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タイムスリップ(?)したJK、身代わりで後宮入りして皇帝の「おもしれー女」になる。

作者: 柚子ジャム
掲載日:2026/02/22


「嫌よお父様! あんな恐ろしい皇帝の妾になんて! そんな方のもとへ嫁ぐくらいならわたくし死にます!!」

 

 これ知ってる。伯母さんから借りた漫画とかWeb小説でさんざん見たヤツ。

 このあとお嬢さんはあたしを見ながら叫ぶんじゃないかな。


『そうだわ! あれを身代わりにすればいいのよ!』的なことをさ。


「そうだわ! お父様、あそこのアレをわたくしとして嫁がせればいいのよ!」


 ほらやっぱり。わざわざあたしに指を指しながら言いやがった。まったく躾のなってないお嬢さんである。柄悪い言われるあたしだって人を指したりはしねーぞ。


「い、いやアレは…」

「お父様! わたくしがボロボロの布切れのようになった姿で川に浮かんでも良いのね!?」


 最近聞いた話だ。後宮の川で一人の妾がそんな姿で流れていたってね。ほんとか知らんけど。

 お嬢さんは大げさな仕草で泣き、衣を翻して窓に駆け寄る。飛び降りるぞってパフォーマンスかな? オッサンことダンナ様が大慌てで追って腕をつかむ。

 

「シンリン! 落ち着きなさい! ほら、たしかにアレはお前に劣らず中々見目がいいが、何分教養がね? お前の身代わりなどとても」

「嫁ぐ準備に三ヶ月くださるとおっしゃったのでしょう、今からでも仕込めばよいではありませんか! どうせ閨しかしないのでしょう、付け焼き刃でも十分なはずです!」

 

 どうせ閨しか、なんて言うならあんたがそのまま行けばいいじゃんかよ。

 まあ気持ちはわからなくもないけどさ。このお嬢さん、美人なひとり娘なだけに輪にかけて甘やかされてるからね。噂だけと言えど嫌悪感を抱いている男のもとになんて行きたくないんだろう。

 確か当代の皇帝、名前はシダとか言ったか、シダ皇帝は今三十歳くらいで、最近敵対勢力を一族皆殺しにしたと聞く。気に入らない家臣や妾もすぐ首をはねたりするらしい。それこそ皇太子時代からそうだったとか。

 ついでにお后様、リネ皇后も苛烈な性格で妾をいじめ倒してるそうな。さっきの川の妾も多分そのせいだろうと囁かれてる。

 そりゃ嫌だろうね、そんなところに行くのはさ。


 だからってあたしを身代わりって。バレたときどうすんだよ?

 あたしがこの家の血筋、お嬢さんの異母妹とか従姉妹とかならまだいいかもしれないけど、あたしは完全に異邦人の他人だぞ。

 皇室はこの家の娘が欲しいから妾になれって言ってるんじゃないの?

 まったくの他人を身代わりに仕立てるって皇室をたばかることじゃん。バレたら家ごと処罰されることにならないの?

 それとも処罰されるのは異邦人で身分も奴隷なあたしだけなのだろうか? それを見越してああ言ってるのか?

 この世界クソだな。


「お父様、わたくしを愛しているならお願いします。わたくしをあのような恐ろしいところへなんてやらないでくださいませ」


 オッサンはひとり娘をいいところに嫁に出したがってる。同じくらい娘の幸せを願ってる。

 皇帝の妾、底辺といえど嫁の一人。皇帝に気に入られたら妃に位が上がるし、皇子のひとりでも産めたら一応将来は安定。父親であるオッサンも地位が上がるはず。

 つまりこの時代なら最高な嫁ぎ先、なわけだ多分。

 ましてや大臣などではなく皇室から直々のお召しと来ているし。

 普通ならさ、たとえ内心どう思おうとも深々と頷き、娘を差し出すところのはずだよね。

 なのに。


「…わかったよ、かわいいシンリン。お前の代わりにアレを後宮に入れよう。わたしとてお前をひどい目にあわせたくないからね…」



 これを言っちゃうとか、今の皇帝メッチャクチャナメられてね?

 もしくはこの親子がすこぶるアホなのか。

 

 どっちだろうなぁコレ。

 


 

✱✱✱




 あたしは令和の女子高生、いわゆるJKだった。

 カラオケの帰りに駅まで歩いていたはずなのに、何故か気がついたら知らない真っ暗な道に迷い込んでいて、走り回ってやっと暗闇から出られたと思ったら全然知らないところにいた。

 そこはさなから、漫画で見た古代中華ファンタジー世界の田舎町のようだった。

 

 うろうろ彷徨っていたら男に声をかけられ、仕方なくついていった。

 そこがここ、地方領主の、今のオッサンの家だった。

 どうやらあたしは昨今流行りのジャンルである異世界トリップ、いやこの場合タイムスリップか? をしたらしいと悟った。なんで言葉が通じるのかは知らんけど。

 最初はちょっとだけわくわくしたけどすぐそんな気持ち砕けた。

 トリップでもスリップでも、あたしはヒロインの類ではないんだと悟らざるを得なかったから。

 これただの迷子、良くて誰かの巻き込まれだよねーて。Web小説で見たやつだ。

 オッサンたちの性奴隷にされてるヒロインなんていないっしょ、さすがにさ。あたしが知らんだけかもだけど。

 



 あたしに声をかけてきた男はこの邸の下男。あたしが見目の良い若い娘だったから、領主に献上したのだ。

 身元不明の異邦人のあたしは、この邸の性奴隷となった。領主であるオッサンことダンナ様と、邸に来るお客の相手をさせられた。

 ここに来る前にすでに処女じゃなかったけど、あたしがそういうことをしてきた相手はずっと彼氏だけ。ウリはしたこと一度も無かった。

 好きな人とのセックスしか知らなかったから、辛かった。タダでやれる女、いやもはやタダの穴の扱い、何をしてもいいモノとして扱われるのは。

 正直死にたくなった。でも生活を管理されているあたしは死にたくても死ねなかった。

 奴隷は生殺与奪権もご主人様に握られているのだ。

 

 あたしを汚らわしいモノとして見てくるオクサマやお嬢さん。

 下卑た笑みであたしを好き勝手にして、自分だけキモチよくなって喜んでる男たち。

 閨だけしてればいいなんて楽でいいわよねなんて嗤って言う使用人の女たち。

 

 この世界クソだわ。



 そんな半分死んだような生活をして二年余り。

 性奴隷にされたことについては早いうちに諦めがついた。諦めざるを得なかった。どうせあのまま街にいても似たようなものになってただろうからと。

 下手な娼館より病気と妊娠の心配が低い分、まだここのがマシだと思うようにした。あたしはここの主人だけでなく客の相手もする性奴隷、すなわち接待に使われる上ランクの性奴隷だから、そのへんもしっかり管理されてるんだよ。

 性奴隷は性奴隷でもランクがある。知りたくもなかったこと知ったわ。

 ここを離れることもできず、現代日本に帰ることもできず、あたしを助けてくれたり身受けしてくれるような『王子様』も現れず。

 あたしは十八になった。

 

 

 そして今、後宮に身代わりで入れられるために、付け焼き刃でもお嬢さんに化けるための勉強をさせられている。

 身代わりで後宮行き、これまた小説みたいだよね。あたしヒロイン説、再浮上かもしれない。

 所作については、客の前に出す手前それなりに手ほどきをされてるんだけど、接待女とお嬢さんの所作は違うものなんだと、ビシビシしごかれた。

 でも半分は嫌味でダメ出しされてる気もする。気配が娼婦ですよって、あたしのことをそういう女だと再三言ってるのはそっちだろ。あんたのせいじゃないの?


 いっちばん面倒というかできなかったのは、文字の読み書きだ。

 読むのもムズイし書くのもこれまたムズイ。

 筆で書くなんて小学生の習字以来だし、全部小難しい漢字だし。似た漢字も意味が違ってたりするし。無理ゲーだよこれ。

 これを三ヶ月でサラサラ〜なんてナシ寄りのナシだっての。教師も諦めてせめて名前だけは美しく書けるようになれってもうそれだけ練習させられた。


「あとは得意の閨で誤魔化せばよいのですよ」


 その濃い白粉爪で擦り落としてやろうかこのババア。



 

 付け焼き刃でもなんとかお嬢さんに見えるようになった、もとい見えるようにさせられた二ヶ月半後。

 あたしはお嬢さん『ケイ・シンリン』として、後宮に連れて行かれた。

 

 


 

✱✱✱


 中国系統のこの国での婚礼衣装は赤色。この服はキレイ。  


 当代のシダ皇帝は、あたし基準で見ればなかなかのイケオジだった。

 ただ閨は最悪だった。こいつもあたしをただの穴扱いである。処女じゃなかったから、らしいけど。

 しかもそのぶんなかなか良かったとか、あんたナニでそれ判断してんだよ。あたしマグロだったんですけど。

 



 皇帝の正室、リネ皇后陛下。この国で最も高貴な立ち位置に君臨する女。

 白粉が濃いのはこの国ではデフォルトだけどちょっとはたきすぎかな? 

 たおやかな雰囲気の美人だけど今は般若みたいな顔つきのせいで台無し。

 あんた皇后じゃん、元気に育ってる皇子様もいるじゃん。それでなんでそんなに他の妾を目の敵にして虐めるのさ。

 正妻としてわたくし以上の女はいないとばかりに、どーんと構えとけばいいのに。


 

 この世界クソだわ。

 ヒロイン説再浮上、あれ却下だわ。こんな人生クソである。

 これならさっさとどうにかなりたい。ここでなら、死ねるだろうから。

 という訳なのであたしはブチまけることにした。



「うっせーよブス。ただでさえ似合ってない化粧でますますブスなのにキーキーわめきたてんな。白粉シワに浮いてんじゃんみっともなっ」


 空気が凍った気配がした。


「そんなに他の女のとこ行かれるのが嫌ならあんたの閨のテク磨けってんだよ。あんたじゃ満足できないから他の女のとこにいくんじゃんよ。男一人満足させられないわけ? ダッサ! そんなで別の女けなすとかナシ寄りのナシだわー。これが国一番の女とか終わってるねこの国、クソだわ」




「正直来られるこっちがどちゃくそ迷惑。マジあんたがなんとかすることじゃん、ていうかしろや腐っても正室だろうがあんたがよ。他の女殺すより自分を磨け!」


「皇帝もセックスキッショい。女の扱い方、しょんべんする壺と何が違うんだよ。出せる穴がなんでもいいならわざわざ選んでんじゃねえよ。そこのブスだけにしとけよ。顔が気に入らないなら覆面させるか後ろからすりゃいいっしょ?」


「無礼者が!」


「どぞどぞ、あんなオッサンどうなっても知らんし。てか歓迎。死体になったら場所教えて、蹴っ飛ばしに行くから」


「貴様の父親であろう」

「あのオッサンはあたしの父親でも何でもないよ。ただの尻好きのスケベなオッサンだよ。さっさと死んでほしい」


「なに?」


「聞きたいんだけどさー、その家の血なんかぜんっぜん引いてない赤の他人の奴隷を身代わりに御令嬢に仕立てて、皇帝の妾に差し出すって、どんな罪になんの?」











「ケイ・シンリンではないと言うなら、お前の名は何という?」

「言わない」

「……イワ・ナイと、そう言う名前と言うことか?」

「んなわけないじゃんよ。普通に言わない、教えない」

「何故か。名がないとでも?」

「あるよ。でもなんとなく言いたくない」



 ここに来てからあたしの名前なんて誰も呼ばない。そもそも訊かれもしなかった。

 いつもそこの女、もしくはアレと呼ばれた。

 こんなクソの世界でクソなやつらに名前を呼ばれたくないと思ったから、あたしも教えないことにした。

 ここでは誰も知らない、あたしをあたしと示す唯一のそれは、あたしの宝物みたいなものだ。

 



 死罪覚悟でブチまけた所業だったけどあたしは死ななかった。ケイ家は処罰されたらしいけど何があったのかは知らん。もう二度と会わないだろうからどうでもいい。


 どうやら皇帝があたしを気に入ったらしい。だからあたしは死ななかった。

 これ知ってるわ。

 あたしは皇帝から「おもしれー女」認定をされたらしい。



「…あたしやっぱりヒロインだったん? ならシナリオがクソだわ」

「ひろいんとしなりおとはなんだ」

「さあねー」

 


 ✱✱✱



 

 陛下からオウカという便宜上の名前をもらった。

 

 あたしは紙に名前を書いた。


「何を書いたのだ?」

「あたしの名前、本名」

「これがお主の名前と? なんて読むのだ」

「読めるなら読んでみろー。なおヒントは与えないものとするー」

「ひんととはなんだ」

「…えーと、助言? いや違うっけ? まあなんでもいいっしょ」



“ 、ナー⊂ぅ ゛/ェィラ ”



 知ってる紙よりざらざらとする紙の表面を撫でる。

 あたしの名前を書いた紙。あえて昔流行ったギャル文字ふうに書いた。なんで知ってるかって? あたしの伯母さんも元ギャルだったからだよ。

 これを読める人がいるならそれはきっと、あたしと同じ世界の時代から来た人だろう。

 

「あたしが死んだらさ、この文字墓石に刻んでくれる?」


 もしもこの世界が、あたしの生きていた時代の遠い遠い過去なら。

 未来にこの文字が書かれたあたしの墓が見つかったりしたら、どういうことになるだろうね?

 きっとあの少女漫画の最終回みたいになるんじゃないかと思うんだ。

 

「オーパーツ発見!? とか騒がれたりして。なーんてね」


 あたしの独り言を聞いた皇帝は、何故かあたしの頭をなでてきた。

 急になに? ナデポ狙いか? 生憎あたしはチョロインじゃないからな?

 

 




 いつかこの文字が読めた誰かがいたなら、伝わるといいと思う。

 あたしはここにいたよ、って。



✱✱✱




 数百年前のシダ皇帝の時代、『遠い未来の異国から来た天女』と呼ばれた妾がいた。

 皇帝の寝所で、幾多の寝物語を語った彼女だが、その寝物語はどれもただの創作とは思えない不可思議なものばかりだったという。

 世界の国の形や歴史、滅びた王朝など予言のような内容のものから、でんかせいひんという生活を便利にする機械、ひこーきという空を飛ぶ翼を持った箱船、と言った夢のような物品の話。

 遠い人間と話すことができ、遠い映像を見れるてれびやすまほ。げんだいのがっこう。にほんの暮らし。じぇいけいという生き物。

 しょうわ、へえせい、れえわ。たいむすりっぷ。いせかいてんい。ぎゃるもじ。おーぱーつ。

 皇帝が密かに寝所に侍らせた文官によって細かに書き記された彼女の物語は謎の単語で満ちており、意味についてもさっぱりわからないものばかり。  

 それらを解読するのがこの国の歴史家の夢となっている。

 

 

 その名の残らなかった寵姫は、「語り姫」とだけ歴史書に記されている。

 彼女の墓碑には彼女の名前とされる不可思議な形態の文字が刻まれているが、数百年たった今でも解読出来た者はいない。

 

                 終

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