#桜007:魔王を殴ったらレベル100の勇者になりました
──その朝は、しんみりの余韻をぶっ壊す勢いで始まった。
「で、レベル上げってマジ?」
言った瞬間、胸の奥からイヤイヤの幼児みたいな声が響いた。
全身で拒否してる。
「そ、そうだよ」
魔王エストは笑っているが、目は泳いでいた。
小娘、威厳を保つ努力だけはしているらしい。
「嫌いな言葉?──努力・頑張る・PDCA。」
「最後のは知らないよ!」
「要するに、何度もテスト勉強しろって話でしょ。地獄のループ。
KPIとか大嫌い。数字で殴られるやつ。」
エストはぽかんとしていた。
まぁ、異世界少女にPDCAとKPIは通じん。
*サクラのブラック企業用語ミニ辞典*
・PDCA:回すたび魂が削れる地獄の輪。
・KPI:数字の形をした暴力。
「ま、まずはさ! 現状を確認しよう! ステータスオープンって言ってみて!」
「は? なんで? いやですよ」
「いや! 言えよ!! なんで拒否!?」
地団駄を踏む魔王。かわいい。だが命令形はムカつく。
「……まぁ、仕方ないか。深呼吸……ステータスーッ! オープンーッ!」
「結果発表ーッ!? みたいな感じ!?」
ぱん、と光が弾け、目の前にウィンドウが開いた。
──ぺったん♪
「ぺったん!? ちょっと待て!? どこから流れてんの!!」
「なにその効果音!!」
エストも驚く。なんなんだよこの世界。
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【サクラのステータス】
レベル:1
スキル:怪力/偏食
称号:ぺったん鬼女【呪い】←全ステ20%ダウン
性格:横暴・自己中・そして、美しい(本人談)
特技:寝る前に自分を褒める/逆ギレ
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「…………」
私は、固まった。
「……ん? か、怪力? ぺ、ぺったん鬼女?」
視界の端で、エストが口元を押さえ、震えている。
「の、ののの『呪い』って何これ!? ステータスダウン(笑)って何これ!!?」
「うわぁ……ひど……」
エストのひどい慰めが刺さる。
「常時デバフ体質……? 嘘でしょ……?」
「お姉ちゃん!大丈夫!
おいしいネタだと思わないと!」
励ますつもりの声が地獄の追撃。
「なんで私は転生初日に十字架を背負ってんの!! おいクソ世界!!」
叫びつつも、ウィンドウは容赦なく次の項目を表示した。
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【称号詳細:世界一タフな性格】
説明:
ストレスを「まあいっか」で流す最強メンタル。
世界一の雑草女。
世界が何度背中を蹴っても、笑って中指立てて立ち上がる者こそ魔王に選ばれる。
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「……は? タフ? 私が? バカじゃないの」
「ただムカついたら殴ってるだけでしょ?」
「それがタフなんだよ!お姉ちゃん!」
(……褒められてるのこれ?)
気づけば私は天井を見上げ、じわりと深刻モードになっていた。
「……これからの運命、どうなるんだろう……」
だが数秒後、脳内で“称号:世界一タフ”が発動した。
(ポクポクポク……チーン)
「はい! 切り替え完了!」
「ほんとにタフ!」
エストが感心しているが、今はどうでもいい。
とりあえず私はエストの肩をポンと叩いた。
「エスト様。いや魔王様。ファイトです。私の代わりに頑張ってください」
「無理だよ!! だからお姉ちゃんを召喚したんだよ!!」
即答。
弱すぎる魔王に育てる気力が一瞬で削られる。
「……仕方ない。じゃあ提案がある。」
「な、なに……?」
エストがビビり散らしてる。
私は拳を握った。
脳裏にムダ様の名言がよぎる。
《敵も味方も、まず殴れ。会話は最後だ。》
「──スパーリングしよう」
「え? スパ……何?」
「あなたは魔王。ウルトラレア。はい殴る!」
「え!? え!?」
「はい経験値ズドン! 全部それ!」
「な、なるほど!?」
エストは不安そうだったが、無駄に余裕の笑みを浮かべた。
「私にはバリアあるし?」
「ほぉ?」
「レベル1のお姉ちゃんじゃ絶対壊せないし?」
「へぇ?」
「ちゃんと魔法の教科書に載ってたやつだし?」
(なんでそこでドヤるんだこいつ)
エストの足元に魔法陣が浮かび、光の粒子が舞う。
透明な球体のバリアが“ぽん”と生まれ、エストを包んだ。
「バリア完成! これで安心だよ!」
私はバリアをコンコン叩いた。
「……まぁ、魔法だわ。確かに頑丈そう」
「でしょでしょ」
「じゃ、試すね?」
「うん! こいこい」
一歩踏み込み、右腕をしならせ──拳を叩き込む。
ズドン!!
膜が“ブルン”と震え──
パリィィィィィン!!!
次の瞬間、バリアが砕け散った。
「……はい証明完了。努力ゼロでも世界は壊せます」
まるでガラス細工のように、光の破片がきらきらと宙を舞った。
【スローモーション開始】
砕けたバリアの破片が、きらきらと光を反射しながら落ちていく。
その向こうで、エスト様の目が点になった。
(あ、ヤバいって気付いた顔してる)
エストの喉から、情けない声が漏れる。
「ひっ……!」
逃げようと一歩踏み出しかけ──遅い。
勢いの止まらない私の拳が、そのまま──
ゴツン!!!
「アゴッ☆」
エスト様のアゴにクリーンヒットした。
涙、鼻水、ヨダレ。
全部まとめてふわりと宙を舞う。
そして、エストは糸が切れた人形のように、ゆっくりと倒れていった。
【スローモーション終了】
静寂が落ちた。
私は砕け散ったバリアの残滓を見下ろし、
倒れたエスト様を見下ろし、
また拳を見下ろした。
「えーっと……」
(…………)
(……やっちまった……?)
「どうしよう……」
誰に聞くでもなく呟いた。
その時は誰も知らなかった。
──この出来事こそ、“魔王の致命的ウィークポイント”を世界に広める第一歩になるとは。
*
気絶したエスト様は、天使の寝顔で床に転がっていた。
ヨダレだけは天災級だった。
こんな簡単に気絶してしまう魔王が世界征服なんて──無理に決まってる。
でも、それを言い出したのはこの妹だ。
なら、姉として、やるしかない。
(家族って……姉って……そういうもんだろ?)
(……家族……か)
頼られて、必要とされて、名前を呼ばれて──
胸の奥が、じんわり熱くなった。
悪くない。この感覚。
「……姉? 姉妹? 私が? 暴力と逆ギレと筋肉で構成されてる私が?」
自嘲気味につぶやいたその瞬間──
──ぺったん ぺったん ずんどこどーん♪
あの“レベルアップの音らしきもの”が脳内に直撃した。
「わわッ!? びっくりした……頭の中に直接聞こえてる!?」
【サクラのレベルが100に上がりました】
「………………は?」
あまりの意味不明さに、思わず胸をガードしてしまう。
「レベル100? ……は? 最終回?」
(静寂)
「いや、待て待て待て待て待てぇッッ!!」
「え? 私だけバグってんの!? ねぇ!!?」
《天の声:理由は“サクラだから”だ。納得だろ?》
「またお前か!!納得するかぁぁぁぁ!!!」
《お前に理屈を求める時点で敗北だ》
「なんだよその急なディスり!! 褒めてんの!?」
《褒めてねぇよ》
「だよね!!」
さらに追撃で声が響く。
《ついでに魔王を倒したので勇者認定する。常識だな。世界の理だ》
【称号「勇者」を取得しました】
「は? ついで?? 今度は勇者??」
──ぺぺぺぺぺー⤴︎ぺったん♪
「効果音変わってる!!? 何かのハラスメントだからなこれ!!」
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【ステータスウィンドウ】
名前:サクラ
種族:鬼
レベル:100 ←NEW!
▼称号
・勇者(成長補正【極】)★NEW
・ぺったん鬼女【呪い】(全ステ20%ダウン(笑))
・世界一タフな性格
▼スキル
・怪力(Lv100)
・暴食(Lv1)★NEW(※偏食から進化)
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画面を見つめながら、私は首を傾げた。
「えーっと……魔王を倒したから勇者……なのかな……?
うん、まぁ……わかるけど……わからん」
拳をぎゅっと握る。
体の奥から、ぞわりと怪力があふれるのを感じる。
(……やば。マジで強くなってる……)
「で、これから魔王と勇者が世界を征服する……ってこと?」
「勇者ってさ、普通 “世界を救う” 側じゃない?」
「私? “世界ぶっ壊す側”なんですけど???」
拳を見つめたまま、ぽつりと呟いた。
「勇者になっちゃいました! ついでです! てへぺろ!」
「……って魔王に言うの? 絶対めんどくさくなる未来、見えたわ……」
(つづく)
◇◇◇
──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──
『敵も味方も、まず殴れ。会話は最後だ。』
解説:
説明している間に殴られるくらいなら、殴ってから謝る方が生存率は高い。
スッキリするしな。
問答無用こそ最善の戦術。
外交?知るか。拳で語れ。
それでも話し合いたい奴がいるなら、先に床に叩きつけろ。
立場が変われば、考えも変わる。
スッキリした方が健康にも良い。




