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#桜014:死闘!令和のOL vs. クマ(※人生相談あり)

 私、サクラ。

 今から目の前のクマを殴る。ちなみに腕が4本あるモンスター・クマだ。


 理由?

 ストレス発散……じゃなくてレベル上げよ!!


 次は神? 運命?

 どっちでもいいわ!

 とにかく私の人生に口出ししたヤツ、まとめてぶっ飛ばす!!


 ……覚悟しとけよ?


 *


【3分前】


 ダンジョン最深部。鉄の匂いと、光のない闇が張り付く場所。

 足元の石畳は湿っていて、死ぬほど冷たい。


「快眠召喚☆」


「ん?」


 私の横で、銀髪の幼女魔王エストが唐突に布団を召喚し、芋虫のように潜りこんだ。


「レベル上げは大事……でも魔力が切れて眠いの……

 お姉ちゃん、行ってらっしゃい……ムニャ」


「ちょ! いまレベル上げ中! クマ! 目の前にクマくる!」


「すぅ……ムニャ……世界征服……いっしょにごはん……

 ……お姉ちゃん……ずっと……いっしょ……」



「おぃいい! 寝るなァァァ!!」


 ……って、これ。

 私が守れなかったら──この子、死ぬじゃん!?


 私は迫りくるクマに向けて、両手で大きく「T」の字を作った。


「ちょっとターーーイム!!!」


「ガ、ガウ?」(あ、タイムですか。)


 クマが止まった。えらい。


「そこに座れクマ。言いたいことたくさんあるのよ」


「ガ、ガウ。」(あ、はい。)


 クマが座った。

 私はその前に正座した。


 ──タイム中──


 沈黙が落ちる。

 布団からエストの寝息が聞こえる。

 遠くで水滴が落ちる音。


 私は深く息を吸った。


「愚痴タイム開始!!!」


 クマが私の目を見てうなずいた。


「クマちゃん聞いて? 私ね、数日前まで東京でOLしてたの」


「ガウ」(はい)


「毎日、課長のコーヒーに砂糖19個入れてた」


 クマがカッと目を見開いた。


「ガウ?」(テロですか?)


「ほぼね」


「ガウウ?」(犯罪では?)


「なんで? 20個じゃないからグレーゾーンよ」


「ガウウ……?」(なるほど……?)


 クマが納得したように頷く。いいやつだ。

 私は、胸の奥に溜まったものを吐き出すように続けた。


「でさ? “恥ずか死”っていう死に方をして、

 日本一有名になって、いや、世界一かな」


「ガウ?」(なんと?)


「この魔王に召喚されたの」


 クマが首をかしげる。


「ガウ……」(情報量が多すぎる……)


「ツノは出たのに、胸は出なかったの」


「ガウ」(上手いこと言いますね)


「ふざけてないわよ?」


「ガウ?」(一回整理してもらっていいですか?)


「うん、そうだよね。これ私のステータスね。どう思う?」


 私はため息をついて、両手を広げた。


「ステータスーッ! オープンッゥゥゥーーーー!!」


 結果発表ー!の発音で叫んだ。


「ガゥウウウ!」(ビックリした!)


 空気がビリッと裂け、目の前に文字が浮かぶ。


──はぁー!!♪ ぺったん!!♪


================

【ステータス】

種 族:鬼

スキル:《怪力》(感情ブースト)*女子力ゼロ

称 号: ぺったん鬼女【呪】(全ステ-20%)

備 考: 妹になった魔王を守る鬼の勇者(意味不明)

================


「はい、この効果音を考えたやつこっち来い」


「ガウウッ!?」(なんすかこの効果音!?)


 クマは覗き込み、静かに頷いた。


「ガウ」(これはひどい)


「だよね。」


 深い沈黙が流れた。

 クマと心が通じ合った気がした。


「でね? そこでお昼寝してるのが私を召喚した幼女魔王」


「ガウ」(妹って言ってましたね)


「うん、妹。

 で、『お姉ちゃん!世界征服しよう!わーい☆』だってさ

 しかも、私もこの子もレベル1」


「ガウガウガウ」(ピクニックと世界征服を勘違いしてません?)


「さらに妹に勇者バレすると、魔王の血が覚醒して全力で殺しに来るの」


「ガウ」(設定が渋滞してません?)


「だから、勇者っぽいことは一切できない。魔法もスキルも封印」


「ガウ…」(ストレス凄そうですね…)


「昨日も“量子筋肉学”で誤魔化した」


「ガウウ……?」(誤魔化せたんですか……?)


「ふふ……なんとかね……」


 私はゆっくり目を閉じた。

 冷たい空気が肺に入ってくる。


 もういい。知らん。


「もうどうでもいい!

 どうなってもいい! いや、よくない……」


 ……ギュッ。

 静かに拳を握り、溢れる涙を見せないように天を仰ぐ。


(……天国のおじいちゃん、おばあちゃん、ごめん。

 孫は異世界でクマ相手に管を巻いています……)


 泣くな、私……泣いたら──壊れる。

 なのに、涙が頬を伝い拳に落ちた。

 

 止まれない。止まったら、課長のコーヒー19個が無駄になる。 


 クマがそっと背中をさすってくれた。

 ……優しいな、お前。


 私は袖で涙を拭き取った。


「……こんなことで泣いてる場合じゃねぇ!」


 顔を上げ、闇を睨む。


「神か? 運命か? ……絶対に私で遊んでるだろぉおおお!?」


「ぐぉあお"◎殴%殺¥@↑↑↓↓←→←→BA絶£許ッ!!」(白目で頭を掻きむしる)


「ガ……ガウウ……」(あ…壊れた…)


「カミウンメイめぇええええええ!!!」


「ガウウ……」(神か運命か迷いながら怒ってる……)


 ズドム!

 私は八つ当たりで壁に頭突きをした。


 ガラガラガラ……!

 壁が崩れ落ちる。


 その向こう側。

 崩れた壁の穴から、巨大なキングベヒーモスがこちらを見ていた。


「……。」私。

「……。」ベヒーモス。


 目が、合った。


 ぺこり。

 ぺこり。


 お互いに無言で会釈。


 ズシシシーッ!

 キングベヒーモスが、冷や汗をかいて猛スピードで逃げていった。


(なんで礼した)


「……。」


 再び静まり返った中、私はクマを睨みつけた。


「待たせたなクマ。り合おうか?」


「ガ? ガウガ、ウガウ……」

(あれ? 自分たち、友達になれたかと!?)


 クマは潤んだ瞳で首を傾げた。


「ガ、ガガウ……?」(友達、やめるんですか……?)


「ごめん、クマ……これも運命なの……ムダ様も言ってたの。

 『友達だからこそ、全力で殴れる──それが信頼ってもんだろ?』って」


「ガ……?ガウ……?」(ムダ様……危険人物ですか……?)


「次に生まれ変わったら絶対友達になろ?」


「ガガウ!」(絶対嫌です!)


 クマ、涙目で全否定。


 ──悪いね。


「"スキル" 使うよ……クマぁ……私に与えられた唯一のスキル……《怪力》をねぇ?」


 胸の奥が熱くなる。

 怒りも、悔しさも、情けなさも、全部まとめて燃料にする。


 ピキィィィ……ッ。


 どうでもいいはずの記憶が、唐突に割り込んできた。


 ──ログイン画面。

 何度も使った、覚えてるはずの文字列。


【パスワードが違います】


 ……は?


【パスワードが違います】


 ……。


【パスワードが違います】

(※セキュリティのためロックされました)


「……」


 一気に、頭が冷えた。


 合ってるはずだった。

 覚えてたはずだった。

 信じてたのは、機械じゃない。


 “自分”だ。


 それが否定された。


 何が正しいのか分からない。

 自分の記憶も、感覚も、努力も。


 何も信じられない。


 なのに、世界だけは一方的に結果を突きつけてくる。


 ギュッ、と拳を握る。

 感情が一段、底に落ちた。


「……システム管理者 (アドミニストレータ)ァァァァァァァァ!!!」


【スキル:《怪力》──パスワード違いますモード】──発動!!

(筋力+1000%)


「行くぞ……クマぁ!」


 私は一歩踏み出す。


「数日前まで普通のOLだったのに!!

 今や異世界でクマとタイマンって!!!」


 叫び、地面を蹴った。


「ガガウッ! ガウウーッ!」(ちょッ! まってーッ!)


 石畳が砕け散り、風を切り、一直線にクマへ。


「クマよ? お前は悪くない。でもな! 私の糧になれやぁあああああ!!」


 目が光る。口から蒸気が出る。完全にヒールだ。

 右拳を大きく引いて──


「んんッ! どっせぇええーい!!」


「クママママママー!?」(それヒロインの掛け声ですかー!?)


 全体重を乗せた怒りの一撃が、クマの顔面に炸裂した!


 ドグシャッ!!!!!


 巨大なクマが壁ごと吹き飛ぶ。


「ガゥウウウウウウーッ!!」


 ……ゴガァアアアアアアアッン!!!!!!


「……クマに人生相談って、もう末期だな」


 クマを殴り飛ばした先の壁が崩れ、その向こうから、

 さっきのキングベヒーモスがひょっこり顔を出した。


「……。」私。

「……。」ベヒーモス。


 再び目が合う。


 深く、ぺこり。


 私は先に目を逸らした。


 すると、ベヒーモスが口を動かした。ほとんど息だけの声で。


「……スミマセン……」


(喋れるんかい)


 ズシシシーッ!

 キングベヒーモスが、泣きそうな顔でさらに奥へ緊急避難していった。


 ──沈黙。


「……次はアイツやるか……」


 ……さて。


 私は拳を見つめる。

 震えている。


「ふん。この怪力、この世界を生きるのには悪くない」


「……うん、悪くない……悪くない……よね?」


 震え声で必死に自分に言い聞かせる。


(……怪力女子ってお嫁に行けなくね……?)


 ……。


(遠くでモンスターの呻き声)


 ……。


(コオロギの鳴き声)


 ……。


(カタツムリが歩く音)


 ……。


「お姉ちゃん……うるさい……」

 エストの寝言が聞こえた。


 ── 涙がポタッ……


 ぷつん……。


 私の中で、何かが切れた。



 \\ 轟轟轟轟轟ゴゴゴゴゴ 怒怒怒怒怒ドドドドド //


 ──現在、ダンジョン内のモンスターに無差別八つ当たり中──



 *



「はぁ、人生インフェルノモードだわ……」


 私の頭上でレベルアップ⤴︎⤴︎表記がチカチカしている。


「は! 知らんヤツに私の人生を決められてたまるかっての!」

「理不尽に奪われた分は、この拳で全部取り返す!!」

「家族も! 居場所も! 幸せも! 全部この拳でなぁ!」


「逃げる準備しとけよ神ぃいい!?」

「神なんて信じてないけどなぁあッ!」


「弱肉強食上等!! 私が頂点に立ってやる!!」

「運命も神も笑ってろ。私はもっと笑ってやる。」


 自分の拳を見つめる。


「……まあ、笑えるうちは生きてるってことよね」


 短く笑い、深く息を吸う。


「ここからが “私” の物語だ!!」


「あーあ。ワクワクしてきた。」(棒)


 その時、布団の中で、エスト様が寝返りを打った。


「……お姉ちゃん……ずっと……いっしょ……すぅ」


 その寝言が、胸の奥の変な場所を叩いた。


 そして、思い出す。

 一瞬だけ、幸せだった子供の頃の団らん。

 手の温もり。声。匂い。


「……。」


 ……ふん。また団らんの記憶か。

 異世界にもフラバ持ち越しかよ……。


 あの温もりを捨てきれない自分がムカつく。

 家族を失った時の後悔は、今も私を縛り続けてる。

 あの時、もっと何かできたんじゃないか、って。


 そんなふうに過去に囚われてる自分が嫌だ。

 だからこそ、止まれない。進むしかない。

 それが今の私のすべてだ。


 我ながら、めんどくさい性格だよなぁ。

 とは言え、基本は自分大好きだけどね。


 私は髪をかき上げ、ダンジョンの奥を見つめる。


 少しすると、エスト様がむくりと起き上がった。


「……お姉ちゃん? なんか……すっごい音がしたような……」


「あ、エスト様。お疲れ様でした。モンスター退治終了です」


「おお!レベル上がった!?」

 エスト様は嬉しそうに微笑んだ。


 その無邪気な笑顔を見ていると、昨夜のことを思い出す。

 泣きながら「捨てられるかも」なんて言っていた子が、今はこんなに明るく笑っている。


「お姉ちゃん? どうしたの?」


「いえ、何でもないかな。行きましょう」

(……守ってやるよ。絶対にね?)


 私は静かに決意を新たにした。

 もっと強くなって──この子が二度と泣かなくて済むように。


 ……もしまた全部失うくらいなら、走り続けて死んだほうがマシかな?


 ま、どうせ止まれない性分だし。あーあ。



 ──ぺったん♪


【サクラのレベルが上がりました】

【ボーナスステータスを割り振りますか?】


「お、振る振る! 女子力に!」


【パスワードを入力してください】


「は……?え…? ここでェェェ!?!?」


「……えーと、saku...ra...01...」


【 パスワード:******** 】

(入力してる文字が見えない恐怖)


【パスワードが違います】


「あああああああああ!!!!」


「うるさい……」

 エストの寝言。



(つづく)



◇◇◇



──グレート・ムダ様語録:今週の心の支え──


『友達だからこそ、全力で殴れる──それが信頼ってもんだろ?』


解説:

信頼ってのは、壊れる前提のもんだ。

だから、遠慮してるうちはまだ本物じゃない。

本気でぶつかって、殴って、罵って──それでも隣に立てるかどうか。

そこまでして初めて「信頼」が顔を出す。


ちなみにムダ様には友達が居ない。

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