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魔王の姉、はじめました。 ──〈魔王がポンコツだから私がやる。〉Re:Novel Edition  作者: さくらんぼん
第04章:【サクラ】ポンコツ魔王軍(2名・Lv1)結成!
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#桜013:泣き虫魔王と恥ずか死の姉、世界を殴り返す

 魔王の間。


 クマ肉を食べて"冬眠"と"鮭取り"を覚えた。


 残るのは、部屋に漂う肉の匂いと、妙に静かな時間だけだった。

 あの謎スキルの通知音も、もう鳴らない。

 代わりに、胸の奥がやけにうるさい。


 ……クマ食べて冬眠と鮭って、どんなRPGだよ。


 いや、もはやギャグだろ。


『お前の存在がギャグみたいなもんだろ』


 またこいつか……天の声!!


「っさい!!」


 *


 火の落ちた石板コンロの上で、串の先が冷えきっている。

 私はぼんやりと、空になった皿を眺めていた。


 ……まぁいい。


 冬眠でも何でも、エストを守るためなら使いようだ。


 それに──守るって、そう簡単に言える言葉じゃない。

 だからこそ、ちゃんと"決意"に変えなきゃいけない。


 魔力灯の淡い光が、石壁をゆらゆら照らしていた。

 まるで夜の焚き火みたいで、少し落ち着く。


「……まぁ、いざとなったら私が大魔王やってもいいけどね?」


 クスリと笑う。


 その独り言に、隅で座っていたエストが顔を上げた。


「ねぇ、お姉ちゃん……

 わたし、ほんとは……もっと強くて、

 かっこいい魔王になりたかったんだ」


 彼女の声はか細くて、まるで灯の揺れみたいに頼りない。


「……お姉ちゃんが……

 私に召喚されたの嫌だと思ってたら……やだな……って」


 私は、しばらく黙っていた。


 そして、乾いた笑いがこぼれる。


「……そんなの、最初から分かってたけど?」


「えっ……?」


「ポンコツで泣き虫なのは、見れば分かる。でも──」


 私は立ち上がり、魔力灯の光を背に彼女を見下ろした。


「勝手に喚んで"お姉ちゃん"なんて言われたら……

 もう引き受けるしかないでしょ。誰が妹を置いてくもんですか」


「お姉……ちゃ……」


「……あーもう!

 また涙ぐんで! 湿っぽいのは禁止!」


 エストは唇を噛みながら、それでも小さく呟いた。


「……もし……お父様が戻ってきたら、

 わたし……また捨てられるのかな……」


 胸の奥がギリッと鳴った。


「……はぁ???

 小娘! 自分が何を言ってるか分かってんの?」


「親に捨てられたとか、そういう話は小娘のせいじゃないから!!

 ちっちゃくて、バカで、ポンコツで──

 あぁ、もう!──笑うとアホみたいに可愛い魔王の、何が悪いっていうんだ!」


 言葉が止まらない。もう止められなかった。


「家族を失うのがどんなに辛いかも、

 残された者がどんな気持ちになるかも、全部知ってる」


 色々思い出してしまった。

  

「誰にも『おかえり』って言われない夜が、いちばん冷えるんだよ!」


 ムカつく──何に?自分自身にだ。


「だからこそ言える。残された家族を放っておく親なんて、

 魔王だろうが何だろうが、ぶん殴ってやる」


 言葉を吐き出したあと、涙が溢れてきた。


「それに──ムダ様が言ってたんだ。

 『親は選べないが、殴るかどうかは選べる』ってね」


「エスト様を泣かせた責任、きっちり取らせてやるから」


 涙がこぼれないように──見られないように上を向いて、深く息を吸った。

 守るって決めたんだ。今。


「──それが、私の世界征服。"大切な人を失う世界"なんて、私がぶっ壊してやる」


 ドゴォン!


 拳を突き出すと、空気が震えた。

 魔力灯の光がビクリと揺れて、二人の影が壁に踊る。


 エストは目を見開いたまま、しばらく私を見つめていた。

 やがて、視線を落とし、小さな手で私の腕をそっとつかんだ。


「……それって、すっごく……わがままで、でも、あったかい」


「……っ、な、なにそれ……は?……知らないし……」


「──ありがとう、お姉ちゃん」


 一拍置いて、その小さな頭をぽんと押さえた。


「……ったく、ほんとチョロいんだから」


 悪くない。いや、悪くないどころじゃない。


 むしろ──少しでも長く、この手を離したくない。


 ……でも。


 その温もりの裏で、胸の奥が少しざわついた。

 怒りも、悲しみも、後悔も。

 全部、まだ拳の中に残ってる。


 そのとき、ムダ様の声が頭に蘇った。


『ストレスを溜めるな。拳で昇華しろ。筋肉は感情を代弁する』


「……あー、やっぱムダ様、天才だわ」


 そうだ。


 このざわつきはきっと、ストレスだ。

 なら、解消法はひとつ。


「うん。ストレス解消も、征服のうちってことで」


「……え、いま急にテーマ軽くなった!?」


「違う! ムダ様の教えに従っただけ!! 拳で世界と、自分を鍛え直すのよ!!」


「お姉ちゃん、それただの筋トレでは……?」


「筋肉は世界を救う哲学ッ!!」


「哲学なんだ……!?」


「そう、筋肉は裏切らない。裏切るのは大体、人間だけ!!」


 ドガァァァン!!


 机を殴って壊す音。


「お父様の机がァァァァ!?!?」


「……」


 沈黙。


「……あ」


 粉々になった机を見つめる。


「……これ、お父様の……」


「そうだよ!?」


「……」


 冷や汗。


 胸の奥がちくっと刺さった。やり方、間違えたかもしれない。


「……いや、むしろ良かったんじゃない?」


「え?」


「だってさ、エスト様を置いて行った親の机でしょ? こんなもん残しておく方がおかしいわけ」


「過去に縛られてちゃダメなの。前を向くために、机も過去も全部ぶっ壊す! これ、ムダ様の教えね」


「そんな教えあったの!?」


「今作った」


 てへぺろ。


「作るな!?」


「でもほら、これでエスト様も、過去に縛られなくて済むでしょ?」


「いや! 縛られてないから! 普通に使ってただけだから!?」


「それに私、さっき宣言したじゃん。"エスト様を泣かせた責任、きっちり取らせてやる"って」


「机に責任取らせてどうするの!?」


「机から始まる報復。これが私の世界征服」


「征服関係ないよね!?」


 沈黙。


「……胃が痛い」


「今更!?」


「……うん。明日からレベル上げ再開だな」


 ストレスも拳も、動かしてナンボ。止まったら腐る。ムダ様もそう言ってたし。


「よし。世界征服──まずは腹筋300回から始めよう」


『物語の方向性、迷走中』


「っさい!!」


 別に世界なんか欲しくないっての。


 でも、まぁ、あの子が笑って生きられる場所くらい……


 私が殴ってでも作ってやんよ。


 ……なーんて。言わんけどね。やっぱ恥ずかしいし、ね?



 *

 

 

 ムダ様の言葉は、いつも乱暴で、でも真っ直ぐだ。

 殴れって、きっと暴力の話じゃない。


 "どんな過去でも、自分の意思で上書きできる"ってことだ。


 親がいようがいまいが、泣き虫な魔王がいようが、関係ない。


 私は、私の手で、この世界を殴り返す。

 守るために。笑うために。

 今日も拳を握る。



(つづく)



 ◇◇◇



──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──


『親は選べないが、殴るかどうかは選べる。』


解説:

血は水より濃いが、拳はそれより早い。叩け。

血縁は宿命だ。逃げられない構造だ。

けど拳には"今"がある。

過去に殴られたままの自分を、今、殴り返せる。

ムダ様にとって殴るとは、報復じゃなく更新だ。

一発で血の呪いをリロードする儀式。

親でも運命でも、ぶん殴った瞬間に「お前の人生」になる。

だから叩け。速さこそ自由だ。あと殴るとスッキリする。

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