第4話:一方その頃、勇者パーティーは大変なことになっていた
アルスが王都を去ってから数日が経過した。
勇者レオン率いるパーティー『黄金の盾』は、新たな聖騎士マリアを加え、さらなる高みを目指して高難度ダンジョンへと挑んでいた。
「ふん、この程度の魔物、俺たちの敵ではないな!」
レオンが黄金の剣を振り抜き、巨大なオークを一刀両断にする。
「さすがレオン様ですわ! 私のバフ魔法との相性も抜群ですこと!」
マリアが聖剣を掲げ、優雅に微笑んだ。
一見すれば、彼らは以前よりも強力なパーティーになったかのように見えた。
だが、戦いが長引くにつれ、メンバーの顔に隠しきれない疲労の色が混じり始める。
「おい、マリア! さっきから傷の治りが遅いぞ! 早くヒールをかけろ!」
前線で戦っていた戦士のバルガスが怒鳴った。彼の腕には、魔物の爪による深い切り傷がある。
「……わ、わかっておりますわ! ですが、私の魔力(MP)も無限ではありませんのよ!」
マリアは苛立ちながら呪文を唱えた。
確かに傷はふさがったが、彼女の顔は青白く、呼吸も荒い。
「……くそ、マナポーションはないのか!?」
魔術師のゼノが叫んだ。彼の魔力も底をつきかけていた。
「アルスの持っていたストックが、もう切れたんだよ。……おい、市販のポーションを出せ!」
レオンの言葉に、バルガスが荷物袋から王都で買っておいた高級ポーションを取り出し、一気に飲み干した。
しかし……
「……なんだこれは、全然効かないぞ!? 傷が少し塞がるだけで、体の重さが取れない!」
「当たり前だ、それはただの市販品だぞ!」
彼らは初めて知った。
アルスが「地味なスキル」で作っていたあの苦いポーションが、どれほど異常な回復力と疲労回復効果を持っていたのかを。
アルスの薬は、ただ傷を治すだけではなかった。
飲むだけで魔力がじわじわと回復し、精神的な疲労さえも取り除く「神の雫」だったのだ。
「ちっ、あの無能のガキめ……。余計な工夫をしやがって。マリア、もっと節約して魔法を使え!」
「私に命令しないでくださいまし! そもそも、あんな不潔な薬師を追い出せと言ったのはレオン様でしょう!?」
王都で最強と謳われたパーティーの足並みは、アルスという「潤滑油」を失っただけで、無惨にも崩れ始めていた。
***
そんな修羅場とは対照的に、辺境の村『リーフ村』にある宿屋の一室は、穏やかな空気に包まれていた。
「……アルス。これは、なんだ?」
リリスが、目の前に並べられた料理を指差して、不思議そうに首を傾げた。
テーブルの上には、アルスがギルドでもらった大金を使って注文した、村自慢のフルコースが並んでいる。
「これはリーフ村名物の『森ハーブの煮込み料理』だよ。あ、こっちのポーションは僕が新しく調合した『食事を美味しくする薬』。これを一滴垂らすとね……」
アルスが透明な液体をスープに落とすと、食欲をそそる香ばしい匂いが一気に広がった。
「…………っ!? 美味しい、美味しすぎるぞ、アルス!」
一口食べたリリスは、紅い瞳を輝かせてスプーンを動かした。
魔王軍の幹部として、豪華な晩餐を幾度も経験してきた彼女だったが、こんなに心が温かくなるような食事は初めてだった。
「よかった。リリスは魔族だから、人間の食べ口に合うか心配だったんだ」
「ふ、ふん。……別に、お前が作ったものなら、なんだって食べてやる。……お前は、本当に不思議な人間だな」
リリスは顔を赤らめ、視線を逸らしながらも、嬉しそうに翼をパタパタと揺らした。
「アルス。……私は決めたぞ」
「えっ、何を?」
「私はお前の専属ガードになる。お前のその『調合』という力は、この世界を狂わせるほど価値がある。お前のような無防備な男、私が守ってやらねば、誰かに攫われてしまうからな」
リリスはそう言って、アルスの手をぎゅっと握りしめた。
アルスは「そんなに大げさなことかな」と笑っていたが、リリスの表情は真剣だった。
最強の魔王軍幹部をボディーガードに従えた、史上最強の調合師。
本人の自覚がないまま、アルスのスローライフは、ますます賑やかなものになっていくのだった。
読んで頂きありがとうございます!
この作品を「良かった!」「続きが気になる!」と思ってくださった読者様は
ブックマーク登録や下にある『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると励みになります!




