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魔王の姉、はじめました。 ──〈魔王がポンコツだから私がやる。〉Re:Novel Edition  作者: さくらんぼん
第04章:【サクラ】ポンコツ魔王軍(2名・Lv1)結成!
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#桜008:世界征服計画、開始前に魔王のアゴで頓挫の危機

「いやマジで、魔王軍所属なのにレベル100の勇者になったとか意味わからんのだけど……」


 床に座り込みながら深呼吸する。深呼吸しても全然落ち着かない。

 それでも目の前にはポンコツ魔王(妹)が白目をむいて転がっている。



 そして《世界一タフな性格》が、勝手に発動した。

 ──はい、頭の切り替え完了。



「……はぁ……妹がポンコツだから、休む間もなくお世話係ですよっと……」


 私はしゃがみ込み、気絶してるエストの頬をペチペチ叩いた。


「おーい、エスト様ー? 大丈夫ですかー? 聞こえてますかー?」


 反応なし。


「……うーん……ダメか」


 仕方ない。


「はいはい搬送しますよー」


 私はズリズリとエストを布団まで引きずる。


 力を込めた覚えはないのに、すごく軽い。


(……あぁそうか、これが”鬼パワー”か)


「まったく……妹になったからって、お姉ちゃんは甘やかさないからな……」


 ドサッ。


 とりあえず布団に放り投げた。


「……これで終わりじゃないんだよなぁ」


 私は再びしゃがみ込み、エストのほっぺを両手でムニムニしながらペチペチ。


「起きろー。ポンコツ魔王ー。おーきーろー。ほっぺビンタだぞー」


「……ふにゃ?」


 薄目を開けたが、まだ寝ぼけているらしい。


 沈黙。


「……なんかアゴがジンジンする☆」


「はい目覚めた!! 事故です、幻覚です、夢でしたー!」


 エストが意識を取り戻した。

 よかった、目を覚ました……と、思った次の瞬間だった。


「ふらふら〜☆」


 エストは立ち上がろうとして、ふらりと前のめりに倒れ込んできた。


「あぶな──」


 ──ゴンッ。


 エストのアゴがヒジに直撃──


「またアゴッ」


 そう言うと、静かに崩れ落ちた。


 私は固まったまま、右ヒジと崩れ落ちた妹を交互に見比べた。


「………えぇ?」


 そしてまた、頭の中であの嫌がらせファンファーレが鳴った。


──ぺったん ぺったん ずんどこどーん♪


【サクラのレベルが120に上がりました】

【光魔法:ライトアローを習得しました】


「………えぇえええええ?」


 い……今ので倒したことになるの……?


 そして光魔法……勇者……っぽいね……。


(ねぇ誰か説明して? 私の人生で遊んでるヤツいない?)


「条件どうなってんの!?」


 ──その時、私は気づいてしまった。


「……この子、アゴ……脆すぎない……?」


 私は寝転がるエストのアゴにそっと指を伸ばした。


「……アゴ……さ、触るとどうなるのかな?」


 ──コツン。


「……アゴ」


 エストが寝言でつぶやいた。


──ぺったん ぺったん ずんどこどーん♪


【サクラのレベルが125に上がりました】


「……上がったぁぁあああ!! どういう仕組み!?」


 ちょっと待てよ。これ……連打すれば999まで行けるんじゃ?

 そう思った瞬間、人差し指がぷるぷる震えた。


「……いや、やめとこ……犯罪臭しかしない……」


 二十歳超えて幼女魔王のアゴ連打とか、もう人として終わってる。


 ◇


 静かになった。


 エストはまだ寝てる。


 小さな寝息が、魔王城の冷たい空気を揺らしていた。

 その音を聞いてたら、胸の奥がちょっとだけ痛くなった。


(この子、ほんと寂しかったんだろうな)


 こんな薄暗い空間で何年もひとりで……


 私がバカやって笑わせてる間、きっと怖いことだってたくさんあったはずだ。


(……守るって、こういうことかもね)


 拳を握った。

 殴るためじゃない。支えるために。


『天の声:いや、養分にしただろ』


「っさい! またおまえか! 事故だろ!」


 沈黙。


 焚き火が消えたあとのような静けさが、魔王の間の空気に漂った。


 ふと、頭の中でムダ様の声が響いた気がした。


『焼肉を奢れ。皿を円形に並べろ。それが魔法陣だ。罪が消える。』


「……さすがムダ様。確かに私なら焼肉奢られれば全部許すわ……」


 私は気絶したエストを見下ろして、小さく呟いた。


「……このあとは焼き肉にしよう。

 って、異世界に焼肉ある?

 まぁでも肉焼くのが文明だろ。つまり焼肉=文明。あるでしょ」



 *



 そして、エストが目を覚ました。


「……やっぱりアゴがジンジンする☆」


「夢です。幻覚です。事故です」


 すべて偶然で押し通す。これ基本。


 無言で見つめ合う私たち──


「そうだ! お姉ちゃんのレベル上がった?」


「ええ……まぁ……少しだけ」


 誤魔化す為に「少し」なんて言ったが、実際は120。

 数字だけなら化け物だ。

 けどここで正直に言ったら絶対ややこしいことになる。


「おお! じゃあまたスパーリングで──」


「はい中止。ご飯食べましょう」


 慌てて話題を変える。


 エストの目がキラッと輝いた。


「うん! お肉!!」


 再び沈黙が走る。


「……でもさっき起きた瞬間、またアゴに衝撃が──」


「夢です。幻覚です。事故です」


 食い気味にかぶせる。絶対にアゴの話は広げさせない。


「そっか! ごめんなさい☆」


(よし、勝った)


『この人は20歳超えた大人です』


「っさい!!」



 *



 その後──。


 魔王と勇者が並んで焼肉していた。


「ねぇ……これ、世界征服の食卓っていうより、ただの焼肉女子会じゃね?」


「焼肉から始まる世界征服もあるんだよー!」


「いや聞いたことないよ! ……いや、世界征服ってそういう感じでやるんだっけ?」


「兵站の確保は大事なのー」


「兵站って言葉の意味知らないでしょ?」


「ご、ご飯のことでしょ!?」


 こうして魔王軍の夜は平和に更けていった。


 *


『この物語、本当に征服する気あるのか?』


『だがこの日の一撃こそ、後に“魔王の致命的弱点・ガラスのアゴ伝説”と呼ばれる始まりである。正気か?この設定』


『──ともあれ。ここから“魔王と勇者のレベル上げ編”が幕を開ける』


(なんか天の声がうるさいけど、焼き肉食べてるから私は機嫌が良い。無視無視)



(つづく)



 ◇◇◇


──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──


『焼肉を奢れ。皿を円形に並べろ。それが魔法陣だ。罪が消える。』


解説:

俺は一回、焼肉屋で皿を円形に並べた。

店員が「何してるんですか」って聞くから、

「魔法陣です」って答えた。

「やめてください」って言われた。

でも続けた。

出禁になった。

レジ横のミントガムをいまだに忘れられない。

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