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魔王の姉、はじめました。 ──〈魔王がポンコツだから私がやる。〉Re:Novel Edition  作者: さくらんぼん
第02章:【カエデ】ど天然ポンコツ勇者カエデが来たよ。
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#楓002:スライムと戦う前にスライム扱いされた件

 こんにちは! カエデです!

 突然異世界に召喚されて、勇者だとか言われました。


 正直、まだ夢を見ているんじゃないかって思うくらい、

 現実感がありません。


 でも、痛みも空腹も感じるし……

 これが現実なんだって、少しずつ実感してきています。


 ……家族のみんな、元気かな。

 突然いなくなった私のこと、きっと心配してるはず。


 お父さん、お母さん、弟……みんなの顔が次々と頭に浮かびます。

 胸がぎゅっと締め付けられるような感覚。


 就活頑張って入社したばかりなのに……やっぱりクビかなぁ……。

 何よりも親友のサクラとツバキに会いたいなぁ……。


 ──そんなこんなで、勇者としての訓練や勉強が始まりました。


 ……始まったと思ったら、もう実戦訓練です。

 おかしいよ!早くない?


 モンスターと戦う?私が?


(……どうしよう……)


 この言葉が、頭の中でエコーのように響きます。

 本当に、どうしよう。逃げ出したい。

 でも、逃げ場所なんてどこにもない。


(はっきり言って、モンスターと戦うとか無理です!!)


 心の中で叫びます。

 誰かに聞こえたらいいのに。

 でも、誰も私の本当の気持ちを分かってくれません。


 だって私、家に【G O K I B U R I ☆】が出現しようものなら、

 ナベを被ってナベの蓋を盾にして、

 殺虫剤を一本全部使い切るくらい吹きかける臆病者なんですよ!?


 そんな私が、モンスターを倒せるわけがない!


 ……でもね……いくら「無理!」と言っても、


「勇者なので大丈夫。」

 という謎の根拠で、皆さん全然……

 私の話を聞いてくれないのです……!


 この状況が本当に辛い。

 

 誰も私の声を聞いてくれない。

 

 みんな「勇者」っていう肩書きだけで判断して……

 本当の私を見てくれない。


 ──そんな複雑な思いを抱えながら、

 今は騎士団長の【ヨハネ】さんと近くのダンジョンに向かって歩いています。


(無口なヨハネさん……気まずいなぁ……。

 何か話しかけた方が良いのかなぁ……)


「あ……今日は良い天気で……」


 私が気まずい空気をなんとかしようと、

 とりあえず無難に天気の話をしようとしたところ、

 ヨハネさんが話しかけて来ました。


「カエデ様」

「ひ、ひゃい!」


 びっくりして声が上ずってしまいました。

 恥ずかしい……。


「あそこの岩陰にスライムが居ます。

 準備運動にちょうど良いですね。戦ってみましょうか」


 ヨハネさんが前方を指さしながら言いました。


「スラ……えええ……?」


 とうとうモンスターが現れてしまいました……。

 スライムは、ちょうど人間の私くらいの大きさです。


「ははは。訓練通りにすれば大丈夫ですよ。

 カエデ様には何よりも勇者としての光の加護があります。

 スライムくらいならカエデ様に傷一つ負わせることは出来ませんよ」


「そ……そうは言っても……」


 ヨハネさんはそう言いますが、私には勇者の自覚も無く……。


(……やだ……怖い……どうしよう……)


 スライムが岩陰でプルプルと跳ねて、こちらを見ています。


(ダメだ、怖い。

 足がすくんで動けない……サクラならどうするかな……)


 その瞬間、心の奥から自然に蘇る言葉がありました。

 サクラの、いつもの無茶苦茶な励まし。


『逃げてもいいよ。

 でも私なら逃げた先でもケンカしてる。』


(……そうだよね……サクラなら……

 絶対こういう時も何かと戦ってる……

 いつも何かと戦ってる。何がそんなに気に食わないの?)


 サクラは極端すぎるけど!

 私も、少し見習う!

 今回は逃げない!

 逃げても結局ケンカになるなら、最初から向かうしかないもんね!


 自分でも信じられないくらい、ふっと力が抜けました。

 怖さよりも、胸の奥が熱くなるのを感じます。


(……よし! 私もサクラ流で頑張ってみよう!)


 震える手で武器を握り、スライムに向かって一歩踏み出しました。


(行くぞ……!)


 恐る恐るスライムに近づこうとすると、ヨハネさんが言いました。


「……随分と、はみ出ていますね」


 ヨハネさんは、岩陰のスライムだけを見ながら、冷静にそう言った。


 ……。


 ……え?


(はみ出て……?)


 その単語が、私の脳内で爆発した。


(はみ出てるって何!? 誰が!? どこが!?)


「……は?」


 私は一歩引いた。

 反射的に、お腹のあたりを手で隠す。


「……え、ヨハネさん?

 今の、何の話ですか?」


「? スライムですが」


 即答だった。

 視線も一切、ブレていない。


 ……にも関わらず。


 私の脳は、最悪の結論に到達した。


(見てないからこそ、あえて言葉で!?遠回しな体型批判!?)


「……なるほど。そう来ましたか」


 驚きです!

 こんな時にも贅肉チェックです!

 

 そうだ!

 昨日の夜、こっそり夜食のパンを食べたのがバレていたんだ!


「え? スライム……のこと……ですけど……?」


 必死に取り繕おうとするヨハネさん。

 そんなわけあるか! 騙されるか!

 カエデはオコですよ! 略してカエデオコ!


 そんな苦しい言い訳を私が信じるわけがありません。


「まさか……私のベルトの上に乗ったお肉のことを!?」


「は……い……?

 ……私はそこの岩陰からスライムがはみ出していると……」


「うそだッ! スリムな男はみんなそう言うんだッ!

 『ぽっちゃりも好きだよ』とか言いながらッ!

 裏では『自己管理がなってない』って笑ってるんだッ!」


「えぇ……スラ……イム……?」


 ヨハネさんが困惑したように目を泳がせます。

 いいえ、誤魔化されませんよ!


「そこのスライムと戦うようにと……

 私に言ったのだって……

 運動不足の私を走らせて……

 上下に揺れる贅肉ミートを嘲笑うためなんでしょう!?

 ……この鬼トレーナーめッ!!!」


「ちょ……待っ……お、落ち着いて話を聞いてください……

 カエデ様……? 見たところ標準体型ですよね?」


 私の妄想は止まりません。


「それからッ……それからッ!

 スライムの身体に取り込ませて……

 『あれ? スライムよりお腹がタプタプしてませんか?』とか……

 はッ……『貫禄が出ましたね』とか!?……ほんでもってッ!

 ……あッ……まさか……!?

 ジムへの入会申込書にサインしろとか……そんなことまでーッ!?」


 想像したら怖くなってきました。

 異世界のパンが美味しすぎるのが悪いんです!


「……けて……助けてよーサクラーーーーー!!!」


「すみません! なんかすみません!」


 その間。


 スライムはずっと、目の前の岩陰からはみ出ていた。


(ボヨヨン……)


 ──結局、今日の実戦訓練は中止になった。



(つづく)



◇◇◇



──【今週のサクラ語録】──


『逃げてもいいよ。でも私なら逃げた先でもケンカしてる。』


解説:

逃げ場所すら修羅場にする天才、それがサクラ。

参考にはならない。でも元気は出る。

それが、カエデの心の支えだった。

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