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餌も木から落ちる

「なんとか、生きた……」

 エリュは安堵の息を吐きながら地面に座り込む。

「爆弾とか……反則だよ」

 そう呟いたエリュの背中を大きな影が覆った。


 しかし戦闘を終え、気が抜けているエリュは気がつかない。

「エリュっ‼ 後ろッ‼」

 未だに頭を抱えて蹲るセレスの横で、レーンが声をあげた。

 その声を聞いた瞬間、エリュは跳ね上がるように飛び上がり、素早く体を背後へ向ける。振り返った先には、不自然に背中から翼を生やした巨獣が飛んでいた。

 大きさは十メートルを超え、全身を固いうろこで覆ったドラゴンを彷彿とさせる化け物。

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 グランドモス

 総合戦闘ランク:A

 力:A(442)耐久:S(472)器用:B(357) 

 敏捷:B(338) 魔力:S(520)

 特徴:地竜と呼ばれる魔物の一種。強靭な鱗は刃を通さず、魔法も弾く。胃袋は大きく、常に空腹であり、例え狩りの最中でも餌が飛んでくれば口を開く。また、魔法を使用し、獲物を効率的に狩ることで知られている。

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「な、なんで次から次に……」

 エリュの呟きは、グランドモスの体表に浮き始めた岩石のぶつかり合う音で掻き消える。それを見て、魔法の兆候を察知したエリュは、その場に倒れ込むように地面に伏せった。


 その直後、エリュの頭があった場所を三〇センチ大の巨大な岩が通過した。そのまま岩は近くの倒木に衝突し、爆散する。倒木は一瞬で木くずとなった。

「──っ‼」

 エリュは声にならない悲鳴をあげるが、その隙にエリュを取り囲むように四方八方に岩石が浮いた。

「お、怒ってる?」


 言うが早いか、エリュが倒れ込む場所に岩石が落下してくる。それを転がって避けたエリュは、立ち上がろうとする。

 しかし、グランドモスはその隙を与えず、次々に岩石を落としてきた。

 たまらず転がって避けたエリュは、そのままゴブリンたちが潜んでいたリュナンの大木へ転がり、木を盾にした。


「やばいって。あんなの当たったら、体がバラバラになっちゃうよ」

 そんな悲鳴にも似た愚痴を垂れた直後、グランドモスは大きく木を旋回してエリュの隠れる木の面に移動した。慌てて反対の木の裏に隠れたエリュは、リュナンの木を見上げ、活路を見出した。


「浮け《浮遊フロート》」

 自身の体を風で浮かせたエリュは、先ほどまでゴブリンが潜んでいたリュナンの木の枝の上に移動した。しかし、グランドモスは翼を広げて、エリュの隠れた木の枝の方へと飛んでくる。それを見たエリュは、再び手を鉤爪状に折り曲げた。


「降り注げ《光のライト・アロー》」

 そう叫びながら手を振り下ろす。直後──エリュに向かって直進していたグランドモスに光の矢が降り注いだ。

 降り注いだ矢のほとんどは、硬質な鱗に弾かれ砕けて消える。鱗に傷は一つも付かず、まったく魔法の効力はない。しかし──降り注いだウチの数本はグランドモスの羽を貫いた。


「鱗が覆ってない部分は攻撃が通るのかっ──ならっ‼」

 エリュは再度手を鉤爪状に折り曲げると、羽に穴が開き、ふらふらと飛行するグランドモスの羽に向かって《光のライト・アロー》を繰り出した。

 今度の一撃は、的確にグランドモスの羽を貫き、揚力を得られないほど大きな穴を作った。グランドモスは真っ逆さまに落下すると、ピクリとも動かなくなる。


「やった?」

 そう呟いた直後──

「グラアアアアアアアアアアアッ!!」

 大地が大きく揺れるほどの叫び声が響いた。同時にエリュに向かって巨大な岩石が飛翔してくる。

「うわわわわっ!」


 慌てて別の木に登って飛来してくる岩石を回避した直後、さきほどまでエリュが立っていた木の枝は木っ端微塵に砕け散った。

「羽を潰しても飛び技があるんだった。どうすればいいんだ……」


 グランドモスを倒す方法が思いつかないエリュは、助けを求めるかのように頭上を見上げた。その視線の先には、リュナンの実がたくさんついた太い枝葉が広がっている。そして、その枝葉にそうように、何かが作られていた。

「ん? あれは……」

 慎重に木の上を移動してみると、ツリーハウスのような施設が見えた

「ひょっとして、あれがゴブリンの住処? 何か、戦いに使えるものがあるかも」

 現状手詰まりのエリュは、そこに希望を託して木を登ってツリーハウスを目指す。上に伸びる枝に向かって飛び乗って、飛び乗って、飛び乗る。

 しかし、グランドモスはエリュを叩き落そうと、下から順に枝を破壊していく。エリュは足元から追われるような形で急いでツリーハウスに繋がる枝に移動した。


「や、やっと着いた……」

 息を切らしながらツリーハウスに入ると、中には、大タルが大量に設置されているのが見えた。他にも木の実や肉、紐なども置かれているが、腐っており異臭を放っている。


 エリュは鼻を摘まみながら大樽の前に立つ。

「何これ……まさか腐った肉を樽に詰めてるとか、ないよね」

 恐る恐る大樽を覗き込むと、中には大量の水が入っていた。液体は透明で匂いも特にしない。しかし、妙に粘度があるように見える。

「これ水? 水にしては、う~ん──鑑定してみるか」


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 液体火薬

 特徴:ソルジャーゴブリンの生成した爆薬。大樽一つで二〇〇メートルを焦土にする威力がある。使用注意。

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「げっ。こんな物が蓋開けっ放しで大量に置かれているのか? 危機管理能力どうなってんの?」

 あまりに杜撰な扱いに絶句したエリュは、ツリーハウスの中を見渡した。相も変わらず汚いが、腐った食材の側に丁度たるにフィットしそうな円形の板が置かれていることを発見した。


「お、あれ、蓋かも」

 エリュは円形の板に近づいて念入りに調べると、小さく頷いた。

「よし。蓋だ」

 エリュは蓋をすべて手に取ると、開きっぱなしの樽に蓋を取り付け、一仕事をした気分になって汗を拭った。


「ふぅ……完了」

 直後、ドカンッと世界が割れたと錯覚するような強い振動がエリュを襲った。

「うわわわっ!」


 油断していたエリュはバランスを崩して勢いよく床に臀部を打ち付けた。涙目になりながらも立ち上がると、エリュはツリーハウスの下を覗き込んだ。

 木下では、一向にエリュが降りてこないことに焦れたグランドモスがリュナンの木の幹に向かって突進を繰り返していた。


「って、やばっ! ツリーハウスが傾いてきてる」

 振動でツリーハウスに傾斜ができる。傾いた結果、いくつかの液体火薬を含んだ樽が転がってそのまま地面に衝突して弾けた。その様子を見ていたエリュは顔を青くした。


「こ、このままじゃ同じ結末を辿っちゃうよ。やるしかない……」

 と、自分に言い聞かせるように言ったエリュは、ここに来た理由を思い出した。

「そうだ。リュナンの実を取りに来たんだった……どうなるか分からないし、回収しないと」


 定期的に訪れる振動に耐えながらエリュは周囲の枝葉に実るリュナンの実を回収すると、《浮遊フロート》の魔法をかけてレーンたちがいる方向に力強く投げた。

 一方のレーンとセレスは、突如木の上からリュナンの実が飛んでくることに驚いていたのだが、それがエリュからのものだと分かると、安堵した様子になった。


 そして、セレスはスカートを使ってリュナンの実を回収し始めた。

「よしよし……それじゃああとは、あいつだけだ。羽は潰したからあいつは飛べない。なにか策はないかな」


 個人の力ではどうにもならない化け物を倒す手段を練っていたエリュは、ツリーハウスの中を物色する。しかし、まともなものはなく、結局最初に見つけた火薬入りの樽に視線は戻って来る。

「はぁ。これしかないか」


 諦めるように呟いたエリュは、ツリーハウスに置かれていた紐で大タルを四つほどまとめて縛り付けた。その後、再び木の下を見る。

 グランドモスは、ツリーハウスのちょうど真下でエリュが落下してくるのを待っている。


「今すぐ行ってやるからちょっと待ってな」

 エリュはそう言ってから大タルを蹴り飛ばし、木下へと突き落とす。

 続けてエリュも木から飛び降りた。


ブックマークとか評価が増えずモチベーション下がってました。

最後まで駆け抜けます

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