオン様でしょう!?」


 王都で最強と謳われたパーティーの足並みは、アルスという「潤滑油」を失っただけで、無惨にも崩れ始めていた。


 ***


 そんな修羅場とは対照的に、辺境の村『リーフ村』にある宿屋の一室は、穏やかな空気に包まれていた。


「……アルス。これは、なんだ?」


 リリスが、目の前に並べられた料理を指差して、不思議そうに首を傾げた。

 テーブルの上には、アルスがギルドでもらった大金を使って注文した、村自慢のフルコースが並んでいる。


「これはリーフ村名物の『森ハーブの煮込み料理』だよ。あ、こっちのポーションは僕が新しく調合した『食事を美味しくする薬』。これを一滴垂らすとね……」


 アルスが透明な液体をスープに落とすと、食欲をそそる香ばしい匂いが一気に広がった。


「…………っ!? 美味しい、美味しすぎるぞ、アルス!」


 一口食べたリリスは、紅い瞳を輝かせてスプーンを動かした。

 魔王軍の幹部として、豪華な晩餐を幾度も経験してきた彼女だったが、こんなに心が温かくなるような食事は初めてだった。


「よかった。リリスは魔族だから、人間の食べ口に合うか心配だったんだ」

「ふ、ふん。……別に、お前が作ったものなら、なんだって食べてやる。……お前は、本当に不思議な人間だな」


 リリスは顔を赤らめ、視線を逸らしながらも、嬉しそうに翼をパタパタと揺らした。


「アルス。……私は決めたぞ」

「えっ、何を?」

「私はお前の専属ガードになる。お前のその『調合』という力は、この世界を狂わせるほど価値がある。お前のような無防備な男、私が守ってやらねば、誰かに攫われてしまうからな」


 リリスはそう言って、アルスの手をぎゅっと握りしめた。

 アルスは「そんなに大げさなことかな」と笑っていたが、リリスの表情は真剣だった。


 最強の魔王軍幹部をボディーガードに従えた、史上最強の調合師。

 本人の自覚がないまま、アルスのスローライフは、ますます賑やかなものになっていくのだった。



読んで頂きありがとうございます!

この作品を「良かった!」「続きが気になる!」と思ってくださった読者様は

ブックマーク登録や下にある『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ