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出会い

歩く。ただひたすらに、歩く。

きっちり着こなす白のカッターシャツと対比するような真っ青の靴。微かな反抗と捉えるべきか、個性と捉えるべきか。日傘の影が顔を隠す。

風が髪を揺らす。耳障りの良い音楽を絡まったイヤホンで聴きながら、慣れた手つきで髪をかきあげる。

目的の場所に着く。

ポケットから飴を取り出し、一つ口の中に入れる。爽やかなレモン味を転がしながら、ずっと前に使われなくなった線路の上で立ち止まる。

金髪の青年が近くでうずくまっているのに気づく。青色のネクタイが特徴的な制服。どこかで見たことがあるような…隣町の中学か、高校かは分からないが、なんだか懐かしい気持ちに襲われる。普段は知らない人に不用意に話しかけることはないが、この時だけは、何故か身体が動いていた。

日傘を青年の方に傾け、声をかける。

「大丈夫ですか?暑くないですか?」

「…」

返事はない。ついてないな。青年は放っておいて、今日は帰ろう。家の方向に歩き出そうとしたその時、置き物のように動かなかった男が言葉を発した。

「………の」

「は」

「……のみものもってませんか?」

目が合う。

太陽の光に照らされてキラキラと輝く淡い緑色の瞳に吸い込まれそうになる。こんなところでうずくまっているのだから、体調が悪いのかもしれない。無愛想に聞き返したことに罪悪感を覚える。

青年を見つめる。

綺麗な金髪に淡い瞳、熱を持っているように見える赤い頬、何束か汗で額にへばりついた目にかかる程度の前髪。成人しているようにも、学生にも、幼くも見える。どこか見覚えのあるような、ないような。

そんなことを考えながらリュックサックの中から水筒を出し、青年に手渡す。

「飲みかけでよければ」

嫌なら自販機で、と言おうとした声を青年は遮る。

「いや、あのぜひ、ありがとうございます…」

ごく、ごくという擬音語が似合うぐらいの勢いで飲み始める。清涼飲料水のcmでもできるんじゃないか。

初めて初対面の人と相合傘したな。てか今更だけどやばい人だったらどうしよう。そんな呑気なことを考えながら空を眺める。他の季節よりも陰影が強い夏の季節が、俺は好きだ。大きな入道雲も、うるさい蝉の声も、一つでも欠けていたらまた違ったものとなるのだろう。

やがて満足のいくまで飲めたのか、青年は照れくささを隠しながらお礼を述べた後、丁寧に水筒を手渡す。

一時、無言の時間が流れる。

先に口を開いたのは青年の方だった。

「…あのっ、名前!…聞いてもいいですか?」

風が吹き、髪を揺らす。青年の額が露わになる。傷のようなものが一瞬見える。それが見ていいものだったのかは分からない。見て見ぬふりをして答える。

「林田太陽、です」

「あ、俺は、道野光…です」

「てか何歳ですか?同い年ぐらいかな」

「今年で17で、今は16です」

「え、同じじゃん」

「まじ?」

心の距離がぐっと近づく感覚を感じた。

「なんて呼べばいい?」

元々赤かった頬を更に赤らめ、少し笑いながらこちらの方を見てくる。機嫌でも伺っているのだろうか。心配しなくてもちょっとやそっとじゃあ怒ったり喚いたりする人間じゃないから安心してほしい。道野は恐る恐ると言った具合に言葉を発する。

「…ごめん、普通に太陽って呼ぶつもりだった。すごい、良い名前だと思ったから」

「じゃあ…光って呼ぼうかな」

同級生とは違う、何故だか話しやすい人。林田の中で道野はもう既にそういう立ち位置になっていた。

「………たいよう、あのさ」

見つめあう。この世界に二人しか存在していないように、ゆっくりとした時間が流れる。

「この時計、持っててくれない?また会えるように、お守りとして」

そう言いながら光は右手首につけていた腕時計を外し、こちらに差し出してくる。

「お守りって……俺よくここいるから絶対会えるよ。また」

動揺、不安、歓喜、切望。どの感情もそぐわないような表情。もっと話してみたいとは思うが生憎陽が落ちてきたので時間がない。貸してもらうのならばこちらも貸し出そう。スマホに繋ぎっぱなしだった黒色の有線イヤホンを外し、光の手にあった青色と交換しようとすると、手を振り払われる。

「……ごめん、返せないかもしれないから。時計だけ受け取って」

そんなこと言われたってこちらも受け取るだけじゃ申し訳ないので、ごめんと心の中で思いなら無理矢理時計と交換する。

「あ!なんで!?」

「壊れてもいいよ、それ。受け取ってよ」

「いや、でも」

「じゃ!俺、夜ご飯作らなきゃいけないから」

「え、まってこれ、イヤホン!」

「だから!いーって!持っててよ」

俺が意地でも受け取らせようとすることが分かったのか、数秒固まった後にじゃあ…と言ってポケットの中にイヤホンを入れる光を見て小さな笑みが溢れる。

「じゃあ、帰るから」

「う、ん。じゃあ」

別々の方向に歩き出し始める。別れる時の、寂しそうな顔が忘れられなくて、立ち止まる。

「ひかる!」

振り返る。ぼやけて顔が見えない。

「また明日!」

返事は聞こえない。その代わりに小さく手を振る光の姿が遠くに見えた。



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