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魔王の姉、はじめました。 ──〈魔王がポンコツだから私がやる。〉Re:Novel Edition  作者: さくらんぼん
第04章:【サクラ】ポンコツ魔王軍(2名・Lv1)結成!
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#桜011:理不尽ダンジョン点火スイッチ

「食料も尽きそうだし?

 そろそろ本格的に "魔王軍っぽい" アクションを起こさないとですね……」


「うんっ☆ じゃあ今日から "世界征服" 開始っ☆」


 というわけで、世界征服 ≒ 食糧調達のため、

 私たちはダンジョン最深部の探索に乗り出した。


 今いるのは、仮に名付けるなら【魔王の間】──

 そんな雰囲気の場所だ。


 この魔王の間の『ものものしい扉』を押し開け、外に出てみた。


 ──ギギギギギ……


 扉の外には、青白く光る結晶が天井からぶら下がっていて、

 地下宮殿を無理やりダンジョンにしたみたいな通路が、ずっと奥まで伸びていた。


 *


 ダンジョンを進んでいるとエストが声をかけてきた。


「……ねえ、お姉ちゃん?」


「はい?」


「……なんで私が前で、お姉ちゃんが後ろなの?」


 コウモリが飛ぶ音が響く。


「え?

 こないだまで令和のOLよ?

 舗装されてない道なんて歩けるわけないでしょ?」


 魔王の背中に隠れながら歩く私。


 だって主従関係を考えると、エストがモンスターの前に立つべきじゃない?


 そう思いませんか? ねぇ?


「いや……私を守る……感じで……

 この異世界に喚んだんだけど……」


「……はぁ……仕方ないな……」


 私は笑顔のまま目が死んだ顔をしたが、暗いし見えていなかったはずだ。


 さらにダンジョンを進んでいくと、クマ型のモンスターがウロウロしているのが目に入った。


 足音を殺しながら観察すると、腕が4本はある大型のクマ。


 その毛並みは黒く、赤い目が暗闇で光っている。


(……いやベヒーモスからのクマって、敵のチョイスどうなってんのこの世界……?)


「エスト様、クマ型のモンスターが居ます!

 モンスターはまだこちらには気付いていないようです!

 これはチャンスです! 奇襲を仕掛けましょう!!」


 私は最高の笑顔でグッと親指を立てた。


「奇襲好きだね☆」


「ええ。なぜなら──」


 私は脳内でムダ様の教えを反芻する。


『奇襲はマーケティング。市場が気づく前に市場を潰せ』


「──奇襲はマーケティングですから」

 私は自信満々に言い切った。

 

「は?」

 エストの歩みが止まる。

 小首をかしげて、紅い瞳が私を見つめる。


「市場が気づく前に市場を潰す。これが基本です」

 さらに自信満々に胸を張る。完璧な理論だ。たぶん。


「お姉ちゃん、今何を言ってるの?」

 エストの声が若干引いている。


「……知らん。でも勢いがある。勢いがあるから正解」


「ホントに何を言ってるの!?」

 エストが本気で困惑している。


「……ホント私、何を言ってる?」


 沈黙。

 暗いダンジョンに、私たちの呼吸音だけが響く。


「……とりあえず、奇襲するってことでいい?」

 エストが諦めたような声で聞いてくる。


「はい」


「……じゃあ行こう?」

 エストが怪訝そうな目で見てくる。


 *


「じゃあ気を取り直して! ……行くよ☆ ダークアロー!」


「了解!」


 エストの掌から放たれた黒い矢が、闇の中を一直線に走った。


 ギィン! と空気が裂ける音。


 矢はクマ型モンスターの肩で爆発した。


 ボボボボボンッ!!!!!


 爆発。

 視界が真っ白になる。

 熱風が吹き抜け、石壁がビリビリと震えた。


「ガウウウウウウウーッ!!」


 クマモンスターは叫ぶと同時に消えていた。

 いや、消し飛んだ。


 床に魔方陣が焼き付き、放射状に亀裂が走っている。

 焦げた匂いが鼻を突く。



「は? え?」

 目の前で起きた凄惨な光景に脳が追いつかない。



「あ、あれ? あれぇ? また……爆発しちゃった……」

 首を傾げるエスト。


「ん……ん? ……また?今の暴発……?いつものことなの?」


「爆発する魔法じゃないのに……教科書の通りに魔法撃ったのに、失敗かぁ…」


 もしかして、エスト──天才肌なのか……!?

 いつもアホの子だと思ってた。


「こ、これは……ちょっと優しくしとくか……」

 私は小声で誓う。強いものには巻かれよう。


「ん? お姉ちゃんなぁに?☆」


「い、いえ。ナイス魔法でした!」


 *


 そうこうしてると今の爆音でクマ型モンスターが更に一頭、顔を出した。

 ウロウロしている。こちらに気付いていないようだ。


「チャンス!」


【スキル:《怪力》発動】


 私は地面を蹴った。


 前回のベヒーモスでは必死で分からなかったが、自分でも驚くほどの速さだ。


 地面を蹴る感触が心地よい。


 空気を置き去りにしていく。


 これが鬼の身体か……。


 クマは悲鳴を上げて振り向いた。だが、遅い。


「まずは──挨拶代わりに!」


 私は全体重を乗せて、クマの胸元に跳びかかった。


「ドロップキィィィィック!!」


 私の両足がクマの胸に叩き込まれた。


 ズドォォン!!


 鈍い衝撃音。

 骨が軋む音が聞こえた気がした。


「ガウウー!?」


 クマの身体が後方に吹き飛ぶ。

 まるで糸が切れた人形みたいに、ぐるぐる回りながら。


「すまん! クマ! こっちは食糧事情がかかってんだ……!」


 私はすかさずダッシュで間合いを詰める!


 逃げようとしたクマの足をガシィと掴む。


【スキル:《怪力》── お腹減ったモード】


「筋肉の栄養は筋肉で取る。それが食物連鎖ってやつだ……!」


『血糖値の落ち込みが筋肉を刺激する。サクラの出力+100%。理屈はない』


「さあ次は! 必殺・関節破壊コース!」


「喰らいなさい! 私が最も尊敬するプロレスラー! ザ・グレート・ムダ様の──魂を込めた見よう見真似の──!」


 叫びとともに、私は身体ごとクマの足を捻りあげる!


「──ドラゴン・スクリュー!!」


 私はクマの右足を掴んで一気に身体ごと捻った。

 体重を乗せる。

 全身の筋肉が一つの目的のために動く。


 グルンッ!! ガギィッ!!


 関節が悲鳴を上げる音。

 クマの巨体が宙を舞う。


(……手応えあり)

 この感触、何度もムダ様の試合で見たやつだ。


 そのままモンスターの勢いを利用して──


「地獄へ、ダイブ!」


 ドグシャッ!!


「ガウ……ッ!」


 地鳴りのような衝撃。


 土煙があたりに舞う。


「お! おぉぉぉぉーかっこいいッ!!」


 深呼吸。


 鼓動が少しずつ落ち着いていく。


 拳に残る熱が、まだ冷めない。


 私は優雅に立ち上がると、倒れているモンスターを見下ろしながら呟く。


 髪を後ろに流し、埃を払う。


「ふふ……戦う私は美しい……」


「うん、強い。美しいかはさておき」


「……ちっ」


 *


 さらにダンジョンを進んでいくと、またクマ型のモンスターがウロウロしているのが目に入った。


(……あれ? ついこないだまでファミレスでドリア食べてたのに……なんで、こんな暗いダンジョンで食料調達してんの!?)


(ファミレスと言えばメニュー裏の間違い探し……)


(あれ、毎回最後の1個がどうしても見つからないんだよッ)


【スキル:《怪力》── ファミレス間違い探しモード】


『制限時間を超えた焦燥感がサクラの筋肉を覚醒させる。出力+500%。理由:人類の業』


「ドリア冷めたじゃねーかぁッ!?」


 理性が飛んだ。

 気づいたら地面を蹴っていた。


 ドグシャッ!!


 拳がクマの顔面に突き刺さる。


「クマッ!?」


 クマの目が点になる。

 完全に意味が分かっていない顔だ。


 気付いたらいきなりクマをぶん殴ってた。

 ファミレスの恨みは深い。


「……時間返せよッ!! 間違い探しの難易度高すぎんだよッ!!」


「ガウッ!? ガウウッ!?」


 叫ぶと同時にクマは地面にめり込んだ。


 ……ガ……ガウッ……


 クマさん納得いかないまま撃沈。


 涙目でこちらを見てくるクマさん。


「でもドリアとサラダは美味しくて好き!!」


「お姉ちゃん! クマさん絶対に納得いってないよ!?」


「知らん! 理不尽を食らうのがダンジョンの定めだッ!」


 深呼吸。


 怒りは毒だ。でも私には、それが燃料になる。

 恥も怒りも理不尽も──ぜんぶ私の点火スイッチだ。


 ……だったら、この世界は私向けってことだよね。



 ──その時。



 ──ぽぽぽぽっ ぽぉんこっつー♪


 空気が震えて、金色の光がエストを包み込む。

 レベルアップのテレレレッテッテッテー♪のリズム。

 

「おっおっおーッ!? お姉ちゃん! レベルが10も上がったよ~☆」


 エストは嬉しそうにピョンピョン跳ねている。

 赤い瞳が星のように輝き、小さな手足を無邪気に動かす姿。


 ふふふ……可愛い。


 こうして見ると、とても魔王には見えない。

 経験値の美味しい小さな女の子だ。


 私のレベルは上がらなかった。

 妹のアゴなら上がるのに……世界って不条理ね……


 が、適当に話を合わせておいた。


「やりましたね! 私も似たような感じでした」


 効率的にはエストのアゴを狙うのが良いと分かった。


 そうだ! 成長したエストアゴを狙おう。

 その小さな顎には、無限の可能性が詰まっている。


「どしたのお姉ちゃん? 私のアゴになにかついてる?」


「いえいえ」



(あのアゴ……世界の経験値テーブル……)



(つづく)



◇◇◇



──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──


『奇襲はマーケティング。市場が気づく前に市場を潰せ。俺、今何を言ってる? 知らん。でも勢いがある。勢いがあるから正解。ホント俺、何を言ってる?』


解説:

これは「理屈が崩壊した成功理論」だ。

ムダ様は常に"勢い"を神格化する。勢いが真実を上書きし、論理を蹴飛ばす。

その状態を「マーケティング」と呼んでいる。


つまりこれは、戦略でも哲学でもなく、熱量で現実を書き換える祈祷だ。

「俺、今何を言ってる?」という自問は、本来"混乱"のサインのはずなのに──ムダ様にとっては悟りの瞬間。


思考が崩壊して、脳が"勢いだけの生物"になる。

そこに余計な理性がない。

つまり、理屈を捨てた結果としての正気。

それがムダ様流のマーケティングだ。


勢いとは点火だ。理屈を焼き払い、世界を捻じ曲げる火だ。

……まあいいや。勢いがあるから、きっと正解なんだろう。

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