#楓003:軍法会議で“ぽよんの罪”を着せられ、国外追放されました。
こんにちは! カエデです!
実は今、とってもとってもとってもピンチです!
略して「カエデ・ベリー・ベリー・ベリー・ピンチ!!カエデベリピ!!」
なんと!
とうとう私が「ポンコツ勇者」だということが公式に認知されて、
軍法会議が開かれているんです。
あの……私……最初に「モンスターと戦うなんて出来ない」って言いましたよね……?
なんなら、スライム相手に「デブって言われた!」って泣き叫びましたよね……?
それがいまさら……?
重々しい空気の中、騎士団長のヨハネさんが、沈痛な面持ちで王様に報告しています。
「……というわけで、勇者カエデ様は最弱のスライムとすら戦う事は出来ませんでした。
それどころか、スライム相手に自身の体型へのコンプレックスを爆発させ錯乱するという事態に……」
「ふむ……」
王様が髭を撫でながら、ジロリと私を見ました。
「では、カエデ殿の意見を聞こうではありませんか。
カエデ殿。何か言いたい事はありますか?」
「え……はい……この世界に来てから何度も言ってますが……」
私はおずおずと手を挙げました。
「今までは戦いとか、
そういうのとは無縁の世界で暮らして来ました……
ですので、突然勇者だからと言われ、
モンスターと戦えと言われても困ってしまいます……
私には無理です……ごめんなさい……」
私は必死に訴えかけました。
これならきっと、「じゃあ元の世界に帰そう」ってなるはず!
しかし──。
「やれやれ……召喚が成功したと喜んだと言うのに……
とんだハズレを引かされたのか……」
王様は深いため息をつきました。
ハズレって言いました? 今、ハズレって。
「これでは……モンスターに国を滅ぼされてしまうのも時間の問題だ……」
王様は玉座から立ちあがり、私を見下ろしながら言いました。
「ヨハネ! なんとかカエデ殿の、この“たるんだ”性格を鍛え直せないものか?
これでも勇者の称号を持っているという事に間違いはないのだ……」
王様はオデコに手を当てながら、苦悩しています。
(……え? 今……なんて?)
私の耳がピクリと反応しました。
たるんだ?
私の……お腹が……?
「お言葉ですが陛下……
カエデ様のこの“柔らか”な性格的に、戦闘は不向きだと思われます」
ヨハネさんはすでにさじを投げているようでした。
(……え? 柔らか……?)
私の思考回路がショート寸前になります。
この人たち、さっきから私の身体のどこを見て話してるの!?
そして、王様とヨハネさんが私に詰め寄ってきました。
「カエデ殿! 勝手な事を言っており、
大変申し訳ないとは思ってはいます!」
「しかし! そなたの背負う“希望 (きぼう)”には皆の想いが……」
「何卒、何卒! その力を我が国……いや、
この世界の人間のために“奮 (ふる)って”はくださらぬか!?」
「カエデ様! 今はまさにカエデ殿の運命が!
左右に“たゆたっている”のですよ!」
私の脳内で、言葉が最悪の形に変換されていきます。
たるんだ (腹)……柔らか (二の腕)……。
背負う……希望 (脂肪)……?
運命が、左右に……たゆたって (たぷたぷして)……?
プツン。
私の中で、何かが弾けました。
「もう我慢できない!
さっきから黙って聞いてればッ!
なんなのよッ!
“たるんたるん”とか“柔らかそう”とか!?」
「え?」
王様がポカンとしました。
「私の人生はそっちのけで、またまた贅肉の話ですか!?」
「背負ってるのは希望じゃなくて脂肪 (しぼう)だって言いたいんですか!?
私の脂肪に皆の想いを乗せないでよ! 重いよ!! いや……私は重くない!!」
「カ、カエデ殿……?」
「人のぜい肉に『運命』とか名前を付けたかと思えば……
左右に“たぷんたぷん”と振ってくれですって!?」
私は涙目になって叫びました。
「右に振っても左に振っても、減らないものは減らないのよ!
どうなの!! ふーッ! ふーッ!!」
「……えと……ヨハネ……さん?
この子は何を言ってるのかな……?」
王様は目をパチクリさせながらヨハネさんに確認をしました。
「……どうやらカエデ様は、“大層 (たいそう)”な発作をお持ちのようなのです……」
ヨハネさんは残念そうな顔でクビを横に振りながら応えました。
(……はッ!?)
大層……たいそう……体操!?
「た、体操服で左右に……反復横跳びをさせようとしてるの……?」
この人たち、やっぱり……!
私を痩せさせるための強制ダイエットキャンプなのね!?
「な、何を考えてるんですかッ!?
……お! 鬼コーチーーッ!? 近寄らないで!!!」
「……助けて………助けてよーッ!
サクラーーーーーァッ!!!」
身の危険 (と筋肉痛の予感)を感じた私は、お腹のお肉をガッチリと隠しながら、
王城の中心で愛を叫びました。……いや、助けを叫びました。
「「えー……っと……」」
王様と騎士団長の声が、綺麗にハモりました。
◇◇◇
──そして数時間後。
私は国外追放され、一人でこの異世界の荒野に立っていました。
「いい天気だなぁ……この草って……食べれるのかなぁ……」
「……カロリー低そうだなぁ……」
追放された現実がまだ信じられなくて、涙も出ません。
勇者召喚からわずか二日。
最速記録かもしれません。
そんなとき、不意に頭をよぎったのは、親友・サクラのあの言葉でした。
『立ちなさい。前に進みなさい。
手を出し続けるのよ。寝たままじゃ何もできない。
でも私は寝返りで進み、寝転がったまま蹴る。』
……なんの役にも立たないし、たぶん励ましですらない。
でも、なぜか少しだけ──心が軽くなりました。
(そうだよね……サクラなら……きっと寝たまま戦ってる)
私は大地に寝転び、目の前の草に手を伸ばしました。
「……にが……」
異世界の草は、ちょっぴり涙の味がしました。
(つづく)
◇◇◇
──【今週のサクラ語録】──
『立ちなさい。前に進みなさい。手を出し続けるのよ。
寝たままじゃ何もできない。
でも私は寝返りで進み、寝転がったまま蹴る。』
解説:
たぶん「頑張れ」って意味。
別に立たなくてもいいらしい。
なんなら転がりながらでも戦えるよって話。
なんか元気出る。
カエデはそう思った。それで充分だった。




