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通れないってマジ?

 一時間後。

 前回訪れた際より早足で移動を続けていたエリュは、先の大地に草木の一つも生えていない焦土と化した土地を見つけた。

 その土地は綺麗な円形の土地で、ミステリーサークルのようにも見える。

 特にその土地の中央に立っている数十メートルの炭化した柱が目を引いた。


「あれ? こんな場所あったっけ?」

 エリュが歩いている辺りは先日まで鬱蒼とした森の中だったはずだ。断じて終末世界のような大地はしていなかった。

「……あ」


 炭化した柱に向かって歩いていたエリュは、柱の側に巨大な穴を見つけて歩みを止めた。

「これ……俺がやったんだ」

 グランドモスを倒す際に使用した火薬がこの惨状を引き起こした。


 雄大な大自然を破壊してしまったことに、エリュは罪悪感を抱く。だが、穴に近づくに連れてそれは恐怖へと変わっていった。

 なぜなら穴の底には──見覚えのある化け物がいたからだ。周囲の地形を一変させるほどの爆発を受けながらも、『それ』は生きている。


 しかし、無傷とはいかなかったようで、見るも無惨な姿になっていた。

 強靭な鱗は剥げ落ち、翼は完全に焼け落ちている。また、火薬を口に入れていたせいで、口内を中心に酷く爛れた状態となっていた。

 まるでゾンビのようなその姿には先日までの脅威さは感じない。ただただ、哀れで酷い光景だった。


 その光景を見たエリュは、穴の底へと足を踏み入れる。そして、穴の底で静かに息をしているグランドモスの前に立った。

 グランドモスは、眼の前にエリュがいるのにも拘わらず、身動き一つせず苦しげに息を繰り返している。


「……ごめん。そこまで苦しめるつもりは無かったんだ……今、楽にするから」

 エリュはグランドモスに手のひらを向けた。

「──世界を覆う光よ。我が渇望に応え、すべてを穿つ槍と化せ《破光槍フラングルーメン》」


 直後、頭上にグランドモスの全長に匹敵する巨大な光の槍が出現した。それを確認したエリュは、右手を頭上に持ち上げた。そして、グランドモスへ向けて勢いよく振り下ろす。


 同時に光の槍は、文字通り光となって目にも止まらぬ速度でグランドモスへと飛んだ。直後、炭化したリュナンの大木に匹敵するほどの大きな粉塵が舞い散る。

「けほっけほっ……」

 エリュは手を降って砂埃を払い、粉塵が落ち着くのを待った。

 そして、粉塵が落ち着いたあとグランドモスを見たエリュは、静かに背中を向けた。


「……転移門を探そう」

 背を向けたエリュの背後には、巨大な光の槍が背中から地面まで突き刺さったグランドモスの姿があった。

 かつてエリュを襲ったその化け物は、苦しみから開放され安らかに眠っている。グランドモスを貫いた光の槍は、まるで墓標のようにそびえ立っていた。


         ◆ ◇ ◆ ◇

 グランドモスとの再開から更に四時間後。

「……完全に道に迷った。ここどこ?」

 焦土と化した大地帯はとうに抜け、空すら見えないほどの深い深い森の中にいた。周囲の景色が見えないため方向確認用に目印にしていた崖すら見えない。

「迷子だぁ……助けてぇ」


 情けない声を上げながらふらふらと歩き続けるエリュ。

 そうしていると突如、南東方向から手のひら程の光の玉が飛んできた。そして、光の玉はエリュの周囲を三回ほど回転した。

「わっわっ! なになにこれっ!」


 エリュは光の玉から逃げるため、五十メートルほど駆けた。しかし、光の玉はエリュの背後をピッタリと付けてくる。

「……なんだ、これ。襲ってこない?」

 足を止めて光の玉を見つめる。

 その瞬間──光の玉が光った。


 同時にエリュの脳裏を様々な情景が駆け抜ける。それらの光景は不思議なことにエリュの知っている光景だった。

 エリュが前世の記憶を取り戻してから度々見ていた不思議な夢。

 フィーネと一緒にいた『アナスタシア』と呼ばれていた不思議な少女の夢。

 それが溢れ出すようにエリュの脳裏を駆け巡る。


「…………」

 エリュは頭を抑えて情報の奔流が静まるの待ち、ゆっくりと顔を上げた。正面には、まだ光の玉が浮いている。その様子はまるでエリュを見守っているようだ。

 それを見てあり得ないと思いながらもエリュは問う。

「アナスタシア……さん?」


 夢の中でアナスタシアが底なしの断層から落ちてしまったという話をエリュは見た。あの夢が現実に起こったことならば、彼女がここに居てもおかしくはない。

「もしかして、あれは夢じゃない?」

 エリュの呟きに光の玉は首肯するようにエリュの周りを一回転した。

「なら、俺の名付け親はあなたで──」


 そこまで言って言葉を切ったエリュは、改めて光の玉を見る。その姿には人間らしい面影は一切存在していない。それどころか物質的な肉体すら持っていない。

 ならば底なしの断層から落下したアナスタシアの結末はただ一つだ。

「でも……もう死んでる。俺と同じようにここ(ドラン大森林)に来て……何年も前に」


 エリュの問いに光の玉は、先程よりも弱々しくエリュの周りを一回転した。そこから肯定と無念さを読み取ったエリュは、静かに息を吐いた。

 同時に非現実的な光景を見て混乱していたエリュの頭に、『現実』が戻ってきた。その『現実』を見て、冷静になったエリュは首を横に振る。


「……いや、でも。世界の仕組みからして幽霊なんてあり得ない……幻覚なのかな」

 そのつぶやきを聞いたのか、光の玉は左右に往復移動した。幻覚にしては行動に明確な意思のようなものを感じる。

「……じゃあ、本物?」


 エリュの問いに光の玉は再びエリュの周囲をくるりと一周した。

 それを見てエリュは迷った。

 ドラン大森林には多種多様な魔物がいる。この光の玉がそれらの一種である可能性は否定できない。だが、『アナスタシア』を自称する光の玉を信じたくなってしまった。


 そこに明確な根拠や理屈などない。

 ただ、そうしたいと思ったのだ。

「もしかして、俺達を助けてくれるんですか?」

 光の玉はエリュの周囲を一周する。

「貴女についていけば……ここから逃げられる?」

 その問いに光の玉は弱々しくエリュの周りを一周した。

 確証はないが可能性はある。と、そのように受け取ったエリュは遠慮がちに口を開く。


「じゃあ……教えてもらっても?」

 光の玉はエリュの周りを一周してそのまま一直線に進み始めた。その光の玉を追ってエリュはより深い森の中へと進んでいった。

 更に一時間後。

 光の玉は木々の間を抜けながら先行し、エリュが付いてきているか確認するように時々止まる。それを何回か繰り返している内にエリュは大きな鳥居の前にたどり着いた。


 建設から時間が経過しているのか、赤色が抜け落ちているような古びた鳥居だ。

「え、神社? どういうこと?」

 エリュは鳥居の眼の前まで移動する。

 鳥居の先には同じ様な形をした鳥居がいくつも置かれており、鳥居の道がどこまでも伸びていた。


「なんか神聖な感じがする……あの。これが転移門ですか?」

 エリュは背後にいる光の玉を見た。

 しかし光の玉は初めからなにもなかったように、どこにも存在していなかった。背後に広がっていたのは、光を通さない薄暗い森だけだ。


「……夢だったのかな。だとしても──ここまでたどり着けた。ありがとう」

 もう見えなくなってしまったアナスタシアに謝辞を述べ、エリュ鳥居を見上げた。

「よし。通ってみるか」

 エリュは神様の通り道とされる鳥居の中央を避け、端の方を選んで一歩を踏み出す。


 しかし──

「痛ったっ! うえぇぇ⁉」

 鳥居を潜ろうとした瞬間、まるで巨大な岩に頭をぶつけたような硬い衝撃がエリュを襲った。


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