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魔王の姉、はじめました。 ──〈魔王がポンコツだから私がやる。〉Re:Novel Edition  作者: さくらんぼん
第03章:【ツバキ】中二病、聖女ツバキだ…左目が疼く…
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#椿001:違う、違う、私は──……聖女です……

 ──私の名前はツバキ。目を開けた瞬間、私の世界は崩れていた。


 石造りの天井。見知らぬ広間。古い絵画と紅い絨毯。

 昨日まで自分の部屋で寝ていたはずなのに、目覚めた場所はまるで異世界の劇場だった。


 ここはキューシューの国。

 火山と火竜を信仰するこの地には、古くから

 “紅蓮の神竜が吠える時、聖女が降臨する”

 という伝承があるらしい。


 ──もっとも、その神竜は数日後、パンジャ大陸で鬼の女に殴られて温泉堀りのバイトにされる。

 キューシューの民はまだ知らない。

 

◇◇◇


「ここは……どこ……?」


昨日まで自分の部屋でカイ様のアニメ見てたのに。


(えっと……昨日は確か……)

(カイ様の新作見て……カッコよかったな……)

(それで寝て……起きたら……ここ……?)


「……夢?」


でも、石造りの天井も紅い絨毯も妙にリアル。

大勢の人に囲まれてるのもリアル。

怖いくらいリアル。


「す、すみません……ここはどこですか?」


 震える声で尋ねるが、誰も答えない。

 代わりに、ざわめきが広場に広がる。


「聖女様だ!」

「聖女様が召喚された!」


 理解できない言葉が飛び交う。

 頭が混乱し、吐き気が込み上げてくる。


「え?聖女……?違います……」


 私の言葉に、周囲の表情が変わる。

 困惑、そして怒りの色が見える。


「聖女様、お戯れはよしてください」

「貴方様は我々をお救いくださるのです」


 圧倒される声の数々。

 後ずさりしようとするが、人垣に阻まれる。


「違う……私はただの人間よ!」


 必死の叫びは届かない。

 周囲の目が冷たく、鋭くなっていく。


「偽の聖女か?」「詐欺師を処刑せよ!」


 『処刑』── その言葉で全身の血が凍りつく。

 息ができないほどの恐怖が、喉元を締め上げる。


 逃げ道はなかった。もう後戻りもできない。


 一瞬で様々な可能性が頭をよぎる。処刑。拷問。奴隷。


 私に残された道は、たった一つだった──


 葛藤する心。しかし、生きるためには……

 ……震える唇を必死に動かす。


「も、申し訳ありません……

 突然のことで……私は……私は……」


 言葉につまる。喉が渇き、声が出ない。

 周囲の期待に押し潰されそうになりながら、最後の決断を絞り出す。


「……聖女です……」


 その瞬間、歓声が沸き起こる。

 私の心は叫んでいた。


(嘘だ!違う!違うの!私はただの人間なんだ!)


 しかし、その声は誰にも届かない。


◇◇◇


 部屋のドアが開く音。

 激しい動悸。逃げ出したい衝動。動けない現実。


「聖女様、王がお呼びです」


 従者らしき女性の言葉に、私の恐怖は頂点に達した。


 王座の間。

 威厳に満ちた王の前で、震える膝をなんとか折り曲げた。


「聖女よ、我が国はモンスターの脅威にさらされている。恐らくは魔王が動き出したのだ。汝の力で魔王を倒し、我が国を救うのだ」


 頭が真っ白になる。

 耳鳴りがする。

 視界が狭まる。

 吐き気がする。

 今にも気を失いそうだ。


「私には……そんなことできま……」


 震える声で本当のことを言おうとした瞬間、側近たちの冷たい視線が突き刺さる。


「聖女様?今なんと?」

「きっと聖女様のご冗談かと?」

「すべては聖女様にかかっております。」


 その言葉の裏に、脅しが見え隠れする。

 断れば、私はどうなるのだろう?処刑?拷問?奴隷?


 死にたくない。

 苦しみたくない。

 帰りたい。帰りたい。帰りたい。


「お、おうけいたしました……」


 今なんて言った?

 自分の声だった?

 

 今のは私の声ではない!

 きっと他人の声なんだ!


 やっぱり誰にも私の声は届かない。


 私にできることなど……何一つない。


 これは……ただの時間稼ぎ。

 生きるための最後のあがき。


「聖女様、魔王討伐の旅に必要な準備はすべて整えさせましょう」


 私には彼らの言葉がわからない。わかりたくない。

 頭の中は真っ白で、ただ一つの思いだけが渦巻く。


 どうすれば生きられる?

 この絶望的な状況から、どうすれば逃げられる?


 でも答えは見つからない。

 ただただ時間だけが過ぎていく。


 そして私は、偽りの聖女として絶望的な旅路へと押し出されていった。


 毎日が恐怖との戦い。

 聖女ではないとバレる恐怖、無力さへの絶望、そして死への恐怖。


 死にたくない。生きたい。生きなければ。

 どんなに苦しくても、どんなに怖くても、生き抜かなければ。


 それが、それだけが、今の私にできる唯一のこと。


 心の中で、ただ祈る。


 誰か……助けて。

 誰か……この悪夢から私を救い出して。


 しかし、誰も私を救ってはくれない。

 私は神に使える聖女らしい。


 ──でもその聖女に神は居ない。


「私の名前はツバキ……私はここに居る。

 誰か私を見つけて……誰か私を助けて……」

 


「誰か……サクラ……カエデ……」


 二人の顔が浮かぶ。


 子供の頃から、いつも三人で一緒だった。


 サクラは無茶苦茶で、カエデは天然で、私は臆病だった。


 サクラが前に出て、カエデが笑って、私が後ろにいた。


「……でも、サクラはもういない」


 涙がこぼれた。


 あの日、サクラは死んだ。


 私は何もできなかった。


「だから……せめてカエデだけは……」


 拳を握る。


「カエデに、もう一度会いたい」


 それが、私が生き延びる理由。

 嘘をつく理由。


 この状況、サクラなら……きっと……


『やってやるぜ!ぬん!!』


 って叫んで突破する。


 カエデなら……きっと……


『わーい!聖女だー!』


 って天然で受け入れる。


 でも私は……怖くて……嘘ついて……


「……弱くても、震えてても……

 それでも私は、生きて前に進まなきゃ……

 サクラには……もう、何も届かないんだもん……

 せめて……カエデだけは、失いたくない……」


 だから……頑張る。


 怖くても……頑張る……。



──そしてこの5分後に左目からレーザー(ホーリービーム♡)が出た。



……

………


 テーブルには、小さな焦げ跡と、

 うっすらと蒸気だけが残されていた。


 マグカップは……無かった。


 私は焦げた跡を、黙って見つめていた。


 ──脳裏にアニメのカイ様の名台詞が響く。


『神よ…その手が差し伸べるのなら、俺の影まで抱きしめてみせろ。──Contradiction.』



「ん……?」



(つづく)



 ──遥か、世界の深層。


「……三つ目の鍵。……これで、揃ったか……」


 声なき声が、冷たく微笑む。


 世界は、知らぬ間に歯車を刻み始めていた。


◇◇◇


──【今週のカイ様語録】──

『神よ…その手が差し伸べるのなら、俺の影まで抱きしめてみせろ。――Contradiction.』


解説:

光だけを求める者に、影の痛みは理解できない。

だがカイ様は“影ごと抱く”と宣言した。

ツバキにとっては神より信じられる言葉。


*カイ様はツバキが影響を受けた厨二アニメキャラ

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