表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の姉、はじめました。 ──〈魔王がポンコツだから私がやる。〉Re:Novel Edition  作者: さくらんぼん
第04章:【サクラ】ポンコツ魔王軍(2名・Lv1)結成!
11/27

#桜005:魔王軍始動!(ただしLv.1)──勇者ハニトラ提案会議(即詰み)──

 世界征服を宣言した私は、早速デスクの前に正座していた。


 魔王の部下として、提案書を出すのだ。

 社会人経験の見せどころである。

 

 「部下」を演じるため、まずは深く一礼。

 エスト様は魔王様。敬語、礼儀、儀式、大事。


「エスト様、提案がございます」


 ぺこりと頭を下げると、玉座代わりの大きな椅子に座っていたエストが顔を上げた。


「うん? なぁに?」


 読んでいた本──【よいこの魔法辞典】──をぱたんと閉じて、紅い瞳をこちらに向けて微笑む。


 よし、今だ。


「まずは、勇者に奇襲を仕掛けて潰します」


 私は最高の笑顔をエスト様に向けた。


「ん?……えッ……?」


 エスト様の目が、ぽかんと見開かれる。

 戸惑いが丸見えだ。

 所詮は小娘。

 この発想は無かったのであろう。

 知らんけど。


 説明を続ける。


「勇者が強くなる前に摘む。脅威になる前に刈り取る」


 私は拳を握った。


「殺られる前に殺る! つき進みましょう……冥府魔道を」


 再びニッコリ笑って、グッと親指を立てる。


 勝ち逃げ、先手必勝。それが私の正義。


 勝てば官軍、負ければ賊軍。

 正義は歴史が決める。


 だから弱いうちに潰すッ!!!


「話を戻すと、『正義とは最初に殴った方に宿る!』──グレート・ムダ様の名言です」


 私はゆっくりと頷き、拳を握りしめた。


 沈黙。


「ムダ様って!?……ち、ちょっと待って!」


 エストがわたわたと手を振る。


 無視。


「さて、勇者の野郎への奇襲の件ですが、説明しますね」


「え? え? う、うん……?」


 きょとんとするエストを横目に、私は話を続けた。


「──勇者を潰す気満々だっただろって思いますよね? その通りです。が、惜しいんです」


「えっ?」


 私は拳をぎゅっと握りしめ、エストの目を真っ直ぐに見据える。


「……男の脳は“乳・尻・太もも”でできてる。ハニートラップで勇者を籠絡──これしかない」


 エストは腕を組んで、首をこてんと傾げた。


「う、うん……?」


 沈黙。


 エストの目が、うっすら引きつっていた気がするが知らん。


 私は意気揚々と胸を張り、ポーズを決める。

 もちろん筋肉もアピールだ。


「さぁ! サクラさん式ハニートラップよ! いざ参る!!」


 腰をひねり、片足を出し、謎の誘惑アピールポーズ。

 ※本人談:グラビアポーズ。客観的事実:ほぼマッスルポーズ。


「お、お姉ちゃん……そのポーズ、全く効果ないよ……」


 エストが困惑顔でつぶやく。


「舐めるな! 小娘がッ!! この私の肉体美に不可能は無い!」


 私は優雅にポーズを維持する。肩、上腕、腹筋、全部見せていけ。


「気分は……グラビアアイドル」


《天の声:違う、筋肉だ。》


「っさい!!」


「そ、それ本当に大丈夫? だれも騙せな──」


「この作戦しかないの! 世界征服はまず誘惑からだ!!」


 私は必死にポーズを続ける。エストはしばらく黙ったまま、じーっと私の「誘惑」を見つめていた。


「ねえお姉ちゃん、そもそも“勇者”ってどこにいるの?」


「…………」


 無言で誘惑アピールポーズ維持。


 ──ブンッ!


 背後で、魔法冷蔵庫が元気よく稼働音を鳴らした。


「だってここ、ダンジョン最深部だし、私たちしかいないよ?」


「………………」


 まだポーズ維持。


 ──チンッ!


 今度は魔法レンジが完成を告げる。


「まず勇者探そうよ?」


「………………」


 まだポーズ維持。


 ──ピーピー、と魔法洗濯機が洗濯終了のお知らせ。


「あと、勇者は男とは限らないよね?」


「………………!?」


 誘惑アピールポーズのまま、肩だけピクッと揺れた。


 遠くでピーポーピーポー、ウーウー、と正体不明のサイレン音まで聞こえてくる。何だここ本当に最深部か。


「勇者が男って決めつけるの、時代的にどうなの? 配慮の時代だよ?」


「………………。」


 私は、ゆっくりとポーズを解除した。


 遠くでブーン! スタタン! と、新聞配達じみた音がした。※何かは不明。


「あと、“乳・尻・太もも”の全部ない人がハニトラするのって、たぶん詐欺だよ? 筋肉で釣れるのはベヒーモスじゃない?」


 ぐさぁ……。


「……やめて……今、心が砕けそうだから……」


 虚ろな目でうつむく。完全沈黙。


 ……


 そして、エストはビクビクしながら話題を切り替えた。


「あ、あのね……まずは地上に出て、魔王軍を作ろうよ。そしたら世界征服!」


(は?)


「魔王軍を作ろう? え? 今はエスト様と私だけなのですか?」


「うん」


(んー……? は? ぼっち? 怖い人いないの? よし敬語やめよ)


「なんだよー! 怖いモンスター軍団率いてたり、ドラゴンとか配下に居たらどうしよう?って思ってたわー!」


 ふんぞり返る私。


「いきなりのタメ語きた!?」


 エストが目を丸くする。


 私はエストをじっと見つめた。


「なぁ? お茶が飲みたい」


「パシリ!? ……そ、それで……お姉ちゃんも私もレベル1だからね?」


「は?」


 エストを二度見する。


(は?)


「……今なんて?」


「ダンジョンの外に出るためにレベル上げしないと……」


 エストは焦ったようにウィンクしながら、目の前で斜めピース。

 ──次の瞬間、自分の目に指がズブッと刺さった。


「あいた!?」


「動揺してるのかな?」


 沈黙。


(んー?)


「ん”? レベル1? レベル上げ?」


 私は首を傾げる。


「う、うん……」


「なんで? 魔王って最強じゃないの?」


「ち、違うの……」


 困ったように首を振るエスト。


「魔王なのに?」


「なのに……」


「えぇ……?」


 告げられた超絶メンドくさい事実。


「あ、あれ? ここ、ダンジョンの最深部だよね? モンスターたくさん?」


「うん! 最深部! モンスターたくさん!」


(……。)


「そ、それって……詰んでね……?」


「詰め将棋の初手だよ! 頑張ろうね! お姉ちゃん」


 遠くで、モンスターの叫び声が響いた。


 私たちの視線が絡まる。


「勇者奇襲作戦中止。魔王軍、解散」


 私はそう宣言すると、そのまま布団にダイブした。


「結成5分で!?」


「週休ゼロ日、有給ナシ、残業代ナシ……ブラックすぎ……」


 布団を頭までズボッとかぶる。


「さて、魔王軍2名・レベル1、ダンジョン最深部で出口不明、世界征服計画、はじまります」


「聞こえない聞こえない……」


 布団ごとゴロリと転がる。


「ちなみに外のモンスター、最低でもレベル100くらいあるよ」


「ひゃ……?」


 布団の隙間から、半目でエストを睨む。


「大きいクマのモンスターとかベヒーモスが歩いてるよ」


 ──ズシン、ズシン。


 遠くで、巨大な何かが歩く鈍い音が響いた。


「え?……は?」


 私は再び、布団を深くかぶり直した。


 レベル1。ダンジョン最深部。外はレベル100。


 詰んだ。これで世界征服、終了。


(つづく)


 ──その時。


 ココアの匂いが、ふわっと増した。


(……ん?)


 どこか遠くで、聞き覚えのある笑い声と悲鳴が重なった気がする。


 カエデとツバキ?


(……いや、まさか。ここ異世界だし)


 ……でも、あの二人ならやりかねない。


(……また何か始まってんな、絶対)



(つづく)


◇◇◇


──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──


『正義とは、最初に殴った方に宿る。

 その後、炎上したら誇れ。それは正義が世に届いた証だ。

 あと、ネットはしばらく見るな。』


解説:

世の中の正義は、いつだって"最初に動いた奴"が決める。

拳でも、言葉でも、先に放った方が世界を動かす。


「話し合おう」は理想だ。

だがムダ様曰く、それはもう"防御姿勢"だ。

正義は譲り合いではなく、奪い合い。


だから迷うな。痛くても殴れ。

その一撃が、自分の信じた正義の形になる。


そして"炎上"とは、世界がその衝撃を受け取った証。

届いたからこそ、燃える。

火がつくのは、誰かの中に火薬──感情や恐れ──があったからだ。


ムダ様はそれを称賛として受け取る。

「炎上した? なら効いたな。正義が世に響いた証拠だ」

──そして彼は、少し間を置いてこう付け加える。


『……あと、ネットはしばらく見るな』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ