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転移門を探そう

「エリュって……記憶持ちなの?」

「……うん。でも記憶持ちって結構いるでしょ?」

「そんなことないよ。三〇年に一人とかそれくらいの頻度でしか出てこないから」

「そうなんだ……」


 転生してから記憶持ちが偉業を成した。という話を幾度も聞いたため、記憶持ち自体が高頻度で生まれてくると思っていた。

 そのため、エリュは自分の常識知らずの具合に呆れてため息を吐き出した。

 一方で、セレスは好奇心が押さえられないらしく、興奮気味にエリュに向かって質問を繰り出す。


「記憶持ちって善人しかいないってよく聞くけど、本当?」

「それは前世の話だね。前世の記憶は知識と経験の記憶が大半を締めてるだけで、人と関わったような記憶はまっさらになってるから、今世でも善人かどうかは別だね」

「そうなんだ……」

 呟くように言ったセレスは、依然としてエリュのことを好奇の眼で見つめてくる。


 なにか探るような、そしてエリュを見定めるような不思議な視線にエリュは戸惑いつつ、口を開いた。

「あんまり言わない方が良いのかな?」

「言わない方が良いと思う。記憶持ちって宗教的にも強い意味があるし、よく分からないけど、大人も記憶持ちと記憶持ちの血がほしいみたい」

「それは言葉通りの血液って意味じゃないよね?」


「うん。記憶持ちの血を引き継いだ子どもって意味」

「ふ~ん。なんでだろ? 記憶持ちが特殊な力を持ってるだけなら、血を引いた子どもまではいらなくない? これも宗教的な意味があるのかな? 神様に会った人物の子どもだから価値があるってことかな」

「わかんない。お父様はまだ早いって教えてくれないから」


 困り顔でセレスは言う。

 その様子を見るに、嘘をついているという訳では無さそうだ。

「ちなみに、俺が会った女神ってセレスの信仰してる神様と一緒なの?」

「うん。初代国王が記憶持ちでその人が作った宗教だから合ってると思う。シリア様っていうの。聞き覚えない?」


「……名前聞いてないからなぁ~。まぁ、バレちゃダメっていうなら、あんまり記憶もちとは言わないようにするよ」

「うん。それがいいと思う。でもこの国は記憶持ちに優遇措置を取ってるから、意外とバレても大丈夫かも?」

「優遇措置ってなに?」

 エリュが首を傾げて質問をすると、セレスは恥ずかしそうに顔を伏せた。そして何故か顔を赤らめながら首を横に振る。


「い、言えない」

「なんで?」

「は、恥ずかしいもん。エリュが記憶持ちってバレたらいずれ分かるからその時にしない?」

「はぁ……まぁいいけど」

 渋々納得した直後、洞窟の奥に目を向けると、ちょうどレーンが起き上がるのが見えた。


「それじゃあ今日も転移門探し頑張るか」

 エリュはそう言いながら立ち上がると、深い溜め息を吐き出す。

「今日で転移門が見つかればいいけど……」

「そうだね。まだ、全然西側とか見てないから。そっちの方も行ってみようよ」

「うん──ところで一個疑問があるんだけど、聞いても良い?」

「いいよ? なに?」


「転移門と一緒に隠されてる王家の秘宝ってなんなの?」

 エリュが問うと、セレスは悩むような素振りを見せる。おそらくは言ってはならないものなのだろう。

 そう思っていると、セレスはゆっくりと口を開いた。

「……死者蘇生の書、って言われている魔導書だよ」

 それを聞いた瞬間、知ってはいけない情報を知ってしまったような気がして、背筋が凍っていくような感覚に襲われた。


 もし、それが事実なら間違いなく国宝級。そして、国家として国民には隠蔽したいものだろう。こんな地獄のような森の中に隠すのも頷ける。

「でも……それって本物なの? 天寿を全うせずに死んだ人の魂は消える。蘇る訳が無い」


「わからない……でも本物だって言われてる」

「そっか……まぁ、そういう逸話があるっていうなら、大分厳重に隠されてるだろうね」

「うん。細かく探さないと見つからないかも」

 エリュはセレスの言葉に頷くと頭だけ洞窟から出して、周囲に脅威がいないか確認した。

「……大丈夫そう。行こう」


 エリュは先陣を切って沼地に一歩足を踏み出す。同時にグルグルと音を立ててお腹が鳴った。

 反射的にお腹を抑えると、太陽を見上げた。

「そう言えばご飯食べてないなぁ」

 ポツリと呟いたエリュの背後からレーンが近づいてくる。


「そう言えば、底なしの断層の上から大きなリュナンの木が生えてるの見えたよ」

「え、本当? どっち?」

 エリュの空腹を訴える表情にレーンは苦笑すると底なしの断層を見て、方角を確認した。その後、北西方向を指さした。

「こっちの湖を超えた先かな」


「わかった。そっちに行こう。セレスも構わないかな?」

 エリュはレーンとの話を聞いている前提でそう言ったのだが、寝ぼけているのかぽけーっとエリュを見つめるセレスは不思議そうに顔を傾げた。

「何の話?」


「お腹すいてないかって話。北西側にリュナンの実がついた木があるらしいよ」

「そうなんだ。じゃあそっち行こうよ。私もお腹すいたし」

 そう言ってセレスはエリュの指さした北西方向へ歩き始めた。


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