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魂の深層

『炎よ灯れ《点火(ファイアー)》』

………………。

何も──起きなかった。


          ◆ ◇ ◆ ◇

「ふ~ん。魔法、使えなかったんだ」

 レーンは興味なさそうに呟いた。


「うん。なんで使えないんだろ? 魔力だってIの9もあるのに」

 結局、エリュは一時間に及んで初級魔法を発動しようとした。だが、その奮闘は無駄に終わった。火どころか、火種すら出てこなかった。


 どうやっても魔法が出ずに困り果てていたところで、家の外にレーンの姿を見つけたエリュは、彼女に今朝起きたことを話して聞かせた。

 しかし、レーンはエリュが魔法を使えようが使えまいが興味がないらしい。

 先程から、私に近づくな、という目でエリュのことを見ている。


 一方でエリュは彼女のそんな視線を無視して話を続ける。

「でもさ、魔力がI9になったのすごくない?」


エリュの声を聞いたレーンは面倒くさそうに頭をもたげた。

「別に……私、Eランクだし。数字にすると132だよ」

「……そうですか」


静かに肩を落したエリュは、小さくため息を吐いて再び手を前に突き出した。

「炎よ灯れ《点火(ファイアー)》、炎よ灯れ《点火(ファイアー)》、炎よ灯れ《点火(ファイアー)》」


 何度かそうやっていると、エリュを無視して本の世界へ戻っていたレーンが顔を上げた。


「なに? 昨日の鏡のやつ、まだ引きずってるの?」

「違うよっ! さっきも言ったけど魔法が出せないんだよ。魔力はあるんだから、使えてもいいはずなのに」


そう言うと、レーンは大きなため息を吐き出して、エリュの手に持った魔導書を静かに指さした。


「8ページ目。開いて」

「え?」

「いいから開いて」


 強い語気を浴びせられたエリュは8ページ目を開く。

するとレーンが再び口を開いた。


「魔法を使いこなすには自身の魂を知覚しなければならない。魔力の源を知覚しないと魔力があっても引き出せないの。エリュ、それやった?」

「……やってない」


 その記載は、本の端に小さく書かれている。大きな字に目を引かれて読んでいたエリュは、読み逃してしまったようだ。

 レーンは立ち上がると、柵に座っているエリュの前に立つ。


「じゃあ。目を閉じて」

「え?」

「良いから閉じなさい」


レーンに従ってエリュは目を閉じる。

「次、心を落ち着かせて」

「うん」

「喋らない!」


エリュはコクリと頷くと、深呼吸を三回繰り返した。脈が静かに落ち着いていき、エリュはリラックス状態に入り込む。


「次、魂を知覚して」

「って言われても……」

「じゃあ、心臓の中に飛び込むようなイメージ。あとはリラックス状態を維持して」


エリュはレーンの言ったことを素直に受け入れ、リラックスしながら心臓に意識を向けた。


「その状態で深く、深く意識を潜らせる。呼吸は止めたほうが良いよ。死が迫ると魂は強く反応するから」


レーンの指示を素直に受け入れた途端、エリュの意識は暗闇に閉ざされた。そしてどこまでも落ちていく。

目を覚ますと、エリュは真っ黒な空間にいた。

それは、女神と出会った空間にも似ていた。空には星が見え、地面はない。


「な、なんだ? ここ?」

エリュはその場で顎に手を当てて考え込む。しばらく考えて、一つの結論にたどり着いた。

「もしかして、息を止めたせいで死んだ⁉」


 驚きのあまり叫ぶように声を張り上げた。声は反響し、自分の声が幾重にも重なって聞こえてくる。そして、同時に背後で何かが動くような気配がした。

気配の方へエリュは静かにゆっくりと体を反転させる。

「……な、なんだこれ」


振り向いた先には、見上げるほど高く燃え広がる青い炎が灯っていた。それは、山のように大きく周囲を明るく照らしている。巨大な炎が近くにあるのに熱さは感じない。

「すごい……」


思わずエリュは巨大な炎へ近づいて炎に手を伸ばした。

その瞬間、巨大な炎はエリュの指先に燃え広がり、手首、肘、腕と広がっていく。


「わ、わっ!!」

 慌てて消そうと手を振るが、炎は消えずに全身に延焼した。

「し、死ぬ死ぬ!」


 地面を転がって火を消そうとジタバタする。だが、数秒経って燃えながらエリュは停止した。

「あれ……熱くない」


 むしろ強い親和性を感じた。そして、燃え広がった炎は少しずつ、エリュの左胸へと収束し吸い込まれていく。眼の前に燃え広がる巨大な炎もエリュの身体へと飛び火し、左胸へと吸収されていく。


まるで本来あるべき場所へ戻っていくような光景だった。

その瞬間、炎の正体をようやくエリュは理解する。


「そうか。これが……俺の魂なのか」

 それを理解した瞬間、エリュの胸に吸い込まれていた巨大な炎の動きが止まった。

「え……」


 時が止まったように空間は固定され、炎の糸も微動だにしない。まるで何者かが、強引に静止させたような光景だった。


次の瞬間──景色がブラックアウトした。


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