3 最後の梅干し
剣を引き継ぎ当代と次の代が一緒に茶を飲むまでがしきたりだ。
うちは早くに母を亡くしているので俺と親父の二人暮らしだ。親父がお茶を入れてくれる。
ただこの妙なしきたりには変な決まりがある。次期宗家には壺の中にある梅干しを1つ食べなくてはならない。
何百年物かもわからないが、塩がついてシワシワでなんだかよく分からない物だ。
だかデカい南高梅ぐらいある・・・
何百年前のビンテージ梅干しに興味があるので、早速頂く事にし口に放り込んだ。
「うぇ! なにこれマズイ!」
乾燥してカリカリしているのかと思いきや、グニャリとした食感で鼻に抜ける変なきついハーブ香だ。とりあえずお茶で飲み込んだ。
「それ食ったあとは1週間寝込むからな」
「はぁ?なにそれなんで!聞いて無いんだけど!こんなの代々息子に食わせるなよ!」
「大丈夫だ、今回で在庫ゼロだから、ザッツオールだ」
「俺の息子からセーフかよ!」
「小さいのから食べて行く決まりだから、お前のが過去1番デカいぞ!誇れ!」
「そんな事誇れねぇよ!」
その後、高熱が出て4週間寝込んだ。
(1週間って言ったじゃんか!)
◾️◾️◾️◾️
熱が下がったので大学に行くことにする。
病み上がりなのでさすがに電車だ。
家を出ると志乃に合った。
志乃も大学に行く所だったので一緒に駅に向かう。
志乃は俺を泊まり込みで毎日、看病してくれていた。
「もう大丈夫なの?」
「看病してくれてありがとう、マジで死ぬかと思ったわ!」
「めちゃうーうー唸ってたもんね」
「まぁ、今はとりあえず大丈夫かな、まだ全身関節が凄え痛いけどね。すっげえ痛え!」
「成長痛じゃない?」
「・・・・お前、絶対バカにしてるだろ?」
「間違い無い大きくなってるわよ。ドクターが言うんだから間違いなく成長痛ね」
「まだ医者じゃないじゃんか!」
「モグリの医者は免許なんて要らないのよ」
「ブラッ○・ジャックかよ・・・まぁ寝込んでたのに痩せて無いけどな。ちょっと服はキツいかな?結構むくんでるのかも・・・」
午前の心理学の講義を終えた学食に行く。
幼馴染3人は席についていた。
志乃はあんドーナツとフルーツサンド、絵里と神は珍しく蕎麦を食べている。薬味のネギが嫌いらしく二人共使っていない。
俺は醤油ラーメンを持って志乃の隣に座る。
「成長したか?」
「大きくなったみたい!」
(お前らもか・・・)
「むくんでるんだよ!」
二人からネギを取り上げラーメンに入れ食べる。
隣の席のグループが連続殺人の話をしている。
そう言えば寝込んでいて3週間ニュースを見ていない。
「そう言えばあの通り魔首切り犯人捕まった?」
「まだじゃない。なんか被害者増えてるらしいよ。茅ヶ崎にも出ているとかニュースで言ってた」
「移動してるのかな?」
「さあ?江の島も茅ヶ崎もエリア的に同じじゃない?」
「まぁそうだね」
午後の公害論・自然学概論の講義を終え帰宅する。
家に帰ると親父からの手紙が置いてあり、1週間ほど神奈川と山梨に出張する。飯は隣で作ってもらえ、食費は志乃に渡してある。とメモがあった。
風呂掃除を終えるとメールの着信音がする。
スマホを見ると志乃から夕飯のお誘いだった。
「唐揚げカレーだよ!ポテサラもつけちゃうよ!1時間後集合だよ!」
その文字を見ただけで腹が鳴る。
「ありがとう」スタンプを返した。
「そっちと、ウチの親は旅行で居ないから、二人だけだからいっぱい食べてね!」
「もちろん」のスタンプを返した。
食糧庫の扉を開け、親父の作ったラッキョウ漬けを小分けした。この小瓶を持って行く事にした。
隣の家からカレーの香りが漂ってきた。
(めちゃ腹減った・・・)