2 四寒流九代目の審査
リビングに行くと親父が待っていた。
「明、今日悪いがこれからすぐに道場に良いか?」
「いいけど?」
「四寒流九代の審査だ」
「突然だね!」
「悪いな急で」
うちは500年以上も続く家芸武術の四寒流が伝承されている。
四肢を失って身体は冷たくなっていこうとも決して屈しない。と言う意味らしい。
俺で九代になる。ウチの家系は長寿が多いため流派の年数の割に代がいっていない。
それを受け継ぐ次期宗家の審査だ。
試験をいつ受けるかは当代の父・義明の勝手による。
(ただ5年ぐらい早い気がする)
「わかった、俺の兼正は持ってくる?」
「いや、美濃の加藤寿命でやってくれ」
「拵は?肥後?」
「98式だ」
「98式かぁー、見るのは良いんだけど使うのは苦手なんだよなぁ」
「あっ、ストッパーは無いからな」
服のまま帯だけ巻いて靴下を脱ぎ親父と道場に行く。礼をして道場に入り神前に礼をする。
98式を受け取り柄を左手に鞘を右手に掲げ刀礼を行う。
帯に鞘を差し、立っている畳表で左右袈裟・水平・左右斬り上げ。
土壇斬り
刀を油に漬けた布で拭う。
次は形試斬。
形を演武しながら斬る。
一ノ形・白ノ闇・・・前後の技
ニノ形・赤気.・・・左右の技
三ノ形・白気・・・突き技
四ノ形・六花・・・近間の技
五ノ形・寒風・・・抜け技
六ノ形・氷結・・・巻き技
七ノ形・吹雪・・・複数の殲滅・突撃技
八ノ形・雪白神楽・・・ニ刀流複数
殲滅技
奥義・天之冬衣神
抜刀術
暗器・体術
棒術
刀を油に漬けた布で拭い鞘に入れ刀礼をする。
神前に礼をし下がる。
2時間程で終わった。
「うん、明いいぞ。合格だな」
「ありがとうございました」
「俺の時よりかなり良い」
ビニール手袋して斬った畳表を集め、ビニール袋に入れて行く。
床を掃除し終わると親父の部屋に行った。
刀箪笥から藍染の刀袋を出し俺に渡す。
「これを受け取って一緒にお茶飲めば九代目だ」
親父から受け取り刀袋から出す。
親父が目釘抜きを置いてくれた。
刀礼をして鞘の鐺を左斜め前に置き鯉口を切る。
ヒケ傷が付かないように急がず止まらず刀身を鞘から静に抜き放つ。
目釘を抜き刀身を立て柄を持った左手を右手で上から叩く。
ナカゴを柄から抜きハバキをも外す。
ベンジンを浸したティッシュペーパーで古い油を除る。
全体を見る。
寛文新刀と言う事なのだが?反りが意外と深い。
近江大掾藤原兼廣。いつ頃からか合間家に伝わったこの剣を伝承する事で四寒流当代となる。
それにしても美しい。刀身に天の川が光っている。
この剣の異名は「天河」まさに名の如くだ。
拵は肥後で柄は短め柄糸は黒の黒鮫。
鞘は黒だが渦のような刻みが鞘全体にあり、とても帯の捌きが良い。
鐺・柄頭・縁は金で六花の肥後象嵌が施されている。
鍔も小さ目の六花鍔だ。目貫は純銀の鏑矢になっている。鍔以外は現代金具を使っている。
コレは代々、当代の宗家が自分に合わせ作る事になっているからだ。親父の好みだが俺と親父の好みは同じなのでかなり使いやすく、とくに変える必要性は感じられない。