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魔王の姉、はじめました。 ──〈魔王がポンコツだから私がやる。〉Re:Novel Edition  作者: さくらんぼん
第04章:【サクラ】ポンコツ魔王軍(2名・Lv1)結成!
13/27

#桜007:魔王を殴ったらレベル100の勇者になりました

 ──その朝は、しんみりの余韻をぶっ壊す勢いで始まった。


「で、レベル上げってマジ?」


 言った瞬間、胸の奥からイヤイヤの幼児みたいな声が響いた。

 全身で拒否してる。


「そ、そうだよ」


 魔王エストは笑っているが、目は泳いでいた。

 小娘、威厳を保つ努力だけはしているらしい。


「嫌いな言葉?──努力・頑張る・PDCA。」


「最後のは知らないよ!」


「要するに、何度もテスト勉強しろって話でしょ。地獄のループ。

 KPIとか大嫌い。数字で殴られるやつ。」


 エストはぽかんとしていた。

 まぁ、異世界少女にPDCAとKPIは通じん。


*サクラのブラック企業用語ミニ辞典*

・PDCA:回すたび魂が削れる地獄の輪。

・KPI:数字の形をした暴力。


「ま、まずはさ! 現状を確認しよう! ステータスオープンって言ってみて!」


「は? なんで? いやですよ」


「いや! 言えよ!! なんで拒否!?」


 地団駄を踏む魔王。かわいい。だが命令形はムカつく。


「……まぁ、仕方ないか。深呼吸……ステータスーッ! オープンーッ!」


「結果発表ーッ!? みたいな感じ!?」


 ぱん、と光が弾け、目の前にウィンドウが開いた。


──ぺったん♪


「ぺったん!? ちょっと待て!? どこから流れてんの!!」


「なにその効果音!!」

 エストも驚く。なんなんだよこの世界。


================

【サクラのステータス】


レベル:1

スキル:怪力/偏食

称号:ぺったん鬼女【呪い】←全ステ20%ダウン

性格:横暴・自己中・そして、美しい(本人談)

特技:寝る前に自分を褒める/逆ギレ

================


「…………」

 私は、固まった。


「……ん? か、怪力? ぺ、ぺったん鬼女?」


 視界の端で、エストが口元を押さえ、震えている。


「の、ののの『呪い』って何これ!? ステータスダウン(笑)って何これ!!?」


「うわぁ……ひど……」

 エストのひどい慰めが刺さる。


「常時デバフ体質……? 嘘でしょ……?」


「お姉ちゃん!大丈夫!

 おいしいネタだと思わないと!」

 励ますつもりの声が地獄の追撃。


「なんで私は転生初日に十字架を背負ってんの!! おいクソ世界!!」


 叫びつつも、ウィンドウは容赦なく次の項目を表示した。


================

【称号詳細:世界一タフな性格】


説明:

ストレスを「まあいっか」で流す最強メンタル。

世界一の雑草女。

世界が何度背中を蹴っても、笑って中指立てて立ち上がる者こそ魔王に選ばれる。

================


「……は? タフ? 私が? バカじゃないの」


「ただムカついたら殴ってるだけでしょ?」


「それがタフなんだよ!お姉ちゃん!」


(……褒められてるのこれ?)


 気づけば私は天井を見上げ、じわりと深刻モードになっていた。


「……これからの運命、どうなるんだろう……」


 だが数秒後、脳内で“称号:世界一タフ”が発動した。


(ポクポクポク……チーン)


「はい! 切り替え完了!」


「ほんとにタフ!」

 エストが感心しているが、今はどうでもいい。


 とりあえず私はエストの肩をポンと叩いた。


「エスト様。いや魔王様。ファイトです。私の代わりに頑張ってください」


「無理だよ!! だからお姉ちゃんを召喚したんだよ!!」


 即答。

 弱すぎる魔王に育てる気力が一瞬で削られる。


「……仕方ない。じゃあ提案がある。」


「な、なに……?」

 エストがビビり散らしてる。


 私は拳を握った。

 脳裏にムダ様の名言がよぎる。


《敵も味方も、まず殴れ。会話は最後だ。》


「──スパーリングしよう」


「え? スパ……何?」


「あなたは魔王。ウルトラレア。はい殴る!」


「え!? え!?」


「はい経験値ズドン! 全部それ!」


「な、なるほど!?」

 エストは不安そうだったが、無駄に余裕の笑みを浮かべた。


「私にはバリアあるし?」


「ほぉ?」


「レベル1のお姉ちゃんじゃ絶対壊せないし?」


「へぇ?」


「ちゃんと魔法の教科書に載ってたやつだし?」


(なんでそこでドヤるんだこいつ)


 エストの足元に魔法陣が浮かび、光の粒子が舞う。

 透明な球体のバリアが“ぽん”と生まれ、エストを包んだ。


「バリア完成! これで安心だよ!」


 私はバリアをコンコン叩いた。


「……まぁ、魔法だわ。確かに頑丈そう」


「でしょでしょ」


「じゃ、試すね?」


「うん! こいこい」


 一歩踏み込み、右腕をしならせ──拳を叩き込む。


ズドン!!


 膜が“ブルン”と震え──


パリィィィィィン!!!


 次の瞬間、バリアが砕け散った。


「……はい証明完了。努力ゼロでも世界は壊せます」


 まるでガラス細工のように、光の破片がきらきらと宙を舞った。


【スローモーション開始】


 砕けたバリアの破片が、きらきらと光を反射しながら落ちていく。

 その向こうで、エスト様の目が点になった。


(あ、ヤバいって気付いた顔してる)


 エストの喉から、情けない声が漏れる。


「ひっ……!」


 逃げようと一歩踏み出しかけ──遅い。


 勢いの止まらない私の拳が、そのまま──


 ゴツン!!!


「アゴッ☆」


 エスト様のアゴにクリーンヒットした。


 涙、鼻水、ヨダレ。

 全部まとめてふわりと宙を舞う。


 そして、エストは糸が切れた人形のように、ゆっくりと倒れていった。


【スローモーション終了】


 静寂が落ちた。


 私は砕け散ったバリアの残滓を見下ろし、

 倒れたエスト様を見下ろし、

 また拳を見下ろした。


「えーっと……」


(…………)


(……やっちまった……?)


「どうしよう……」


 誰に聞くでもなく呟いた。

 

 その時は誰も知らなかった。

 ──この出来事こそ、“魔王の致命的ウィークポイント”を世界に広める第一歩になるとは。


 *


 気絶したエスト様は、天使の寝顔で床に転がっていた。

 ヨダレだけは天災級だった。


 こんな簡単に気絶してしまう魔王が世界征服なんて──無理に決まってる。

 でも、それを言い出したのはこの妹だ。


 なら、姉として、やるしかない。


(家族って……姉って……そういうもんだろ?)


(……家族……か)


 頼られて、必要とされて、名前を呼ばれて──

 胸の奥が、じんわり熱くなった。


 悪くない。この感覚。


「……姉? 姉妹? 私が? 暴力と逆ギレと筋肉で構成されてる私が?」


 自嘲気味につぶやいたその瞬間──


──ぺったん ぺったん ずんどこどーん♪


 あの“レベルアップの音らしきもの”が脳内に直撃した。


「わわッ!? びっくりした……頭の中に直接聞こえてる!?」


【サクラのレベルが100に上がりました】


「………………は?」


 あまりの意味不明さに、思わず胸をガードしてしまう。


「レベル100? ……は? 最終回?」


(静寂)


「いや、待て待て待て待て待てぇッッ!!」


「え? 私だけバグってんの!? ねぇ!!?」


《天の声:理由は“サクラだから”だ。納得だろ?》


「またお前か!!納得するかぁぁぁぁ!!!」


《お前に理屈を求める時点で敗北だ》


「なんだよその急なディスり!! 褒めてんの!?」


《褒めてねぇよ》


「だよね!!」


 さらに追撃で声が響く。


《ついでに魔王を倒したので勇者認定する。常識だな。世界の理だ》


【称号「勇者」を取得しました】


「は? ついで?? 今度は勇者??」


──ぺぺぺぺぺー⤴︎ぺったん♪


「効果音変わってる!!? 何かのハラスメントだからなこれ!!」


================

【ステータスウィンドウ】


名前:サクラ

種族:鬼

レベル:100 ←NEW!


▼称号

・勇者(成長補正【極】)★NEW

・ぺったん鬼女【呪い】(全ステ20%ダウン(笑))

・世界一タフな性格


▼スキル

・怪力(Lv100)

・暴食(Lv1)★NEW(※偏食から進化)

================


 画面を見つめながら、私は首を傾げた。


「えーっと……魔王を倒したから勇者……なのかな……?

 うん、まぁ……わかるけど……わからん」


 拳をぎゅっと握る。

 体の奥から、ぞわりと怪力があふれるのを感じる。


(……やば。マジで強くなってる……)


「で、これから魔王と勇者が世界を征服する……ってこと?」


「勇者ってさ、普通 “世界を救う” 側じゃない?」


「私? “世界ぶっ壊す側”なんですけど???」


 拳を見つめたまま、ぽつりと呟いた。


「勇者になっちゃいました! ついでです! てへぺろ!」


「……って魔王に言うの? 絶対めんどくさくなる未来、見えたわ……」



(つづく)



◇◇◇


──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──

『敵も味方も、まず殴れ。会話は最後だ。』


解説:

説明している間に殴られるくらいなら、殴ってから謝る方が生存率は高い。

スッキリするしな。

問答無用こそ最善の戦術。

外交?知るか。拳で語れ。

それでも話し合いたい奴がいるなら、先に床に叩きつけろ。

立場が変われば、考えも変わる。

スッキリした方が健康にも良い。

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