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名もなき者、ここに眠る

 よく見れば鳥居の境界線には薄い膜のようなものが張ってある。ゆらゆらと動いているように見えるが、触れてみると壁を触ったような硬質感がある。

「なんだコレ……」


 膜に触れ疑問を膨らませたエリュは、なにか情報がないかと周囲を見渡す。だが、周囲にあるのはなんの変哲もない森だけだ。鍵もなければ、膜を排除するギミックがあるわけでもない。

「参ったな……」


 エリュは硬質感のある膜を拳で何度か叩き、地面にしゃがみ込んだ。そして、足元に転がっている石を一つ拾い上げると、鳥居の方へと放ってみた。

「っ!! 通った。それじゃあ、この膜が拒んでいるのは人間だけ?」


 エリュはそびえ立つ鳥居を見上げると、今度は少し離れた場所に移動する。

「そっちが通す気が無いなら、こっちだって強行手段に出るよ──世界を覆う光よ。我が渇望に応え、すべてを穿つ槍と化せ《破光槍フラングルーメン》」


 エリュは振り上げた手を勢いよく振り下ろした。

 同時にグランドモスにトドメをさした時よりも数倍大きな光の槍が、周囲の木々を吹き飛ばす勢いで鳥居へと直撃する。

 ──ジリジリ…ズズズズ…!!


 鳥居の境界に張られた膜とエリュの槍が激しい光を放ちながら衝突する。鼓膜が裂けるような不快な音が響き、辺り一帯は激しく照らされた。

 あまりにもの眩しさにエリュは、腕で顔を覆う。


 しばらくそうしていると、今度はバリ……バリバリバリッという何かが壊れるような音が聞こえてきた。直後、凄まじい破砕音が響き渡る。

 思わず腕を退けて音の鳴った方を見れば、エリュの投擲した槍は見事に鳥居の膜を破壊していた。だが、膜と一緒に鳥居が壊れている。


「……あ、やっちゃった」

 後悔してももう遅い。

 エリュの前には、無惨に砕け散った鳥居だった瓦礫が転がっている。幸運なのは、崩れたのは無数に並んでいる鳥居の前の方五つくらいであることだ。

 しかし、壊れた五つの鳥居の先には、あいも変わらず膜が張られている。つまり、エリュは無為に鳥居を破壊したことになる。


「こ、この施設って一応王家のだったよね……マズいかな──マズいよね」

 呆然と瓦礫と化した鳥居を見つめていたエリュは、小さくため息を吐いた。

「仕方がない──証拠隠滅しよう。鳥居なんていっぱいあるし、バレないって」

 自分を鼓舞するように言い聞かせたエリュは、瓦礫を持って鳥居群の近くに生えている木の裏へと瓦礫を隠した。


 そして、残りの瓦礫を片付けようと鳥居の方を向いた。

「っ!! ……あれ、鳥居は?」

 先程まで大量に並んでいた鳥居群は、夢幻のように消えてしまった。

「どうなってるんだよ……さっきから変なものが見えたり消えたり、頭がおかしくなったのかな」


 エリュは頭を抑えて、鳥居があった場所を見つめる。

「あれ……瓦礫は見える」

 先程エリュが破壊した鳥居の瓦礫は、先ほどと同じ場所に転がっていた。

 エリュは慌てて瓦礫の方へと駆ける。すると、さきほどまで消えていた鳥居がエリュの目に映った。


「……もしかして、正面からじゃないと見えないのかな」

 エリュは鳥居の正面から少し外れた端に移動して、鳥居を横から覗き込むように確認してみた。

「見えない」

 再びエリュは鳥居を正面から確認する。


「見える……そういうことか。かなり巧妙に隠されているわけだね」

 自分の頭がおかしくなっていないことを確認できたエリュは、ほっと安堵の息を吐き、瓦礫を見つめた。


「残りも片付けるか──浮け《浮遊フロート》」

 すべての瓦礫を浮遊させたエリュは、瓦礫を先ほど瓦礫を隠した場所と同じ場所に隠した。

「よし。日も暮れるし帰るかな。残りはレーンとセレスと相談しよう」


 そう呟いて、もと来た道へと帰ろうとしたエリュは、瓦礫を隠した木の幹から少し離れた場所に鳥居の瓦礫と思わしき石の山が積まれているのを見た。

「……前にも誰かが来たのかな」

 警戒心半分、好奇心半分でエリュは積まれた瓦礫の方へと歩く。

「これは……」


 瓦礫の側には、驚くほど綺麗な白骨死体が転がっていた。

 まるで鳥居の瓦礫は墓石のようだ。

「この人──もしかしてアナスタシアさん? だとしたら、あの光の玉がここを知っていたことにも納得がいくよね」


 そう一人納得したエリュは、静かに白骨死体を前に膝を立て、黙祷するように目を閉じた。

「お墓を作ろう──この人が誰であっても、野ざらしは可哀想だよね」

 黙祷を終えたエリュはそう呟き魔法で穴を掘って、掘った穴に骨を埋葬して墓標を立てた。

 そこに『名もなき者ここに眠る』と掘ってエリュは帰路へと付いた。


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