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さようなら

本格的なバトルシーンなどは、次話くらいからぼちぼち入っていきます。

主人公が強くなるのは、更にもう少しあとです。

「あ、あれ?」

 気がつくと、エリュは現実に戻ってきていた。


 眼の前には柵の上に腰を掛け、静かに本を読むレーンがいた。彼女はエリュが動き出したのを見て、音も立てずに本を閉じエリュの方へ視線を向けた。


「おかえり。遅かったね。魂の深層まで行ってたの?」

「深層って?」

「う~ん。まぁ要するに自分の背丈くらいの大きな炎を見たかって話」

「俺が見たのは山みたいな大きさの炎だったけど、一応見たよ。あそこが魂の深層?」

「山みたいに大きい?」


 レーンは細めた目でエリュを見るが、しばらくして「そう言えば記憶持ちだったね」と言って柵から降りてエリュの方に体を向けた。


「炎の大きさには違いがあるみたいだけど、エリュが見たのが深層で間違いないよ」

「……魂の深層ってなんなの?」

「そうだね……『魂の炎』って呼ばれるエリュの本質が保存された最奥の場所だよ。魔力はそこから溢れる余波だね。目を閉じるとたまに遠くに炎みたいな明かりが見えない? あれは意識の表層から『魂の炎』を見ているの」


 そう言ってレーンは苦笑する。


「まぁ普通、魔術を極めた人が極稀に入れる場所なんだけどね。普段は意識とか肉体が邪魔して簡単には入れない場所だからね。でもすごいよ。魔法使いならだれもが一度は入りたいと思う場所だから」

「なにかメリットがあるの?」


「あるよ。魂の深層に足を踏み込んだものは、魔術の神髄を理解する。って言われてる。深層に入るには、肉体と魂の完全な同化が必要だから当然と言えばそうなんだけどね」

「神髄?」


 エリュは首を捻る。エリュは間違いなく魂の深層に足を踏み込んだ。

 だが、神髄を理解したかと言われたらそんな事は無い。未だにエリュは魔法について何も知らない。


(もしかして、炎が途中で止まったせい?)

「う~ん。神髄ね~」

「分からないの?」

「うん。ただのうわさじゃない?」


 レーンはそれを聞いて首を傾げた。

「昨日のことがあったから、肉体と魂に変調があるのかもね。何かの間違いで入っちゃったとか?」

「あ~。鏡に向かって《君は私》って延々と唱えてれば、そりゃあおかしくなるかもね。他に魂の深層にいく方法はないの?」

「一時的に肉体を捨てて、魂だけの状態になってから深層に向かうって強引な方法もあるよ。そっちは死ぬリスクがあるから辞めたほうが良いけど」


 どうやら魂の深層へ行くというのは生半可なことではないようだ。


「レーンも深層に行ったことあるの?」

「あるよ。割と最近ね」

「その時見た魂の大きさが背丈くらいだったということか」


「そうだね。エリュの方は記憶持ちだし、特別だから魂の炎が大きいのかも。まぁ、話を戻して、深層に行けたってことは、魔法も使えるんじゃない? 元々、魂の形を把握してくれれば目的は達成できたんだよね」

「なるほど? じゃあ試してみる」


 エリュは場を仕切り直すように大きな咳ばらいをした。そして、数度深呼吸を繰り返す。


「いくよ。炎よ灯れ《点火(ファイアー)》」

 呪文を唱えた瞬間、魂の炎が強く光を放った。同時に魂から溢れた魔力が肉体に流れ込み、体から発された魔力が空気中の魔素に力を与え、魔法が発現する。

 何度も失敗したその魔法は、あっけなく成功した。


「や、やった! 成功したっ!」

 エリュが自慢げに灯った火をレーンに見せる。初めての魔法にしては、発現した火の大きさはニ十センチ程度と大きかった。

 それを見て、レーンはぱちぱちと拍手をした。


「よかったじゃん」

「うん! 他にも魔法教えてよ」


 エリュの言葉にレーンは首を横に振る。

「魔法は使えるようになったでしょ。もう、一人でも大丈夫。あとは独学で頑張ったら?」


「そ、そうかな? できれば教えて欲しいんだけど」

「エリュなら一人でできるよ。がんばりなよ」

「……分かった。じゃあ、明日も会いに来ていい? もう魔法を教えてとは言わないから」

「…………」


 返事はない。

 だが本に視線を戻したわけではない。真っすぐにエリュを見ている。

 何か迷っているようで、彼女は何度か口をパクパクとさせる。それを何度な繰り返し、彼女は静かに立ち上がった。


「さようなら。エリュ」

 レーンは寂しげにそれだけ言うと、背を向けてどこかへ去っていった。


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