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戦利品? 食べちゃった

「餌が落ちるぞっ!」

 エリュは声を上げてグランドモスの注意を引く。餌が落下してきたと思ったグランドモスは大口を開けてエリュが落下してくるのを待つ。


 先に樽が落ちているのだが、どうやら不純物も一緒に食べるつもりらしい。

 しかし先に落ちた樽は、エリュが横並びに縛り付けていたせいで想像以上の大きさになっており、グランドモスの口にすっぽりとはまり込んだ。

「やった! それじゃあ。浮け《浮遊フロート》!!」


 エリュは浮遊魔法を使用して速度減衰を図ると、そのままグランドモスが口に含んでいる大樽の上に降り立った。

「ねぇ。食べないの? 餌が眼の前にあるよ?」


 エリュの煽りを認識しているのか、グランドモスは大樽を飲み込もうと喉を動かし始める。だが、固まっている大樽は簡単に飲み込めないようで苦労している。

「ほらほら。はやく」


 わざと急かし、大樽が十分に飲み込まれたのを確認したエリュは、その場から飛び退き、素早く詠唱を行う。

「大地よ。天地を揺るがす力を解き放て。崩壊せよ《大地破壊フォッサ・テルリス)》」

 エリュの詠唱と同時に地割れのような音が響き、大地が大きく陥没し、グランドモスは大穴の底へと落ちた。それを確認したエリュは、セレスの方へと駆け出す。

「セレスっ、レーン!! 走れっ!」

 エリュの掛け声に素早く反応したセレスとレーンは同時に駆け出した。セレスはリュナンの実を落とさないように必死になっているため、走る速度が遅い。

 それでも無事に一〇〇メートル近く離れることができたエリュたちはほっと安堵の息を吐いた。そう思ったのもつかの間、レーンは鋭い目をしてエリュに噛みついてくる。

「急に飛び降りるからびっくりしたでしょ! 何考えてるの?」

 答えを返す間もなく、セレスの方も目を輝かせてエリュに迫ってくる。

「ねぇ、あのドラゴン倒したの?」

 セレスとレーンはエリュに早く答えろと、グイグイ迫ってくる。エリュは二人を落ち着かせるようにジェスチャーを行うと、口に大樽を嵌めたまま穴から這い上がろうとしているグランドモスの方を指さした。


「まだ終わってないよ」

「ひっ! ど、どうするの?」

 セレスが不安そうにエリュの服を引っ張る。

 エリュは微笑むと、大穴の方へ手のひらを向けた。


「大いなる炎よ。烈火の咆哮を解き放ち、全てを焼き尽くせ《業火インフェルノ》」

 その瞬間、エリュの魔力に反応した魔素がグランドモスの口内を中心にして事象改変を引き起こす。


 幾度の強敵の討伐により、エリュの魔法はここに来る前よりはるかに威力を増している。だが、大樽の中に入った火薬を着火させたことでより巨大な爆発が生じた。

 その爆発はエリュの想定していた爆発規模を優に超えた爆発だった。


 魔法を唱えた瞬間──リュナンの大木に匹敵する爆炎が穴から吹き上がり、爆発の衝撃波が周囲の森の木々を薙ぎ払った。

「やばっ」

 そう呟いた瞬間、エリュ達も同様に衝撃波に晒され、紙のように吹き飛ばされた。


        ◆ ◇ ◆ ◇


 目を覚ますと、エリュは再び洞窟の中にいた。

「……夢?」

「あ、目が覚めた?」


 ぬいっと視界にセレスの整った顔が入り込んでくる。まだ寝ぼけていたエリュは、それを見て化け物が来たと勘違いしてびくっと震えた。

「っ──ってなんだ、セレスか」


「なんだってなに? もうちょっと労ってよ。怪我したエリュを連れて帰ってきて、リュナンの実も持って帰ってきて、エリュの怪我だって治したのにっ!」

 そう言って、頬を膨らませたセレスの様子を見て、エリュは先程の戦闘が夢ではなかった事を知った。


「そうだったんだ。ありがと。ところで、グランドモスは死んだ?」

「さぁ? あのドラゴンのことなら、見てないから分からない。でも、流石にあの爆発なら死んだんじゃないかな?」

「まぁ、鱗の覆われてない口の中で爆弾を爆発させたしなぁ。生きていたとしても瀕死だと思う。まぁ、能力の上がり方を見ればわかるかな」

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 エリュ・アドミス

 総合戦闘ランク:E

 力:F(F41→F61) 耐久:F(G49→F79) 器用:F(F63→F89) 

 敏捷:F(F61→F91) 魔力:A(C279→A364)

《使用魔法》

【初級炎魔法】【初級水魔法】【初級風魔法】【初級土魔法】【初級光魔法】【初級闇魔法】

【中級炎魔法】【中級水魔法】【中級風魔法】【中級土魔法】【中級光魔法】【中級闇魔法】

《才能》

【魔力・魔法技能成長上限なし】【剣術】【気力付与】【聖力付与】【自己洗脳】【シスコン】

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「ど~お?」

 エリュの顔を覗き込みながらセレスは問う。それに対してエリュは笑顔で頷いた。

「うん。この上がり方は多分倒してるな。魔力がAに到達したよ」

「へっ? A?」


 セレスは目を丸くして固まったが、すぐに「当たり前か」と納得した様子で小さく頷いた。

「そう言えば、エリュは記憶持ちだもんね。魔力の成長が他の人より早いのかな?」

「どうなんだろう? 成長速度は同じだと思う。ただ、成長上限はないからそれが関係してるのかも」


 エリュとセレスは揃って首を傾げる。

 すると、それを聞いていたレーンが呆れ果てた様子で大きなため息を吐いた。


「一般人はランクが上がる時に、今までの常識を塗り替えるような体験をしないといけないの。エリュには魔力の成長に上限がないから得た経験だけ成長してる。それだけだよ」

「お~なるほどね」

「あと普通は数十人単位で戦う魔物に対して、エリュは一人で挑んでいるから……。そのことが影響しているのかもしれないね」

「確かに。そっちの理由の方が大きいかも」


 納得してエリュは頷く。同時に腹部からクルクルとお腹が鳴った。

 すぐに顔を伏せると、エリュは顔を真っ赤にする。

「お、お腹すいた……」

「リュナンの実もちゃんとあるよ。はいっ」

 セレスはお腹を押さえたエリュの近くまで歩くと、手に乗せていたリュナンの実を手渡してきた。


「ありがとう……貴重な食料だから大事にしないとね。一日一個とかかな」

 そう言うと、セレスが気まずそうにエリュから視線を逸した。

「……なに? 急に顔を逸らされると怖いんだけど」

「…………私、九個食べちゃった。ごめん」

「残りは?」


「六個くらい?」

「……まぁいいか」

「え、いいの?」

「良くないけどっ! でも食べちゃった物は仕方がないじゃん。だから一日一個しか食べないようにしよう。分かった?」


 エリュの言葉にセレスは頷く。その後ろで話を聞いていたレーンも小さく頷いた。

 それに気がついたエリュは、レーンの方を向く。

「レーンも食べたの?」

「うん。だから私の分は気にしないで」

「分かった」


 そんな会話をしていると、セレスは急に洞窟の外をぼーっと見て小さくため息を吐いた。

「お父様心配してるかな……」

 寂しげな背中を見せるセレスを見ながらエリュはリュナンの実を頬張る。何気に初めてリュナンの実を食べたのだが、見た目同様に味も林檎のような味だった。

「無事に帰れるといいなぁ」


 膝を抱いてセレスはぽつりと呟く。その背中は少し寂しそうだ。セレスの背中をしばらく見ていたエリュはリュナンの実を食べるのをやめて口を開く。

「捜索隊とかなら来るかもね」

「来てほしいなぁ~」


 淡い期待を抱いている様子のセレスの呟きのあと、レーンの方からぽつりと独り言のような呟きが聞こえてきた。

「来ないよ」

 妙に断定的なその言い方をしたレーンに引っ掛かったエリュは首を傾げる。

「どうして断言できるの?」


「エリュが思っている以上に大人達はドラン大森林の深部を恐れているの。ここに入ったら、その時点で死んだと断定される。生きているならともかく、死んでいる人間のために大人はここに来ない」

「……そう言われると、そうだね」

 レーンの説明に納得してしまったエリュは落胆した。


 事実としてエリュの周りの大人や自警団はドラン大森林を極度に恐れている。自警団が定期的に底なしの断層を警備するのもドラン大森林の化け物が地上に登ってくることを恐れているからだ。

 だからわざわざ好き好んで助けになど来ない。

「……仮にもセレスはお姫様だから可能性はあるかなって思っちゃったけど……ダメか」


 救助隊に期待するというのは現状の脱出プランとは別のより現実的なプランだったと思っていたため、それが打ち砕かれたエリュの頭はガクリと下がった。

 しばらくして顔を上げると、何故かセレスがこちらを怪訝な眼差しで見つめていた。


「……もしかして、『借りにもお姫様』って言ったこと怒ってる? ごめんって」

「うん?」

 不思議そうな面持ちで頷いたセレスは、スッと洞窟の外へと視線を戻した。

「帰りたいなぁ……」

 寂しそうに呟いたセレスを見て、居た堪れなくなったエリュはリュナンの実を口に詰め込むと立ち上がった。


「一回外回りしてくるよ。魔力もAになったし、多分怪我もなく帰ってこれると思う」

「あ、うん。行ってらっしゃい。どっちに行くの?」

「一旦グランドモスの死体を確認してくる。そのあと、北西方向にダラダラ歩いてみる」


「絶対帰ってきてね?」

「分かってるよ。放っておいたらセレスは死んじゃうだろ?」

 セレスはコクコクと頷くと、少し不安げにエリュを見つめた。その様子はエリュと一緒に移動した方がいいのか、洞窟にとどまった方がいいのか迷っているように見える。


 エリュはそんなセレスを安心させるように微笑んだ。

「大丈夫だって。洞窟の入口は塞いでおくし大丈夫だよ」

「うん。分かった」


 明るく言ったエリュは、洞窟から出て安全確認をした後、北西方向へ向かって歩き始めた。


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