#桜012:新スキル:鮭取り(※異世界に鮭は居ない)
ダンジョンに静けさが戻る。
魔王軍の初戦闘は、なんだかんだで終わった。
今日はクマを食べて寝る。
魔王の間に運び込んだはいいが、私たちは料理ができない。
つまり──焼く。以上。
調理室の隅で火を起こし、クマ型モンスターの肉を串に刺して炙る。
ジュワッ。
脂が落ちて、炎が小さく跳ねた。煙が立つ。
獣っぽい匂いと、焼けた肉の匂いが混ざって、腹の奥が勝手に鳴る。
「いやー……人間だった頃の私なら、こんなの絶対ムリだったけどねぇ……」
(今は腹が勝つ。人間、負け。)
一口。
……うまい。
血の臭みがない。脂が甘い。
それだけで、世界をちょっと許せる気がした。
(人間やめるの、案外うまいな……)
「ビバ! ジビエ!」
「お姉ちゃん、肉もっと焼くねー☆」
「はーい。お願いしまーす」
(うん、もう気にしない。美味しければそれでいい)
私は串を指先でくるくる回し、二口目にいった。
その時。
──ぺったん♪
【新スキルを習得しました!】
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【新スキル習得】:冬眠(Lv1)
→ 体温を低下させて長期間の省エネ生存が可能になります。
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「え……なにこれ?
クマの肉食べたら……冬眠……?
できるようになったんだけど……?」
スキル欄に "冬眠" の文字が追加された瞬間、私は静かに目を閉じた。
……しばらく虚空を見つめる。周囲がとても静かだ。
エストの鼻歌だけが響く。
焼けた肉の匂いだけが、やけに強く残る。
調理しているエストの声が、遠くなる。
世界は変わらないのに、私だけが変わっていく気がした。
「……スキル……なのこれ……?」
ギャグみたいなスキルだ。
でも、なぜか笑えなかった。
──なんか、嫌な予感しかしない。直感が脳裏をよぎる。
(私、このままずっとネタスキルしか覚えないのでは?)
(……うん。きっと何かの間違いだ)
私は串を置いた。そっと深呼吸する。
すぅ。
焦げた肉の匂いが、少しだけ心を落ち着けてくれた。
こないだ "偏食" から進化した "暴食" ってスキルの効果か!?
──ぺぺぺぺったん♪
【暴食を解析しました】
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【パッシブスキル】:暴食(自動発動)
→ 七つの大罪の一つ。倒した/食べた対象の特性を確率でスキル化します。
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「おおおおお?……チートだ!」
顔を擦り付けるようにステータス画面を確認する。
「これ絶対チートだよね!?
異世界転生者についてる系のやつだよね!?」
(やっと来た……まともそうなスキル……!)
私は鼻息荒く、勝利宣言を叫んだ。
「エスト様ぁあ!私、どうやら!
"食べたらスキル取れる"タイプのチーターですッ!!」
「えええー!?
めっちゃレアだよそれ!? すごいじゃん!」
「見てください! "冬眠" です!!」
──ぺったんこぉー♪
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【スキル一覧・抜粋】
・怪力(Lv10)←殴りすぎ
・偏食(Lv5)←野菜嫌い進行中
・暴食(Lv3)←ネタスキル量産機
・冬眠(Lv1)
→ 体温を低下させて食料の少ない冬季間を過ごす事ができる。
←NEW!←役に立つかは未定!
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「おおお! 冬眠ッ!!」
……こぉー♪ ……ぉー♪
しずかに響き渡る効果音。
「……とう……?」 「……みん……?」
私とエストの声が重なる。
「……。」 「……。」
炎がパチ、と小さく弾けた。
「……と、ととととと冬眠? 私、何か悪いことした…!?」
「お姉ちゃん! 泣かないで!」
『冬眠は役に立たないように見えて、実は強力な生存スキルです。
しかし、サクラのような「動いてないと死ぬようなタイプ」には、概ね向いてません』
また来たよ。天の声。暇かお前。
「うるせーぞ!?」
(……でもチートって分かったのは、ちょっと嬉しい)
(……でも、なんでクマの冬眠が、スキルになるんだ?
やっぱり私、この世界に遊ばれてる?)
『……"暴食"は巡りを乱す』
(え? ……なに今の語り口)
『サクラ。お前は未だ気づかぬ。己が、世界の"鍵"に触れていることを』
(え、ちょ、マジで何なのこのナレーション!?)
『……まぁゴミみたいなスキルしか覚えないけどな』
「最後に台無しにすんなや!!」
──ぺったん♪
【大サービス!新スキルを習得!】
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【新スキル習得】:鮭取り(Lv1)
→ 川で鮭を取るのが上手くなる。
※鮭限定です。異世界には居ないかも。
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……は?
「……こいつぅううううううう!!!」
*
「鮭取り……このスキル使うとどうなるんだろ? 使って──」
【スキル:鮭取り 発動── 】
「おい! 勝手に発動したぞ!?」
間。
【周囲に鮭がいないため、代わりに"似たもの"を召喚します】
「ん? 似たもの!?」
ズゴゴゴゴゴ……
【召喚対象:魔界超サーモンキング (Lv999)】
「ちょ! 待てやあああああァァァ!!」
(つづく)
◇◇◇
──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──
『成長に努力は不要だ。利用できるものは全て利用しろ。』
解説:
ムダ様の「努力不要」は怠惰のすすめではない。
"努力"って言葉を口にした瞬間、負けたと思ってる。
努力してる時点で、世界に使われてる。
利用してる奴は、世界を使ってる。
ムダ様は"使う側"だ。
だから言う。
「利用できるものは全部使え」
──敵の怒りも、観客の歓声も、照明の熱すらも。
ムダ様はかつて言った。
「リングに上がる時点で、空気も武器だ。呼吸で勝て」
意味はわからない。
でも聞いた奴は納得した。勢いがあったからだ。




