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痛み

音が出ないように、神経を研ぎ澄ませながら扉を開ける。玄関に父親に靴があった瞬間、俺は全てを諦める。リビングに行くと、父親が母さんのそばに居て、言葉を発そうと思った時には、もう既に殴られていて、反動で壁に強く頭を打つ。立ち上がる前に殴られ続ける。もう、この痛みにも慣れてしまった。襟を掴めれ強引に立たせられる。

「おまえはさぁ、大した長所も無いカスなんだから俺に殴られとけばいいんだよ!」

「……はい」

ぎろりと睨まれる。何が気に触ったのかが分からない。

「なんだ?その言い方は、文句でもあんのか?」

「…ない、です」

髪を掴まれる。太陽に乾かしてもらった、大事な髪の毛。撫でてもらって嬉しかったのに、すぐに最悪な記憶で上塗りされる。

「そうだよなぁ。おまえが千代子の代わりに殴られるって言ったんだからなぁ」

そう言い終わると、また殴られる。今日は煙草を吸っていなさそうで安心した。背中は、誰かに見せられるようなものでは無くなっている。





どれだけの時間が経ったかがわからない。時間の感覚が無い。殴ったり、罵倒したりして満足したら家から出ていき、他の女の元へ行く。なんて汚くて気持ち悪い男なんだろう。心から軽蔑する。でも、俺にもその血が流れているから…………

痛む身体に鞭を打ちながら立ち上がる。よろけながら母さんの元に行く。

「…母さん、大丈夫?」

「……ひかる、ごめんね、母さんが父さんの機嫌を悪くしたばっかりに…」

泣いて縋り付いてくる。いつもそうだ。母さんは悪く無いのに自分を責める。

「母さん、俺は大丈夫だよ。それより、父さんが居ない間に寝よう。ほらベッドに」

こうやって母さんを持ち上げる度に、体重が減っているのを感じる。

「ひかる…ごめんね…」

そう言っている母さんを見ると、自分はまだマシだと感じる。泣き疲れたのか、寝息が近くで聞こえてくる。目元が赤くなっていない母さんを最後に見たのはいつだろう。

暗い部屋の中で、カバンからスマホを取り出し、ロック画面で時刻を確認する。

時刻は午前一時。痛みで寝れる気がしない。

シャツを脱ぎ、血と汗でべとべとの身体を見る。無力感に襲われる前にシャワーを浴び、髪や身体を洗う。肌がヒリヒリする。脱衣所で再度自分の身体を見つめる。父親はいつも、服で隠れるか隠れないかのギリギリを殴る。そういうところカスだと思う。

身体を拭き、部屋着に着替える。髪を乾かし、外に出る。

ふと空を見上げると、あの日のことを思い出す。



太陽と初めて出会った日のことを。





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