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本音

ほんとは、ずっと苦しかった。友達とも遊びに行ってみたかった。放課後、寄り道をしながら帰ってみたかった。父親がいなくて寂しかった。母さんが死んで悲しかった。でも、言葉にしてしまったら、だめになっちゃう気がして、言えなかった。

「ねぇ、たいよう」

光の手が、俺の頬を撫でる。鼻の奥がつんと痛み、瞳に熱が籠る。

「俺の前まで無理しないでよ」

優しく、にっこりと微笑まれたらもう、心が溶かされて気体になってしまいそうで。でも、抗う術なんて無い。

「…う、っ…ぇ、っ……ぅ」

戸惑っている光が薄い水の膜越しに見える。拭っても拭ってもとめどなく流れてきて、抑えることができない。ごめんなさい、こんな人間で。

温もりを感じる。光に抱きしめられる。昔泣いた時に、母さんが俺を抱きしめてくれたのを思い出してまた水滴がこぼれ落ちる。貸した服がじわじわと濡れていく。脳がだめになって何も考えられない。


光はずっと、ずっと抱きしめてくれた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「落ち着いた?」

「…おちついた」

涙が収まったら途端に羞恥心に襲われて、それを隠すようにキッチンに逃げる。もうとっくに冷えてしまった緑茶をコップに注いで、光の元に持っていき手渡す。光はソファに座って待っていて、ありがとう、と言った後お茶を飲み始めた。

「ん、おいしいねこれ」

「冷えたけどね…」

コップを机に置いて、光の方を向く。空が段々と暗くなり始めている。

「ひかる、ありがとう」

光は俺の顔を見て、笑った。

「あ!ごめん、家帰る?」

「あぁ?うーん。そうか、そう、うん…」

先程までバッチリと合っていた目が合わなくなってきた。目を逸らされている。きっと帰りたくないのだろう。でももうじき日が完全に落ちて、帰るのが危ない時間になってくる。服も乾かし終わっているだろう。

「…帰りたくないんだろ」

「太陽を一人にするの不安だし…せっかくこれたのに…」

わしゃわしゃと光の頭を撫でる。

「またいつでも来いよ、うちはいつでも大歓迎だから」

「………うん」

そんなこんなで、帰るのを渋っていた光だが、母が心配だということで帰ることになった。やっぱり光は、子犬に似ている。着替え終わった後、玄関で靴を履く。

「じゃ、今日はありがとう。また明日な」

「…また明日」

光の背中を、俺は見えなくなるまでずっと見ていた。


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