雨のおかげ
石田と出会ってから一週間。
朝課外の期間が終わっても、俺と光は毎日会っていた。アイスを食べたり、一緒に図書館に行ったり。そんな些細なことが楽しくて、苦手だった朝も次第に楽しみになっていた。
「たいよう、靴ここでいい?」
そんな今日、光が俺の家に居る。
事態は三十分前に遡る。日によって何時ぐらいに会うかを連絡して決めていて、今日は午後に会うことになっていた。……それがいけなかった。朝にーちゃんがよく見ている天気予報を一緒に見ておけば良かった。
「今日雨降るらしいよ」
光が言い出した時には小雨が降りかかっていて、このぐらいの雨ならいいかと言おうとしたその時、雨粒が段々と大きくなっていて、帰るしかない状況が作り出されてしまった。曇りだからいいやと思って日傘を持って行かなかったので、雨を遮る物は無い。
「光、どうする?」
見つめあう。暗い、という表現が正しいのかが分からない。やけに寂しそうな、捨てられた子犬みたいな光の表情を見てしまったらもう、
「光、走るぞ」
「え?」
光の返答を聞く前に手を取って雨の中走り出した。一瞬見えた光の顔はさっきと違って期待に満ち溢れていて、何故かすごく嬉しかった。水溜まりを避ける余裕など無く、頭から靴までびちゃびちゃに濡らしながら一生懸命走った。
「ねぇこれどこまで行くの?」
「え、っと俺ん家!」
「家!?」
冷たい身体と冷たい手の感触をよく覚えている。困惑しながらも光は俺の手をしっかりと握っていた。アパートの下に着いたら、髪の毛や服の水分を絞る。家に入る前にできる限りの水滴を落として、部屋に入る。ガチャリ、と無機質な金属の音を鳴らし、ドアを開ける。玄関を見ると靴が全然無くて、二人は出かけていることに少し安心した。
ふりかえり、光の方を見る。水も滴るいい男というのか、雨に濡れた光はいつもと少し違うように見えた。
「…………入れよ」
「…うん、お邪魔します」
そして今に戻る。とりあえず先に入って、一番でかいバスタオルを持っていく。玄関に戻ると、靴を脱いで立っている光がいて、表情がやけに暗かったのでバスタオルを頭にかけてわしゃわしゃと乱雑に髪を拭いてやる。長い前髪に隠れていた光の瞳が、いつもより近くに見える。
目があう。光が俺の手を止める。タオルが落ちる。そして、冷たくてちょっとだけ暖かいものに包まれる。光が俺を抱きしめている。耳元で呼吸の音が聞こえる。俺はゆっくりと抱きしめかえす。少しでも、光の心を溶かせたらと願いを込めながら、抱きしめる。じわりと首元に熱が垂れる。俺は気づかないふりをする。
しばらく、その場から動くことができなかった。




