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魔王の姉、はじめました。 ──〈魔王がポンコツだから私がやる。〉Re:Novel Edition  作者: さくらんぼん
第04章:【サクラ】ポンコツ魔王軍(2名・Lv1)結成!
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#桜006:背中合わせのぬくもり

 ──その夜。

 背中を刺すような冷たさで、私は目を覚ました。


「……冷たっ」


 寝返りを打つと、ゴリッという硬い感触。


「……やっぱ冷たい」


 目を開けると、そこは冷え切った石の床だった。

 どうやら寝相が悪すぎて、せっかく出した布団を蹴飛ばし、床で寝ていたらしい。


「……石だもんね。冷たいよね」


 薄暗い魔王の間には、私の独り言だけが跳ね返ってくる。

 試しに石に話しかけてみる。


「……ねぇ石。少しは温かくなってよ」


 もちろん返事はない。


「……無視かよ」


 這い上がって布団に戻ろうとすると、ベッドの方から寝息が聞こえた。


「Zzz……ココア……もっと……Zzz」


 豪華なベッドの上で、魔王エストが幸せそうに寝ている。

 ベッドの端がきゅっと窪んでいて、小柄な体がすっぽり埋まっている。


「なんであっちだけベッドなの? どう見ても私サイズじゃん」


「Zzz……これは私のベッド……Zzz」


「寝言で牽制すんな」


 私はため息をつき、柱に背中を預けて座り直した。

 冷気が石より早く体に染み込んでくる。


「……眠れないな」


 レベル1。ダンジョン最深部。外にはレベル100が徘徊中。

 静かなのに、静けさの裏側が全部“脅威”で満たされている。


「……詰んでるよね、これ」


 じわっと胃が痛む。手で押さえてみる。


「胃薬……ないよな、異世界に」


 その瞬間、ムダ様の名言が頭の中に再生された。


《完璧超人も胃酸には勝てない! 胃薬と共に勝利を掴め!》


「その胃薬が無いんだよ……」


 沈黙。

 石の冷たさと、異世界の現実と、心細さが全部混ざる。


「……異世界にもプロレスあるかな」


 また沈黙。


「……魔王軍でプロレス団体作る?」


 さらに沈黙。


「……団体名は『デビル・レスリング』」


「Zzz……それダサい……Zzz」

 予想外のタイミングで、エストの寝言が刺さる。


「寝言で企画否定すなぁ!!」


「お姉ちゃん……」

 その寝息に混じった言葉は、あまりにも素直すぎて胸の奥が痛くなった。


「……お姉ちゃん、か」


 おじいちゃん、おばあちゃん。

 大切な人ほど先にいなくなっていった記憶が、背中の冷たさと一緒に蘇る。


「……また一人になるの、嫌だな」


 ぽつりと漏れた本音は、石より硬くて脆かった。

 でも現実はもう変わっている。

 すぐ隣で寝ている小さな魔王の存在が、それを教えてくれる。


「……この子がいなくなる方が、もっと嫌だな」


 胃じゃない場所がムズムズする。

 胸の奥が熱くなる。


「……やってやるか。世界征服」


 再び、ムダ様の名言が脳内に降臨する。

『誰かを守る? その決意は素晴らしい。で、焼肉食ったか?』


「……肉……食いたい……」


 ため息混じりに立ち上がり、エストの肩にそっと毛布をかけてやる。


「よし」


「Zzz……ありがと……世界征服がんばって……Zzz」


「……人任せ!?」


「Zzz……どうすればいいか知らんし……Zzz」


「無責任!!」


 その時、外の地鳴りがドゴン、ガァァァァと鳴った。どう聞いても運動会ではない。


「……うん。運動会してるってことにして、寝よ」


 私は現実から逃げるための布団を引き寄せ、潜り込んだ。


『布団:防御力+3/精神安定+99/行動力−99』


「これ……強くね?」


『布団:睡眠誘導+999』


「うそ……最強……」


『布団:現実逃避+∞』


「負ける……絶対負ける……」


『布団:もふもふ』


「……温か……」


 そして。


『布団:君の味方だよ』


「……っ……Zzz……」


 そこまで言われたら、もう勝てる気がしなかった。


《お前、世界征服する気あんの?》


『布団:彼女は頑張ってるよ』


《お前まで喋るな》


 *


 ──翌朝。


 魔王の間のど真ん中で、私はまだ布団にくるまっていた。

 完全に戦闘不能状態だ。

 しかも枕元には、いつの間にか増殖した生活用品の山。


 マグカップ、歯ブラシ、手鏡、櫛──そして何故かムダ様のブロマイド。


 意識は覚醒しているが、出たくない。布団の結界が強すぎる。

 狸寝入りを決め込んでいると、ペタペタと小さな足音が近づいてきた。


「……なんか色々増えてる!?」

 エストの声だ。


「……Zzz……ムダ様……Zzz」

 私はとっさに寝たふりをした。


「ムダ様って誰!?」


「……推し……Zzz」


「寝ながら会話できるの!?」

 エストは一歩近づいて、そっと私の寝顔を覗き込んだ気配がした。


「……どこにも、いかないでね……お姉ちゃん」

 ポツリと落ちた言葉は、昨日よりもずっと幼くて、ずっと必死だった。


 胸がキュッとなる。

 ……そんなこと言われたら、起きづらいじゃんか。


(やっと来てくれたんだ……)


 エストの心の声が聞こえた気がした。

 私はたまらず、布団をもぞもぞと動かして、むくりと起きた。


「……なんで泣いてんの? え、私また死んだ!?」


「ち、違うのっ!」

 エストが飛び上がった。


「まさか私の魂を素材にして新モンスター錬成?」


「しない!!」


「レア素材として高額取引?」


「売らない!!」


「じゃあ何に使うの!?」


「使わないって言ってるでしょ!! お姉ちゃんは……私の“お姉ちゃん”なんだから! ずっと! ずっと一緒なんだよ!!」


 叫んだ瞬間、エストの耳がほんのり赤く染まった。


「……うん、もうちょい寝るわ」


「今の流れで!?」


 私は即座に布団に潜る。背中越しに小さな声で呟く。


「……まぁ……いてやってもいいけど……エスト様が寂しがると面倒だし……」


「お姉ちゃん、ツノすごいピンクだよ?」


「見えてないから!! 背中向けてるから!!」


「でも見えたよ? めっちゃピンク」


「……寝る」

 布団にぐるぐる巻きになった。


「照れてるのかわいい……」


「……聞こえてる……Zzz」


「寝てないじゃん!?」


「……スー……ピィ……Zzz……」


「それ寝息じゃない!! 鼻笛!!」


「……Zzz」


「ほんとに寝た!?」


 エストは呆れながらも、布団の上からそっと手を乗せてきた。


「……ありがとう。お姉ちゃん」


「……Zzz……どういたしまして……世界……Zzz……征服……」


「寝言で野望!?」


 *


《サクラはこの後、竜の王『竜王』と戦うことになる。

 ──世界征服は、まだ始まったばかり。》


 だがその前に、深刻な問題が発覚する──。


(つづく)


◇◇◇


──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──


『誰かを守る? その決意は素晴らしい。で、焼肉食ったか?』


解説:

守るには覚悟がいる。

覚悟には体力がいる。

体力には肉がいる。

つまり守るなら焼肉だ。

カルビを噛め。ハラミを焼け。ロースを信じろ。

ちなみに俺は18の時、焼肉食べ放題で遠慮した。

今でも夢に出る。カルビが。

「もっと食えばよかった」って言ってる。

だからお前は食え。

誰かを守りたいなら、まず焼肉だ。

未練は叫べ。カルビが呼んでる。

以上だ。寝る。

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