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戦闘後の癒やし

 そうしている内に、女神像は神殿の前の階段を大股で跨ぎ、エリュを掴んだ。

 そしてエリュは、三十メートル以上上空へと持ち持ち上げられてしまう。その状態で女神像は鳥居の方へと歩き、障壁の外へと手を突き出した。

 障壁の外は、ドラン大森林の遥か上空だ。


「……地面に、叩きつけられた終わり、か」

 エリュは女神像の手の中で弱弱しく呟く。

「まぁ、セレスとレーンをここまで、連れてこられた──だから、十分だよね。もう──」


 そこまで呟いた瞬間、女神像はエリュを握った手を大きく振り、地面に向かって勢いよく投げ飛ばした。

 急速に地面が接近する。

 エリュは諦めて目を閉じた。


 その瞬間──

「エリュっ!! 逃げてぇぇ!!」

 誰の声か分からないが、そんな声が聞こえた。


 同時に、エリュの心には諦めきれないという生への執着が湧き上がった。

 その瞬間、エリュを中心に世界が歪んだ。全身が粒子単位でバラバラになり、世界へ溶けてしまうような感覚がエリュを覆う。

「えっ、えっ?」


 すぐ側から困惑した様子の少女の声が聞こえる。それを聞いてエリュはゆっくりと目を覚ました。

「……あれ?」

 目を開くと、少し離れた場所で、何かを投げたような恰好で固まる女神像とエリュのすぐ側で口元を抑えるセレスの様子が見て取れた。


「え……どういう、こと?」

 頭が回らないエリュは、呟く。

 すると、セレスは口元に手を当てたまま呆然と口を開いた。

「て、転移魔法っ‼」


 その言葉を聞いて、エリュはあの絶体絶命の状況から生き延びた理由を理解した。

「そう、いえば。前に……一回だけ……」

 と、エリュが漏らした途端、セレスが悲鳴をあげる。

「な……ん、だよ?」


 朦朧とした意識でセレスの視線の先を追うと、エリュに向かって再び女神像が駆け出す姿が見て取れた。

 防衛対象であるはずのセレスが近くにいるというのに攻撃は止めるつもりはないようだ。それどころかセレスが近くにいることで、より一層エリュを危険視しているようで、表情からは使命感のようなものを見て取れる。


「セレス……俺の体にしがみ付いて」

「え、え? な、なんで?」

「いいから!」

 怒鳴ったエリュの姿を見て、セレスは素直に従う。


 エリュの胴体に恐る恐るしがみ付いた瞬間──エリュは先ほど発動したまま残っている混沌暗渦ダーク・ヴォイドに視線を向けた。


 効果対象が逃れ、吸引は止まっているが、未だにそこにある。そして、神殿の入り口と鳥居のちょうど中心にそれはある。


 女神像はそれに気がつかず混沌暗渦ダーク・ヴォイドの真上を通過した。

 その瞬間、残ったすべての魔力を絞り出す。

「っ──再起動!」

 その叫び声と同時に、再び強烈な引力がそこに生まれる。


 鳥居や地面は端から砕けてバラバラになっていく。そして混沌暗渦ダーク・ヴォイドの中へと飲まれていった。女神像も足元で魔法が発動した影響で、抵抗すらできずに穴の中へと吸い込まれる。


 再び這い上がろうとするが、砕けた広場の土台や鳥居の瓦礫が女神像を襲い──女神像は手を離した。

 次の瞬間、混沌暗渦ダーク・ヴォイドは停止し蒸発する。あとには何も残らず、神殿前の大きな広場は、かろうじて歩ける程度の足場だけが残った。

「お……わった」


 崩れ落ちるように倒れ込むエリュにセレスは慌てて手を差し伸べる。

「う、動かないで! ひどい状態だよっ」


『天にまします我らの神よ。この者を癒やす力を与えたまえ。傷を癒やし、心を清め、全ての苦しみを取り除き、この者に再び力と希望を授けたまえ。《大回復トワイライト・ヒーリング》』

 そう発した瞬間、セレスの全身を暖かな光が包み込んだ。それはエリュを支えた手からエリュの全身へと伝播し、エリュの全身を癒していく。


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